選択と集中そして差別化 -メーカーズシャツ鎌倉株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2014年9月

中小企業は自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、自らが、その「池のクジラ」にならなければ、高収益企業にはなれないと私は考えている。

中小企業は、大企業とは別の世界で顧客を創造すべきで、大企業と角を突き合わせてまともに戦わない方が賢い。

大企業が戦う市場を「大海」とすれば、中小企業は、大企業が攻めてきそうにない自分たちが見つけた小さな「池」で、圧倒的に一番になる戦略を採るべきだというのがその内容である。

今回からご紹介する事例企業は、どのように自社を「池のクジラ」化させることに成功したのか、そのプロセスを探りながら、読者の皆様とご一緒に「池のクジラ」の創り方について考えていきたい。

ビジネスシャツ専門店を経営するメーカーズシャツ鎌倉(K社)は、アパレル業界では比較的安定した需要のあるビジネスシャツ分野を自らの「池」として選択した。

価格帯は1着1000円以下から数万円までと幅広い。全体の6~7割は1000円~3000円台で平均価格は2000円に満たない。

1万円を超えるシャツユーザーは、サイズがピッタリと合うオーダーシャツを求める顧客層である。

全体に占めるその割合はわずかで10%に満たない。

K社は、ビジネスシャツ全体を自社の「池」とはしなかった。

K社が狙ったのは、1万円を超えるビジネスシャツのユーザーであった。

彼らは伊達や酔狂でわざわざ高いシャツを買っているのではなく、自分の身体にピッタリのサイズでなければ満足しない、おしゃれに気を遣っている人たちである。

もしこれと同等のものを既製品のシャツで、しかも、その価格を従来のオーダーシャツの1/2~1/3の価格で顧客に提供することができれば、間違いなく顧客はこちらを向いて微笑んでくれるに違いないのだ。

K社は、自社が戦う「池」として、ビジネスシャツ市場全体の10%にも満たない高級シャツ分野を選んだ。

しかも、オーダーシャツではなく、既製シャツで価格もコストも大幅に下げて戦うことにした。

言い換えれば、今まで世の中になかった新しい「池」を考え出し、そこに、従来は高級ビジネスシャツを買ってきたおしゃれなユーザーを取り込むという戦略に打って出たのである。

コスト削減では、破格の安値でも利益を出せる儲かるしくみとしてSPA方式を採用したために利益が確保できているが、これに関しての詳細はまたの機会に触れることにしたい。

20年の歳月がかかったが、K社は、自らが築いた「池」でのシェアが90%に達し、明らかに「池のクジラ」となった。

一番驚くのは、リーマンショックがあった2008~09年にかけて、リーマンショックなどどこ吹く風とばかりに売上二桁増の逆行高を演じたことだ。

顧客にとって高い価値を生み出したため、世の中の景気の趨勢などには全く無関係に、顧客は自社を支持し続けてくれた。

その結果、大幅な売上増を演ずることができた。

K社の場合もそうだが、単に「池」をつくっただけで成功できるわけではないが、「池のクジラ」を目指しての選択と集中、そして差別化は、高収益企業に向けての最初の第一歩であることだけは確かである。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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