役員退職金に関する疑問を解説!~事業承継時に発生しやすいテーマから

事業承継

令和6年度の税制改正大綱では、政府が2023年6月にまとめた「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太方針2023)で明記されていた退職所得課税制度の見直しが見送られました。

それでも、税制改正大綱の「今後の所得課税のあり方」で取り上げられていますので、多様で柔軟な働き方に応じた中立的な税制を構築する方向性に変わりはないと思われます。

具体的には、退職所得控除額(※)を縮小する見直しが想定されますが、年金制度の見直しと合わせて、今後の税制改正において検討されることになります。

※勤続年数20年までは1年あたり40万円(80万円に満たない場合は80万円)、20年を超える期間は1年あたり70万円まで退職金から控除できる制度

事業承継時の役員退職金は大きな検討テーマ

退職所得課税制度の見直しは、受け取る側である役員や社員に関係するわけですが、今回は退職金を支給する会社側について取り上げます。

実際に、私が現場で退職金と深く関わるのは、事業承継のタイミングです。

ここ最近でも、社長交代を予定している会社、代表取締役会長から非常勤の取締役への変更を予定している会社など、事業承継の場面に接することがとても多くなっています。

そこでの大きな検討テーマが「事業承継時の役員退職金」です。

会社側が検討すべきこととは

会社の状況や事業承継の進み方によって違いはありますが、例えば、次のようなことが検討すべきテーマになったりします。

  • 役員退職金はいくらぐらいまで認められるのだろうか。
  • 非常勤の取締役会長になったら、役員退職金を支払っても大丈夫なのか。
  • 会社が役員退職金を支給するにあたって気をつけておくことはあるのか。
  • 役員退職金支払い後は一時的に利益が下がるので、自社株の評価額もある程度下がるのか。

とくに社長や会長といった経営トップにかかる退職金は、金額が大きくなることも多く、その支給にあたっては、さまざまな観点から検討する必要があるのです。

そこで、上記テーマの中から、非常勤になる場合について少し見ていきましょう。

法人税法上の取り扱い

まず、役員退職金にかかる法人税法上の取り扱いを確認します。

役員に対する退職金で、業務に従事した期間、退職の事情、同業種同規模の法人の役員に対する退職金の支給状況などからみて相当であると認められる金額は、原則として損金の額に算入されることになります。

簡単に言えば、役員退職金は適正額なら法人税法上の損金になるということです。

完全退職まで役員退職金を支給できないか

しかし、実際の事業承継では、完全に会社を退職するケースばかりではありません。

取引先や金融機関からの信頼を引き継ぐため、社長の経営をサポートするためなどの理由から、すぐに完全退職はできずに、しばらくは取締役として残ることも多いのではないでしょうか。

代表権は外したけれど、完全に会社を退くのはかなり先の話ということも十分にあります。

それでは、完全退職まで役員退職金を支給できないかというと、決してそうではありません。

その場合でも、実質的に退職したと同様の事情にあると認められるなら、損金になるのです。(未払いの場合は認められません。)

これについて法人税法基本通達では、分掌変更などにより、その地位や職務内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にある例示として次の3つを挙げています。

①常勤役員が非常勤役員になったこと
②取締役が監査役になったこと
③分掌変更等の後におけるその役員の給与が激減したこと(おおむね50%以上の減少)

①は非常勤でも代表権がある者、②は一定要件を満たす株主等である者は除かれます。

そして、すべての例示に共通するのが「経営上主要な地位を占めている」と認められる者は除かれるということです。

「経営上主要な地位を占めているか」が重要なポイント

先ほどお話ししたとおり、実際の事業承継の現場では、社長交代や代表権は外すけれど、しばらくは非常勤の取締役で残ることがよくあります。

完全退職時まで退職金を支給しないケースも多いのですが、役員給与が少なくなることもあり、この段階で役員退職金の支給を検討するケースも出てくるのです。

経営上主要な地位を占めていると判断されるケースとは

ここで確実に押えておきたい重要なポイントが、「経営上主要な地位を占めているか」ということです。

非常勤の取締役となり、役員給与が50%以上減額されたとしても、例えば、次のような事実が認められる場合には、経営上主要な地位を占めていると判断され、役員退職金が課税上の問題となる可能性があります。

  • その後も事業や人事に関する重要な意思決定や業務を担っている
  • 従来どおり社長の隣で執務し、重要案件について社長が常に確認を行っている
  • 経営幹部が集まる重要会議に出席し、個別案件の経営判断に大きな影響を与えている
  • 主要な取引銀行との面談や交渉を引き続き行っている

この課税リスクを極力なくすためには、実際に経営を引き継ぐことです。

今までの担当業務を洗い出し、改めて役割分担を決めて、業務の引き継ぎを確実に実行することが必要です。

役員退職金は、それを支給する会社の利益や税金、場合によっては自社株の評価額など多方面に大きな影響を与えます。

事業承継のタイミングにおいて、分掌変更等に伴う役員退職金を支給する場合には、顧問税理士に相談するなど十分に検討したうえで進めていただければと思います。

アタックス税理士法人の税務顧問サービスにご関心のある方はお気軽にお問い合わせください

筆者紹介

アタックス税理士法人 代表社員 税理士 磯竹 克人
1987年 名古屋市立大学卒。税務・会計の業務を中心に数多くのクライアントに対する指導実績を持ち、親切で丁寧な指導が厚い信頼を得ている。現在は、事業再構築支援、事業承継支援、資本政策支援などを中心にクライアントの問題解決にあたっている。
※顧問税理士 変更をご検討の方はこちらをご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました