「作る」と「売る」のバランス -ケーキハウス・ツマガリ

経営

西浦道明のメルマガ 2016年12月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載28回目の今回は、兵庫県西宮市に店舗を構え、洋菓子の製造販売を行うケーキハウス・ツマガリ(以下、T社)の池クジラぶりを見ていきたい。

T社社長の津曲孝氏(以下、T氏)は、1972年、ある大手洋菓子メーカーに就職した。

26歳のとき、T氏は洋菓子の本場スイスで修業する機会を得たが、そこで初めて食べた洋菓子の味の素晴らしさに驚いた。

また、ゴミ箱に捨てられていた材料袋から、素材がいかに厳選されたものかを知り、レシピから、素材の良さを生かすため、作り方をいかに改良し続けているかを学んだ。

その後T氏は、勤務先から高い信頼を得て子会社の社長を任されたが、そこでジレンマにぶつかった。

会社で作る洋菓子は、大量生産方式で利益追及しなければならず、高価な食材を使うことは許されなかった。

「いいものを作ろうと思ったら味に原価計算はない。高価でも、自分の目と舌で納得したいい素材を世界中から仕入れたい」「職人として、お客様から『おいしい』と言われたい。いい材料を仕入れるためなら何も惜しまない」「お菓子は人の口に入るもの。お客様の命を預かっていることを真剣に心に刻み、食べたとき、おいしさが五臓六腑に染み渡るものを作りたい」と強く思うようになり、1987年、T社を創業した。

T氏の最高の素材へのこだわりを一部紹介すると、たとえば、T社の人気商品で1日1,000個以上売れるシュークリームでは、使用する牛乳にこだわり、岩手の自然放牧牛に限定している。

ストレスなく育てられた牛からは、1日に15リットルほどしか牛乳が採れない。
その為、仕入れ値は通常の3倍近い1リットル500円と高額だ。

そのほかにもバターは北海道十勝産のオリジナル発酵バター、砂糖はアルゼンチン産のオーガニックシュガーを使うなどとこだわっている。

作り方でも、クリームの味と香りを損なわないよう、機械ではなく手作りにこだわっている。

さらにクリームを作る鍋は、なべ底を削らないよう「木べら」でかき混ぜ、クリームに金属の味が移らないようにしている。

T社が作る素材にこだわったケーキのおいしさはたちまち評判となり、店には行列ができた。

しかし、素材に売値の3割という業界常識を無視し、4割以上かけた。

おいしいものは作れたが、利益が上がらず、店は存続の危機を迎えた。

T氏は悩み続けるうちに、たまたま見かけた宅配便から「ギフト用の焼き菓子」が閃いた。
そこで、生ケーキと同じ材料で贅沢な焼き菓子を作った。

すると、これが日持ちする上に手間が省け、材料にこだわっても利益が見込めるヒット商品になった。

また、日持ちするからといって作り置きせず、すべて注文を受けてから作るため、本当においしいものを届けることができ、さらに在庫を抱えなくてもいい商品となった。

「『作る』と『売る』のバランスが崩れるとおいしい洋菓子は作れない。お客様から求められる分だけしか作らない。洋菓子と日々向き合い、改良し続けるところに成長がある」とT氏は話す。

T社の工場は本店まわりだけにあり、「売れる」分だけ「作る」ことで、値段は少し高いが、厳選素材を使ったこれまでにないおいしい洋菓子の市場(池)を創り、そのクジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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