末広がりの安定成長を実現する「年輪経営」 -伊那食品工業株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2015年3月

昨年9月から、中小企業は、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、自らがその池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」になることによって高収益を生み出せるという考え方についてお話している。

第7回は、“いい会社をつくりましょう”を社是として、世の中の景気の波には一切左右されず、末広がりの安定成長を実現する「年輪経営」を標榜する、長野県伊那市の寒天メーカー、伊那食品工業株式会社(以下、I社)の池クジラを見ていきたい。

I社の実質的な創業者は現会長の塚越寛氏(以下、T氏)である。

社員数は486名(2014年3月)、売上高は176億8000万円(2013年12月)。

売上高経常利益率は常に15%前後をキープする高収益企業である。

T氏は、「寒天は『和菓子の原料となる乾物』という消費財に過ぎない」という、食品業界の既成概念を打ち壊し、寒天を産業財にまで育て上げた。

T氏が再建のためにI社の社長に就任した当時、寒天は、天候により生産量が大きく変動する相場商品であった。

価格が安定しないため、これを取り扱うI社の収益も安定しない低収益企業であった。

そこでT氏は、寒天の価格を是非とも安定させようと考え、海外を現地調査し、地中海沿岸、南米、済州島など、世界のきれいな海で良質の海藻を収穫することによりその安定供給体制を確立した。

T氏は、これによって寒天の市場価格を安定させることに成功した。

次に、寒天を材料とする新たな需要を生み出さなければならなかった。

材料がいくら安定供給されても、需要が右肩上がりで増大して行かなければI社も発展せず、産業財にまで育てることはできなかった。

そこで、寒天の可能性を信じたT氏は、用途開発に力を入れることを決心した。

寒天を材料とする新商品を次々と開発し、医薬・バイオ・介護食など新市場を開拓していった。

このために、常に全社員の1割を研究開発要員に充てようと考えた。

すなわち、全社員の1割の人件費分だけ今期の利益が減ることを覚悟し、その分を未来投資すると決めたのだ。

これによりI社は、継続的な用途開発が実現できるようになった。

I社が絞り込んだ「池」は、誰もこれが産業財になるとは思いつかなかった、当時の食品業界では非常識極まりない「寒天を材料とする市場」であった。

T氏は社員に創造性の発揮を求め、自社内で次々と寒天の用途を開発して、この「池」を拡大していった。

I社がこの池のクジラとなったのは余りにも当然ではないだろうか。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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