中小企業経営を「ハック」する ~最先端から考える中小企業のIT戦略(2)【全3回】

ITの話となると概念や横文字ばかりで難解ですが、今回はその中でも、特に経営者の皆様方におさえて頂きたい内容に絞り、ポイントを整理しました。

構成は以下の通りです。
お忙しい方は、各章末のまとめだけお読みください。

<目次>

【第1回】時代の潮流
・人口動態の変化と人手不足
・求められる生産性向上
・大企業と中小企業の生産性格差
・大企業の平均以上の生産性を誇る中小企業の特徴
・まとめ

【第2回】ポストモダンERP
ERPとは?
ポストモダンERPとは? ~つながる・ひろがる~
ポストモダンERPの便益
まとめ

【第3回】デジタルトランスフォーメーション(DX)
・DXとは? ~デジタル化とデジタル変革の違い~
・中小企業のDX ~失敗リスクを最小化するための要諦~
・まとめ

今回は第2回の内容をお伝えします。
内容は重いですが、最後までお付き合いください。

——————————————————–

【第2回】ポストモダンERP

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はじめに

第1回では、時代の潮流について統計データを交えながら解説し、会社を強化するためには、「ITを活用」した仕組みの強化が必要だと整理しました。

今回の第2回は、「ITを活用」した仕組みの強化にあたり、「何を」すべきか、whatの部分を解説します。

ERPとは?

まずはじめに、ITを活用した仕組みの強化にあたり、ERPの基本概念を理解する必要があります。

ERPとは、Enterprise Resource Planningの略で、「統合基幹業務システム」を意味します。キーワードは「統合」です。

ERPを導入していない企業では、各部署がそれぞれ独自にデータを管理しているケースが多いです。

例えば、営業部で管理している販売実績データを、一定のタイミングごとに経理部に回付し、当該データに基づいて経理部が請求書を発行し、売上計上処理を行う。

このように、各部署でデータを共有しながら業務を進めます。
ほとんどの中小企業は、このようなプロセスを経るのではないでしょうか。

ERPを導入していない場合、決定的な課題が2つあります。

【データのリアルタイム性】
【データの整合性】

本来であれば営業部で管理する販売実績データと、経理部で管理する販売実績データは一致するはずです。

しかし、下流である経理部は、上流である営業部からの共有がなければ、データが更新されません。【リアルタイム性に課題】

そのため、照会のタイミングによっては(例えば未共有のデータが存在する場合)、両者のデータは一致しません。【整合性に課題】

理由は明確で、別々のデータベースでそれぞれ管理しているからです。

このような課題を克服するためには、社内のデータベースを「統合」し、「一元管理」が必要になります。

ERPの基本概念は、データベースを「統合」することで、社内データの整合性・一貫性を担保し、重要な経営資源である情報の有効活用をしようとする点にあります。

1990年代以降、ERPが一般的になってきましたが、当時のERPの特徴は、オンプレミス(自社環境での運用構築)でモノリシック (一枚岩的)でした。
キーワードは「密結合」です。

便利であることに違いないのですが、構築・運用保守に膨大な人的リソースと資金を要するため、一部の大企業しか手が出せないような代物でした。

ここまでで、ERPの基本概念はご理解頂けたことと思います。
ではなぜ唐突にERPの話を出したのか、その点を説明します。

経済行動は最終的には必ず会計処理に帰結します。
会計、すなわち簿記とは「帳簿記入」の略語です。

経営者が意思決定をし、現場で取引を実行し、契約書・請求書等のドキュメントが残り、それを帳簿に記入し、企業実態を示す財務諸表が作成されます。

このように、企業のすべての業務プロセスの終点は、経理プロセスなのです。

経理プロセスが非効率である場合、ほぼ間違いなく前工程に原因があります。
逆に言えば、前工程からの整流化が実現できれば、後工程の効率化が進むはずです。

これは経理プロセスだけでなく、他のプロセスすべてにあてはまることです。

例えば、給与計算プロセスが非効率である場合、その上流の勤怠管理・経費精算管理に何かしらの課題があることでしょう。

また、販売管理プロセスが非効率である場合、その上流の見積管理・受注管理・契約管理・納品管理に何かしらの課題があることでしょう。

業務プロセスを上流から下流までのフローに着目しながら、仕組みを設計することは非常に重要です。

局所的に業務プロセスを見るのではなく、全工程を俯瞰して見ていく必要があることをお分かり頂けたかと思います。

そのために、ERPの基本概念を冒頭ご説明しました。

ポストモダンERPとは? ~つながる・ひろがる~

現在、ERPは新たな変革期を迎えています。
キーワードは、「疎結合」です。

従来の密結合では、過剰なカスタマイズにより、とにかくメンテナンスが煩雑で、コストがかかる点が課題でした。

また、展開や変更に多くの時間を要するため、もはやビジネスの求めるスピードに追随できなくなっていたことも課題でした。

そこで昨今の技術革新を背景に、従来のERPがカバーしている広範な業務機能をいったん分解した上で、それぞれのアプリケーション群を疎結合で連携するスタイルが登場しました。
その新たなERP像は、「ポストモダンERP」と呼ばれています。(*1)

少々分かりにくいので、補足説明します。

———-
従来のERPは、販売管理、購買管理、在庫管理などの業務システムや会計システムが、巨大な1つの密結合システムとして管理されていた。

 ↓ しかし

クラウド化の台頭(*2)や、APIの標準化・公開化(*3)によりデータ連携のハードルが低下し、巨大な1枚岩システムを企業が背負う必要がなくなった。

 ↓ つまり

自社にとって最もフィットする業務システムを選択しておいて、それらをクラウド上で疎結合することで、疑似的なERPを構築し、従来より安く・速くERPの恩恵を受けることができるようになった。

 ↓

この「疎結合された疑似的なERP」こそ、「ポストモダンERP」である。
———-

ということになります。
まさに「つながる、ひろがる」の世界観です。

(*1)出典 ガートナー社「日本におけるポストモダンERPのハイプ・サイクル」

(*2)クラウドコンピューティングの台頭
クラウドとは、アプリケーションソフトの実行やデータの保管を、すべてネットワークの彼方で処理をさせることを意味します。
クラウドは直訳すると「雲」ですが、ネットワークの彼方を雲に例えてそのような呼称になっています。

通信技術やコンピューターの処理能力の向上により、最近ではITサービスのクラウド化が主流になってきています。
クラウド化により、データは場所を問わず利用可能になり、保守メンテナンスはサービス提供者が行うため、自社から切り離すことができるようになりました。

(*3) APIの標準化・公開化、オープンAPI
APIとは、Application Programming Interfaceの略で、ソフトウェアやアプリケーション同士を連携させるための仕様です。
API連携により、別々のソフトウェアやアプリケーション間で、情報や機能の共有を実現できます。

昨今では、クラウドシステムのAPIを各ベンダーが公開し、別々のソフトウェアやアプリケーションを、API連携により疎結合することが容易にできるようになりました。また2020年は銀行法改正に伴う銀行APIの公開義務化が予定されている等、ますますAPI連携は活発になることでしょう。

出典 日本銀行 ITを活用した金融の高度化に関するワークショップ「オープンAPI」

ポストモダンERPの便益

繰り返しになりますが、ERPの基本概念は、データベースを「統合」することで、社内データの整合性・一貫性を担保し、重要な経営資源である情報の有効活用をしようとする点にありました。従来は「密結合」型の「統合」でした。

昨今では技術革新により、「疎結合」型の「統合」が可能になりました。

クラウド上で別々のシステムをAPI連携により疎結合することで、システムの境界線を超えて、社内データの整合性・一貫性を担保し、情報の有効活用が実現できるのです。

この「つながる、ひろがる」の世界観により、従来では実現できなかった業務効率化や経営革新、具体的には「最適化」「自動化」「リアルタイム化」「可視化」が、ポストモダンERPでは実現できるようになります。

まとめ

前回のおさらいですが、会社を強化するためには、「ITを活用」した仕組みの強化が重要です。

では、IT活用といっても、何をすれば良いのか?
今回は、ERPの便益の享受を狙うべき、と整理しました。

しかし、従来の巨大な密結合型システムへの投資は、リソースが限定的な中小企業においてはリスクが高く、コストパフォーマンスに見合う成果を出すことは到底困難です。

そこで、ポストモダンERPという次世代のERP像を参考にすることは非常に有益です。

ポストモダンERPの概念により、個々の業務プロセスに最適なITツールを選定し、その後API連携により疎結合することで、疑似的にERPの世界を構築していくことが可能となりました。

従来のERPに比べ、安く速く立ち上げることができるため、効果的かつ効率的な業務改善が可能です。

できるだけ後工程にデータを転用できるよう、業務フロー全体を俯瞰しながら、構成を設計することがポイントです。

さらに、経済行動は最終的には必ず会計処理に帰結しますので、アウトプットを意識したインプット(データ収集)について抜かりなく設計しておくことも肝要です。

以上、「ITを活用」した仕組みの強化を実行するにあたり、「何を」すべきなのか、whatの部分を解説しました。

ポストモダンERPや、その便益について、その重要性をご理解頂けましたら幸甚です。

そして最終回の第3回は、「どのように」進めるべきか、howの部分を解説します。
失敗リスクを最小化するIT投資の順序について言及し、実務的な内容まで深堀します。

筆者紹介

株式会社アタックス・エッジ・コンサルティング 代表取締役 公認会計士 酒井悟史

株式会社アタックス・エッジ・コンサルティング 代表取締役 公認会計士
酒井 悟史
慶應義塾大学経済学部卒。2014年アタックス税理士法人に参画し、主に上場中堅企業の法人税務業務に従事。2019年株式会社アタックス・エッジ・コンサルティングの代表取締役に就任。現在はクラウド会計や開発システムの導入を通じ、中堅中小企業および会計事務所のイノベーション促進に取り組んでいる。
酒井悟史の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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