多品種微量・完全受注生産 -東海バネ工業株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2018年3月

2014年から当メルマガでは、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載43回目の今回は、大阪府大阪市で金属ばね設計・製造・販売を行う、東海バネ工業株式会社(以下、T社)の池クジラぶりを見ていきたい。

T社は、1934年3月、南谷三男氏が創業した。

現社長の渡辺良機氏(以下、W氏)は、大学卒業後、別の会社に就職していた。

創業者の子供3人が全員女性だったことから、遠縁にあたるW氏に後継の声がかかり、4年間に渡り口説かれ続け、遂に1971年に入社、1984年に社長に就任した。

T社は、創業以来80年以上に渡り、ばね一筋、他社がやりたがらない仕事を引き受け、お客様の要望に対応してきた。

その結果、従業員数86名の中小規模でありながら、明石海峡大橋の土台部分を支えるばねや、東京スカイツリーの揺れを抑制する制振用ばね等に採用されている。

ではなぜ、T社のばねがこれほどまでに活用されているのだろうか。

1つ目は、平均受注ロット5個の多品種超微量・完全受注生産で1個からの製作に応じているからだ。

ばね工業会の欧州視察に参加したW氏は、「単品特化のばね屋が値引きしたら消滅する運命」「人が嫌がる仕事は正当に評価されるべき」ことに気付いた。

その結果、非価格競争の世界に足を踏み入れ価格決定権を得たのだ。

値引き交渉をしてくる問い合わせには「他社をお探しください」ときっぱりお断りする。

また納期についてもT社の都合をご理解いただいたお客様の注文にのみ応ずる。

こうした対応を可能にしているのが、T社の情報活用のデータベースである。

注文が入ると、そのお客様の過去の発注履歴内の設計図面から、参考になる図面を瞬時に検索、今回の設計図面を提案できる。

さらに、必要な材料を管理する在庫管理とも連携し、見積管理システムを通し、いつ納品できるかすばやく提案できる。

その上、ばねの仕様・設計要求・条件は、お客様の専用ページで、今まで発注した全製品の発注履歴を確認することで再発注しやすいのだ。

2つ目は、お客様が必要とする品質のばねを永続的に作る体制構築にある。

T社では、最も重要なのは、ばねを作る匠の技と考えている。

製作には、国家資格である「金属ばね製造技術士」の資格が必要で、多くの有資格者を有している。

また、日本一難易度が高いと自負する社内資格制度を制定し、高度な技術を若手に伝承する仕組みがある。

さらに、手作業による匠の技の伝承だけではなく、その技術を落とし込んだ機械で、匠の技を再現することにも成功した。

T社は、ITを活用した完全受注生産体制と、徹底した匠の技の伝承により、数多くの注文が殺到し高く評価されている。

T社は、同業他社がやらない・できない「単品に特化した多品種微量・完全受注生産」に特化した金属ばね専門メーカーという「池」のクジラになった。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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