「配偶者居住権」の取扱い国税庁公表~相続税対策に必要な視点

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配偶者居住権とは

2018年7月、40年ぶりに民法が改正され、「配偶者居住権」が創設されることになりました。

この「配偶者居住権」とは、亡くなった方が所有していた自宅建物について、その配偶者に終身または一定期間、この自宅の使用が認められるというものです。

配偶者は遺産分割や遺言などでこの権利を取得することができ、2020年4月1日から施行されます。

前回の私のコラムにも記載しましたとおり、この「配偶者居住権」については、次の税務上の取扱いの明確化が待たれていました。

・自宅への相続税の特例である「小規模宅地等の特例」の適用の可否
・自宅を売却した場合の課税関係
・「配偶者居住権」を取得した配偶者が亡くなった場合の課税関係

配偶者が亡くなった場合の課税関係

国税庁は7月8日、令和元年7月2日付「相続税法基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」を公表、上記のうち「配偶者居住権」を取得した配偶者が亡くなった場合の課税関係が明確になりました。

「配偶者居住権」が消滅した場合、以下の取扱いになります。

1.次の理由によって「配偶者居住権」が消滅した場合、「実際の自宅」を取得した者に「配偶者居住権」について贈与税が課税されます。
ただし、「配偶者居住権」に対し適正な対価が支払われている場合には贈与税は課税されません。

(1) 配偶者と「実際の自宅」を取得した者との合意
(2) 配偶者による放棄
(3) 「実際の自宅」を取得した者による消滅請求

2.次の理由によって「配偶者居住権」が消滅した場合には、課税は発生しません。

(1)「配偶者居住権」の存続期間の満了
(2) 配偶者の死亡
(3) 建物の全部消失等

つまり、「配偶者居住権」を取得した配偶者が亡くなった場合には、税金は発生しないことになります。

相続税の圧縮策

これによって、次のような相続税の圧縮策が考えられます。

例えば、自宅の評価が2,000、このうち「配偶者居住権」が800として、仮にこの評価は一定であるものとします。

「配偶者居住権」を設定せず、自宅を配偶者が取得した場合、配偶者は2,000の自宅に対して相続税が課され、その後、その配偶者が亡くなった際には、2,000の自宅が子に相続され相続税が課されます。

夫 →(2,000)→ 妻 →(2,000)→ 子

この自宅に「配偶者居住権」が設定された場合、配偶者は800、子は1,200(自宅の評価2,000-配偶者居住権800)に対して相続税は課税されますが、配偶者が亡くなった際には課税されることなく、子が自宅のすべてを取得することになります。

夫 →(800)→ 妻 →(0)→ 子
夫 ----→(1,200)---→ 子

夫から妻への相続については、「配偶者の税額軽減」(配偶者には1億6、000千万円または法定相続分までは相続税がかからない、という相続税の特例)によって相続税がかからないとしても、二次相続(妻から子への相続)まで考慮した場合、「配偶者居住権」を設定することによって子の負担する相続税の圧縮に繋がることが考えられます。

ただし、相続税の圧縮効果の高い「小規模宅地等の特例」の適用の可否などの取扱いは未だ明確にはなっていません。

また、亡くなった方の財産、配偶者の財産状況、相続人間の人間関係などによっては、「配偶者居住権」を検討する必要すらない場合もあります。

相続対策を検討される際には相続税や贈与税の圧縮という視点だけで行ってはいけません。

また、相続税の圧縮という視点から検討する際にも、将来の発生事象も踏まえた慎重な判断が必要です。

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筆者紹介

アタックス税理士法人 代表社員COO 税理士 村井 克行
1987年 南山大学卒。「会計税務の知の集結と事例の体系化」を確立すべく立ち上げた「ナレッジセンター室長」を務めた後、現在は、組織再編や相続対策など、最新の税法・会社法の知識を生かした永続企業のための総合的な支援業務に従事。誠実で緻密な仕事ぶりは多くのオーナー経営者から高い評価を得ている。
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