経理部門でAIエージェントを使いこなす3つのステップ!

経理部門でAIエージェントを使いこなす3つのステップ! 会計

日本企業の経理部門において、「少人数ですべての業務を回す」という体制は決して珍しいものではありません。

しかし今、この伝統的なモデルは、「深刻な人材不足」と「業務の複雑化」という二重苦に直面し、限界を迎えつつあります。

「人が採れない。一方で、制度対応は増えるばかり。」

こうした袋小路を脱するために、これまではクラウド会計の導入やRPAによる部分的な自動化によって、急場を凌いできました。

しかし、2026年を迎えた今、選択肢は新たなフェーズへと進化しています。

それは、「AIエージェント」の実装を前提に、業務フローそのものを再設計するというアプローチです。

ここで肝要なのは、AIエージェントを「魔法のツール」と誤解しないことです。

AIは確かに、規程や過去のナレッジを参照し、一定の文脈を解釈したうえで、提案を行うことができます。

しかし、それが実務で通用するか否かは、人間が与える判断の枠組みの精度に大きく依存します。

換言すれば、AIエージェントの実体とは、「判断基準・根拠データ・禁止事項を与えられて初めて機能する、疲れないスタッフ」に他なりません。

本稿では、経理責任者が設計すべき

  1. 暗黙知の言語化
  2. AIへの指示設計(プロンプト)
  3. ガバナンスと責任分界

について、3つのステップで整理します。

ステップ1:現状分析~「暗黙知」をドキュメントに落とし込む~

AI活用において最初に着手すべきことは、最新のツール探しではありません。

重要なのは、「ベテランの頭の中にある判断基準」を、再現可能な形にドキュメントに落としこむことです。

従来のRPAが得意としたのは、「Aの数値をBへ転記する」といった定型的な操作の代替でした。

対して、AIエージェントは、「この経費は交際費か会議費か」「この取引は課税か非課税か」といった判断の一部までを担います。

したがって、現状分析における業務の棚卸では、単なる作業手順にとどまらず、「判断ロジック」まで分解する必要があります。

ここで、経理責任者が作成すべきドキュメントは、以下の3点です。

判断マトリクス(条件、結論、根拠、例外)

例:交際費/会議費の判断

・条件:飲食または贈答/参加人数/1人単価/相手先属性など
・結論:勘定科目・補助科目・税区分の候補
・根拠:規程・税法・過去の社内判断
・例外:役員同席、重要取引先など

エスカレーション条件(迷った場合に人が介入する境界線)

AIが完結させてよい範囲と、必ず人が介入すべき範囲をあらかじめ定義します。

例えば、「取引先との関係性」や「監査上の重要性判断」は、人が対応すべき領域です。

NGリスト(AIにやらせないこと)

・送金や承認の最終確定
・ルールに定義されていない例外処理
・根拠が不明確な断定 など

この3点が揃って初めて、AIは「信頼できるスタッフ」として機能し始めます。

AI活用の成否は、導入後の運用ではなく、導入前の「言語化の質」で決まると言っても過言ではありません。

ステップ2:AIエージェントへの指示設計(プロンプト)~業務フローの再設計~

棚卸が完了したら、AIを業務フローに組み込みます。

ここでのポイントは、「AIに丸投げする」のではなく、「人がAIに、何を、どの形式で、どこまでやらせるか」を設計することです。

どの業務においても、AIへの指示(プロンプト)には共通の「型」が存在します。

以下では、具体的にどのような「役割」と「制約」をセットで指示すべきか、2つの事例を紹介します。

ケース①:経費精算(規程との突合)

これは、単なるOCR(文字読取)ではなく、AIに社内規定という膨大なテキストを参照させたうえで、定型的な判断を担わせる例です。

【AIへの指示例】
領収書画像と旅費規程を照合してください。
等級別の上限超過、深夜・休日の利用、証憑添付漏れなどの不備や、規程違反の疑いがあるものをフラグ化してください。
申請者に対しては、必要に応じて「理由入力」「追加証憑」をフィードバックしてください。
【人の役割】
全件チェックを廃止し、「フラグが立った案件」と「例外申請の妥当性判断」にリソースを集中させます。

少人数体制の経理において効果的なのは、この「集中と分離」です。

ケース②:社内問い合わせ(RAG活用)

日常業務に追われる中で、社内からの問い合わせ対応は、大きな負担となりがちです。

この領域はAIが得意としますが、根拠が曖昧な回答はリスクとなります。

例:「受取請求書にインボイスの登録番号の記載がない場合はどうすればよいか?」

【AIへの指示例】
参照できる知識源を、「社内マニュアル」「規程」に限定して回答してください。
回答は、「結論→理由→参照箇所→必要手続→担当窓口」の順で構成してください。
マニュアルや規程に記載がないケースについては、勝手に推測せず、「担当者に確認のうえ、回答します」と一次回答し、担当者へエスカレーションしてください。
回答文の末尾には、必ず参照元のリンクやページ番号を添付してください。
【人の役割】
AIが対応できなかった例外案件への対応や、AIの回答精度の定期的なモニタリングを実施します。
必要に応じて、知識源となるマニュアルやFAQのアップデートも行います。

AIは、放置していても自律的に賢くなるわけではありません。継続的に育成していくという姿勢が、極めて重要です。

ステップ3:ガバナンスと責任分界~「間違える前提」で設計する~

AIエージェント導入において、最も避けるべき事態は、「AIによる誤りを、人間が見過ごしてしまうこと」です。

そのため、以下の安全策を講じることが必要です。

判断根拠の見える化

AIが作成した成果物については、結果だけでなく、「何を根拠にその判断に至ったのか」を必ずセットで提示させます。

これがなければ、後から人間が正誤を検証できず、業務がブラックボックス化してしまいます。

チェック対象の絞り込み

すべての案件を目視確認していては、本来の業務効率化は実現しません。

そこで、「金額が大きい取引」「新規の取引先」「AIの確信度が低い判断結果」など、リスクが高いものに絞って人間が目を通します。

それ以外については、定期的な抜き打ち検査で対応します。

最終的な承認ボタンを押すのは、あくまで人間です。

だからこそ、「AIは起案・人は決裁(=作業はAI・責任は人間)」という役割分担を徹底した設計原則が、組織を守る最後の砦となります。

最後に~経理責任者は「作業者」から「設計者」へ~

最後に~経理責任者は「作業者」から「設計者」へ~

AIエージェント時代の到来は、経理部門にとって「脅威」ではなく「解放」です。

これからの経理責任者に求められるのは、手を動かして処理量を高めることではありません。

必要なのは、「業務を定義し、AIに的確な指示を出し、結果を監査する」という設計者としての能力です。

「暗黙知を言語化し、判断のロジックを組み立てる」

少人数でも揺るがない強固なバックオフィスを築くうえで、この泥臭い準備こそが、何より重要です。

まずは、あなたの頭の中にある「判断のモノサシ」を書き出すことから始めてみてください。

そのメモ書き一つが、組織の未来を変える設計図の第一歩となるはずです。

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筆者紹介

株式会社アタックス・エッジ・コンサルティング 代表取締役 公認会計士 酒井悟史

株式会社アタックス・エッジ・コンサルティング 代表取締役 公認会計士 酒井 悟史
慶應義塾大学経済学部卒。公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツ・トータルサービス事業部にて、監査業務の他、株式公開支援業務等に従事。2014年アタックス税理士法人に参画し、主に上場中堅企業の法人税務業務に従事。2019年株式会社アタックス・エッジ・コンサルティングの代表取締役に就任。現在はクラウド会計や開発システムの導入を通じ、中堅中小企業および会計事務所のイノベーション促進に取り組んでいる。

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