意外に知らない「信託」の歴史と有効性~資産承継や海外信託の活用法!

事業承継

相続対策や財産承継についてお手伝いすることが多い仕事柄、「信託」についてもよく相談を受けます。

「信託」についてよくご存じの方もいらっしゃる一方で、形式や形態は知っているがその本質的な意味合いや役割があいまいだという方もいらっしゃいます。

そこで今回は、信託とは何か?そしてその活用方法について解説します。

「信託」とは

もともと13世紀の英国において考案された仕組みで、財産を自分の名義から信頼する他人の名義にしておくことで、自分に何かあった時に財産を収奪されないよう保全したのが始まりと言われています。

市民が属領主から土地や財産を守るために教会に寄進し、ファミリーの資産を維持し承継することを主な目的として、ヨーロッパに広がり活用されてきました。

仕組みとしては、以下の3者で構成されます。

・財産を信託する「委託者」
・信託された財産を管理・運用する「受託者」
・信託された財産から生じる利益を受け取る「受益者」

信託の登場人物

自分(委託者)の財産を、信頼できる人(受託者)に託し、自分あるいは他の人(受益者)のために、その財産を管理・運用してもらいます。

誰(受益者)のために、どのように管理・運用してもらうかは自分(委託者)で決めることができます。

基本的には、どんな財産でも信託することができ、欧米の信託会社では、モノの特定さえできればなんでも受託するようです。

信託のしくみ

「信託」でできること

それでは実際に、「信託」をどのように活用できるのでしょうか。
財産承継の場面で説明します。

資産の保全

信託した財産を守りながら必要に応じて受益者に分配したい場合の活用法です。

信託した財産を少しずつ受益者に分配することもできますし、利益部分だけを分配するということも可能です。

例えば、ある人に多額の資産があって、その人が亡くなれば、子どもが相続することになりますが、その子どもが未成年者の場合、一度に遺産を渡すと使い果たす恐れがあります。

そこで「信託」を活用します。

子どもに財産を一度に渡さず、一部を先に渡して、残りの財産を弁護士等が信託財産として管理します。

信託財産は株などの金融商品で運用して運用益を子どもが受け取ります。

また、夫妻のどちらかが先に亡くなって残された方の生活費や医療費を信託財産からの運用益で賄うということも可能です。

この場合、将来的な財産管理の煩わしさを回避できるというメリットもあります。

争族(遺産相続を巡る親族の争い)の防止

争族の防止という意味では遺言という方法もありますが、遺言書はいつ書いたのか、誰かに騙されて書いたのではと揉めることもあります。

公正証書遺言と遺言執行人の活用である程度の効果も期待できますが、場合によっては被相続人の望んだ方向へ財産の移転が行われない可能性もあります。

「信託」を設定することで、受託者がしっかりと財産を管理し、必要な財産を必要な人に渡すことができます。

委託者(被相続人)の意思をしっかり実現できる点で有効です。

また、委託する財産を特定することで、無用な係争になることも防ぐことができます。

例えば、希望する財産の行き先が家族だけに限らず、チャリティであったりお世話になった人であったりする場合にも有効です。

海外での「信託」の活用

海外での「信託」の活用は、純粋に資産承継のツールとしての役割のほか、「プロベイト」の回避に最も効果があるとされています。

海外にある財産を相続する場合、財産が所在する国や地域で、相続開始後に「プロベイト」という裁判所の監視下で行われる遺産分割・相続手続が要求される場合があります。

裁判所へ様々な書類を提出し、さらには法律に沿って被相続人の債務等の清算を行い、相続財産の分配まで進めなければなりません。

1年から数年もの時間がかかり、海外の弁護士や会計士などに手伝ってもらうため多額の費用も発生し、手続の負担は相当なものになります。

財産金額や状況によっては、財産を放置するというケースさえあります。

こうした事態を回避するために、生前信託(Living Trust)と呼ばれる方法があります。

自分の財産を信託財産として信託受託者名義に変更しておき、自分の死後に当該財産を譲り受ける人(受益者)に受託者から渡すよう決めておくという方法です。

これにより自分が死亡した場合、「プロベイト」を経ることなく財産が自動的に受益者に引き継がれます。

共同口座(Joint Account)共有名義化(Joint Tenancy)による方法でも「プロベイト」を回避できます。

ただ近年では、税務当局間での国際的な金融口座情報の自動交換制度(CRS)等があり、当局の無用な調査指摘を回避するためにも生前信託は有効な手段です。

※CRS制度についての詳細はこちらをご覧ください。

「信託」により、自分(委託者)の財産に対する考え方や思いを具体的な仕組みとして後世に残すことができます。

「信託」の機能や使い勝手について、今一度、検討・検証されては如何でしょうか。

筆者紹介

伊藤彰夫

アタックスグループ パートナー
アタックス税理士法人 代表社員 公認会計士・税理士 伊藤 彰夫
1967年生まれ。資本政策、事業承継、相続対策、M&A、国際税務の各ニーズに対応したコンサルティングに数多く従事。国際税務では、移転価格税制の対応、海外を活用したファイナンシャルプランニング、クロスボーダー交渉などの実績を誇る。現在、上場企業及び関連企業法人チームの統括責任者兼国際税務チーム責任者。
伊藤彰夫の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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