大卒1.66倍、高専生は20倍超という異例の数字
2026年3月卒業予定者の大卒求人倍率は、1.66倍でした。
これに対し、高等専修学校(高専)卒業生の求人倍率は、20倍を超える水準に達しているとされています。
出典:独立行政法人国立高等専門学校機構「【令和7年度・2025年度版】国立高専機構 概要」
https://www.kosen-k.go.jp/wp/wp-content/uploads/2025/07/kosengaiyo2025.pdf
大卒者の求人倍率の10倍以上という開きは、単なる人手不足だけでは説明がつきません。
背景には、高専生が5年間の一貫教育のなかで、午前に理論、午後に実習という「手を動かしながら学ぶ」教育課程を通じて、高い専門性を積み上げ、実践力を高めている過程があります。
課題を発見し、試作・修正するサイクルを在学中から繰り返すため、社会に出てすぐに実践的な戦力となれる点が、企業から高く評価されています。
私は日頃、経営者・後継者の皆さまと人材育成や後継者育成についてお話しする機会が多いのですが、この「高専生の強さ」は、中小企業の人材育成やアントレプレナーシップ教育(起業家精神教育)を考えるうえでも、多くのヒントを含んでいると感じています。
「ものづくり×AI」で事業性を競うDCONという舞台
高専生の実践力を象徴する取り組みのひとつが、全国の高専生を対象とした事業創出コンテスト「DCON」です。
参考:第8回全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2027
https://dcon.ai/
ものづくりの技術とディープラーニングを組み合わせた作品を制作し、その事業性を「企業評価額」という指標でベンチャーキャピタリストが評価する、他に類を見ないコンテストです。
2026年に開催された第7回大会には、過去最多となる40高専・91チーム・119作品が参加しました。
最優秀賞は、豊田高専の学生チームが開発した下水道点検ロボットです。
自動運転やスマートフォンカメラなどにも活用されているLiDARセンサーで自動走行しながら、AIが管内のひび割れなどを瞬時に検知するもので、老朽化する下水道インフラと点検技術者の高齢化という、社会が直面する課題に向き合った作品・事業創出でした。
このロボットは、近年注目される「フィジカルAI」の実装例といえます。フィジカルAIとは、センサーで現実世界を捉え、その判断結果をロボットや設備の動作へ変換するAI技術のことです。
経済産業省は、AIロボティクスの市場規模が2040年には世界で約60兆円に達すると試算しており、2026年は「フィジカルAI元年」とも呼ばれています。
出典:経済産業省「AIロボティクス検討会 参考資料」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_robotics/pdf/20251008_2.pdf
DCONに参加する高専生たちは、介護現場の人手不足や災害時の通信途絶など、それぞれが暮らす地域や現場の切実な課題に耳を傾け、技術と事業性を両立させた解決策を形にしています。
ここで育まれているのは、単なる技術力ではなく、「誰の、どんな困りごとを、どう解決し、その対価をいただくのか」という、事業家としての視点そのものです。
こうした「高専×起業」の広がりは、テレビ報道でも取り上げられるようになりました。
フジテレビ系のニュース番組では、数億円規模の企業評価額がつく学生発の事業案が続々と生まれている実態を紹介し、その意義を以下の3点に整理していました。
- 技術とビジネスの融合(実践的な技術教育と、課題解決のビジネス化)
- 地域の活性化(資金や起業ノウハウの地域への還流)
- 進路の選択肢拡大(就職・進学に加え、起業という新たな道)
技術力だけでなく、それを事業として成立させる視点まで含めて育てるという発想は、まさに中小企業の人材育成にも通じるものです。
「起業家を育てる」ためにつくられた高専
もうひとつご紹介したいのが、2023年に徳島県神山町に開校した私立高専、神山まるごと高専です。
出典:学校法人神山学園 神山まるごと高等専門学校
https://kamiyama.ac.jp/
全寮制・学費実質無償という異色の運営形態に加え、初年度の入試志願倍率は約9倍と、狭き門をくぐり抜けた学生が全国から集まっています。
同校のカリキュラムは「テクノロジー」「デザイン」「起業家精神」の三本柱で構成され、入学直後には地域課題をテクノロジーで解決する集中講義を行うほか、毎週、地元の方や起業家を招いて語り合う場を設けています。
失敗を前提とし、未完成の状態から挑戦を続け、磨き上げていく姿勢を学校全体で共有している点が特徴的です。
在学中から、キャリアの選択肢として起業を意識する学生の割合は、入学時の約7割から、2年生時には8割まで高まるとされています。
中小企業が取り入れられる4つの視点
DCONと神山まるごと高専に共通しているのは、「社会課題の本質」を若い世代に預け、失敗を許容しながら挑戦させる環境をつくっている点です。
これは、中小企業の人材育成・後継者育成にも、そのまま応用できる考え方だと思います。
第一に、若手や後継者に、地域や顧客の生の課題に直接触れさせることです。
研修や座学だけでは、事業家としての嗅覚は育ちません。
第二に、小さくてもよいので「自分の名前で担う」プロジェクトを任せることです。
DCONの学生も、神山まるごと高専の学生も、最初から大きな成功を求められているわけではありません。試作と失敗を繰り返す過程そのものが評価されています。
第三に、経営者自身が「メンター」として関わることです。
DCONには第一線で活躍する起業家がメンターとして名を連ね、神山まるごと高専には毎週起業家が訪れています。
中小企業においても、経営者や幹部が若手・後継者の挑戦に伴走する姿勢が、覚悟とリーダーシップを引き出す鍵になります。
先のニュース番組でも、今後の課題として以下の3点が提言されていました。
- 小・中学校段階から、実社会とつながる学びの充実
- 文系・理系の垣根の撤廃
- 技術とビジネス両方に触れる機会の拡大
これは学校教育に限った話ではありません。中小企業の中にも、技術・製造部門と営業・管理部門の間に、見えない壁がないでしょうか。
第四に、若手や後継者に、部門やキャリアの壁を越えたローテーションや共同プロジェクトを意図的に用意することです。
異なる領域を経験することが、事業家としての視野を広げる近道になると考えます。
東京都墨田区のとある金属加工会社は、私自身も企業訪問を通じて、産学連携の好例を体感することができました。
同社の社長は、先代の急逝を受け、予期せぬ形で会社を継いだ後継者です。就任後まもなく工場が全焼する火災に見舞われましたが、取引先や従業員、地域の支えによって、再建を果たしました。
その経験を経て、同社は自社工場に、大学生や研究者、ベンチャー企業にも開かれたものづくり支援拠点を併設。深海探査艇や電気自動車といった先端分野の産学官連携プロジェクトにも携わるようになりました。
国内トップクラスの大学から学生インターンを継続的に受け入れており、ある時には学生インターンのチームが、既存の下地処理材とインクを組み合わせる工夫によって、金属へのカラー印刷という新たな加工方法を実現させています。
後継者自身の危機から始まった挑戦が、大学や研究機関との連携を通じて、下請けに留まらない開発型企業への成長につながった好例であると考えます。
おわりに

高専生の求人倍率20倍という数字は、単なる人材不足の裏返しではなく、「社会課題の本質に向き合い、手を動かして解決する力」に対する評価と捉えることができます。
中小企業においても、経営者・後継者自らが自社や顧客の課題を若手に手渡し、失敗を許容しながら伴走する仕組みをつくることが、これからのアントレプレナーシップ教育、ひいては人材育成・後継者育成の土台になるのではないでしょうか。
後継者・経営者を育成する「アタックス社長塾」では、「強くて愛される会社」の考え方を体系的に学び、コンサルタントによる個別支援のもとで「価値創造計画」を策定します。
この計画は、実践的な経営理論で自社の課題を整理し、成長を実現するための指針となるものです。
また、計画の策定から実行に至るまで、アントレプレナーシップと人材採用は欠かせない要素です。そこで今回は、この重要なテーマを取り上げました。
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筆者紹介

- 株式会社アタックス 社長塾推進室 コンサルタント 中村 香央里
- 愛知県出身。大学卒業後、公立学校の美術科教諭として9年間従事。その後、多様な業種での経験を経てスタートアップ創業支援企業にて行政主催の事業運営に携わる。女性起業家の育成・促進事業では、企画から運営を一貫して行い、起業家の事業拡大やコミュニティ形成に貢献。創業期だけでなく、中堅中小企業も支援したいという思いと、アタックスのパーパスに共感し、2024年アタックスに入社。「アタックス社長塾」の運営に尽力する傍ら、コンサルタントとして後継者・経営者の成長に注力している。
