地方都市ならではの和食レストラン・チェーン -株式会社なすび

経営

西浦道明のメルマガ 2016年7月

2014年から当メルマガでは、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載23回目の今回は、静岡市を中心に14店の和食レストランを展開する株式会社なすび(以下、N社)の池クジラぶりを見ていきたい。

N社は1975年8月、現経営者の父が、清水市で17坪 25席の小さな飲食店を開店したのが始まりである。

先代は、外食産業の厳しさをよく知っており、当初、この店を一代限りで終えるつもりでいた。

ところが息子の藤田圭亮氏(以下、F氏)は、勤める大企業を3年で辞め、1998年、父親の反対を押し切って入社したのだ。

F氏が会社に舞い戻ったのは、父親の健康に対する心配もあったが、「父親を支えてきてくれた社員たちを路頭に迷わせていいのか」という思いからだった。

また、大きな組織の中にいるよりも、父親の事業の基盤を活かして、チャレンジしたいという気持ちも強かった。

そして、F氏は、苦労することを覚悟の上で父親の会社に入社した。

入社したF氏の強力な営業力により、5年後には売上が3.5億円から10億円にまで拡大した。

しかし、バランスシートの右側に、売り上げと同額の10億円という借金が積みあがり、5年間の努力の成果はないに等しいという厳しい現実に直面した。

営業力だけでは経営できないことを厭というほど知ったF氏は、必死に「経営実学」を学んだ。

そして、「静岡の食文化の創造と発信」を通して「お客様に喜んでいただくこと」を使命とし、「この街に必要とされ続け、この街になくてはならない資産となる」ことをN社の目指す価値とした。

その上で、画一的なチェーン展開でなく、 1店1店コンセプトの違う様々な形態の店舗をつくりあげた。

それほど広くない静岡市内に軸足を置いて、事業を拡げて行くには、同じような店は要らない。

訪れる人のシチュエーションやその日の気分にあわせて使い分けのできる、それぞれが全く違うスタイルやセンスをもつ店が求められているということにF氏は気づいた。

また価格面も、大手居酒屋チェーンなどより高く本格的な料亭よりも安い、競合がいない市場(池)を狙った。

これにより「安いチェーンは嫌だが、高級店は敷居が高い」と感じる層の需要を開拓し、どの店も順調に売り上げを伸ばしていった。

さらにそれぞれの店舗では、地元の食材や特産品を積極的に取り入れ、ここでしか味わえない地産地消の味を提供することで「地域を発信」し、お客様への希少価値を生んでいる。

また店舗で使う食器類等の器も、静岡の伝統工芸品を使い、地元に密着した事業展開を行なっている。

N社は、大都市に展開する一般のレストラン経営の非常識に挑戦し、地方都市静岡ならではの和食レストラン・チェーンという市場(池)を創りあげ、その池クジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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