伝統工芸分野、革新のコツ-伝統工芸メーカーN社

経営

西浦道明のメルマガ 2014年1月

某伝統工芸業界全体としては1990年をピークに3分の1に縮小しているにも拘らず、N社は逆に売り上げを5倍に伸ばしている。

伝統工芸と聞けば一般に成長とは縁のない世界という印象を持つ。

N社の場合、いったい何が違ったのか。
今回は、このN社の成長の軌跡を探ってみたい。

まず挙げなければならないのは、26歳でN社に婿入りした4代目社長のショッキングな体験である。

あるとき、伝統工芸を見学しに自社を訪れた親子の会話を聞いてしまった。

「ちゃんと勉強しないと、あのおじさんみたいになっちゃうよ」という母親の言葉がN社長の心を切り裂いた。

3K仕事と見られたのだ。

以来、「自分に誇れる仕事をしたい、子供たちに憧れのまなざしを向けてもらえる仕事をしたい」との想いがN社長の心に火を点けた。

それまで、この地域は、産地問屋の下請けとして伝統工芸技術だけを販売してきた。

N社長は、この技術に「素材の研究」と「デザイン」を付け加えた。
こうなれば、もはや最終ユーザーに直接販売できる「商品」である。

縁あって東京にショップ展開したが、大反響があった。

「製作した商品の評価を直接ユーザーから仰ぎたい」「自分が作ったものが売れる現場を見たい」とのN社長の想いが叶ったのだ。

そして、これが「競争力」を生むことになった。

さらにN社長は、地元の伝統工芸業界も含めて、新規ユーザーからのオファーを生もうと、国内外の展示会へ出展したり、自社の企画展の開催を考え実行に移したのだ。これが新規ユーザーを生み、下請けから脱却していった。

新規ユーザーに近い立場のバイヤーや店員の意見を徹底的に聴いた。

ユーザーから、「これっていいね」と言われることを大切にし、次々と新たな挑戦を企てていった。

企画から製造まで一貫した多品種少量の生産体制、高精度・複雑な形状の加工技術、職人による繊細な手仕事とNC加工による柔軟な製作体制、デザイナーとのコラボレーション、産地内の職人ネットワークといった、外部の人材まで含んだ広い意味での「社員力」が、N社発展の基礎を築いたのは言うまでもない。

次々と新しい事柄に挑戦していくうちに社員の誇りも築かれていった。
そして、すべてのものが好循環となっていった。

こう見てくると、伝統工芸の経営革新は、はじめに経営トップの覚悟・執念ありきだと確信する。

そして、社員や地元の伝統工芸技術の蓄積はもちろんのこと、デザイナーと組んで売れる商品を開発し、次々と国内外の展示会や企画展に出品して新しい販売チャネルを開拓していったことだった。

技術力、商品開発力、販売力からなる「競争力」、そして、これを支える「社員力」が経営革新を成し遂げた。

経営はまさに「総合」だということに気づく。

経営の総合力を学んで実行する人物が、伝統工芸分野の次世代を担ってくれるに違いない。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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