おいしさにこだわる独自のブランド豚 -株式会社埼玉種畜牧場サイボクハム

経営

西浦道明のメルマガ 2016年5月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載21回目の今回は、種豚育成からハム・ソーセージ等の食品販売まで、完全一貫経営を行う株式会社埼玉種畜牧場サイボクハム(以下、S社)の池クジラぶりを見ていきたい。

笹崎龍雄氏(以下、S氏)は、1946年9月日本の終戦(1945年8月15日)をきっかけにS社を創業した。

S氏は、終戦を激戦地フィリピンで迎えた。

将校の多くが「全員自害すべし」と叫んだが、「責任をとるのは私1人でよい。君たちは全員帰国し祖国の復興・発展のために身を捧げよ…」という司令官の命令により、S氏の命は繋ぎ止められた。

1946年1月、5年ぶりに生還したS氏は、祖国のあまりの荒廃ぶりに涙が止まらなかった。

そんな中、「食こそ人間の根本」と考え、自ら農業経営に乗り出すことを決意した。

創業当初は、乳牛・豚・鶏を事業の3本柱にしたが、経営は決して順調ではなかった。

特に、農業組合法人でなく株式会社としてスタートしたため、国からの農業向けの補助金や低利・長期の融資制度を受けることができなかった。

経営は苦しく、酪農事業・養鶏事業を次々と閉鎖し、残された養豚事業に社運をかけ、豚の育種改良に取り組むことにした。

研究に研究を重ね、遂に1975年、おいしさを突き詰めた「サイボクゴールデンポーク」を完成させた。

これにより、漸く「養豚事業が軌道に乗る」と思われたが、当時の食肉流通業者の格付けに「おいしさ」の物差しがなく、高い評価を得ることができなかった。

S氏は、それなら直接一般消費者に問うしかないと考え、1975年8月、牧場内にわずか6 坪のミートショップを開店させ、生産直売を始めた。

消費者の評価は非常に高く「新鮮でおいしい、牧場の生産直売は珍しい」「S社のお肉はおいしい」とうわさが広まり、小さいながらも、地域の人気店となった。

その後、牧場内に、豚の精肉やハム・ソーセージの加工場、直売スーパー、レストラン、カフェテリア、野菜・花・米を中心とした農産物販売所、天然温泉、ミニ・ゴルフ場などを追加設置していった。

今では年間380万人の人々が訪れ、「農業のディズニーランド」と言われるまでになっている。

S社は、豚の種畜を「豚のテーマパーク」に成長発展させたのだ。

S氏の信条は「食という字は、人に良いと書くが、おいしい・安心・安全・新鮮・本物であれば、地域の生活者が黙っていても育ててくれる」ということであった。

そこで、本物を証明するため、1999年から世界最大にして最も歴史と権威のあるDLG(ドイツ農業協会)の国際食品品質競技会に挑戦し続けている。

1999年から13年間連続して金メダルを受賞した結果、2011年秋には最優秀ゴールド賞をアジア地域で初めて受賞した。

S社は「緑の牧場から食卓へ、おいしい・安全・安心な商品を届けたい」という信念を貫き通し、おいしさにこだわって独自のブランド豚を生み出し、牧場の生産直売にもこだわり続けた。

その結果、「サイボクハムファン」という小さな市場(池)の巨大なクジラとなったのだ。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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