私の所属するアタックス・セールス・アソシエイツは、企業の営業現場に入り込み、目標達成を支援する専門部署です。
本日は、最近の営業現場で特に気になっているテーマについてお話しします。
売上目標は「昨対比10%アップ」で十分なのか
これまで多くの会社の年次営業目標の策定に関わってきましたが、売上目標を「前年実績の約10%増」と設定する会社は、今でも少なくありません。
もちろん、前年実績を基準にすること自体が間違いというわけではありません。
ただ、物価や原価が大きく上昇している現在、「昨年より何%増やすか」という昨対比だけで目標を決めてしまうと、会社の実態を見誤る危険があります。
原材料費などの仕入価格、人件費、物流費など、さまざまなコストが上昇しています。
業界によっては、仕入価格が1年間で10%以上上がることも珍しくありません。
仮に、その上昇分を販売価格に転嫁し、既存のお客様に前年と同じ数量を販売したとします。
それだけでも、売上高は10%程度増えることがあります。
つまり、売上が10%増えたからといって、「商品が以前より多く売れた」「顧客が増えた」とは限りません。単に価格が上がったことで、名目上の売上高だけが増えている可能性もあるのです。
売上高は「数量×単価」です。単価上昇による増収だけでは、販売力や顧客基盤が強くなったとは言えません。
実際、あるクライアントから次のような状況をお聞きしました。
「当社は社員数も顧客数もほとんど変わっていませんが、17億円だった売上が、4年間で21億円まで増えました。しかし、粗利額はほとんど増えていません。販管費は上昇しているため、営業利益は毎年下がっています。」
売上高だけを見れば、4年間で約24%の成長です。
しかし、粗利額が増えず、営業利益が減っているのであれば、会社の収益力はむしろ低下しています。
営業担当者は、「目標を達成した」「昨年より売上を伸ばした」と考え、マネージャーや経営者も安心してしまうかもしれません。
ところが、売上の内訳を見てみると、次のようなことが起きています。
- 顧客数が減っている
- 販売件数が減っている
- 販売数量が減っている
- 値上げによって売上高だけが維持されている
数字の表面上は成長していても、実際には顧客基盤や販売力が弱くなっているのです。こうした状態は、決して珍しくありません。
では、これからの営業目標は、どのように考えればよいのでしょうか。
単純に「昨対比○%」と設定するのではなく、まず「会社としてどれだけの利益を確保する必要があるのか」から逆算して考えることが重要です。
まず、目標とする営業利益に必要な販管費を加え、確保すべき粗利額を算出します。
次に、目標粗利率を踏まえて、必要売上高を計算します。
そして、その売上を実現するために、次のような項目に分解し、営業活動の目標に落とし込んでいきます。
- 必要な顧客数
- 案件数
- 販売数量
- 平均単価
- 新規開拓件数
こうすることで、「売上をいくら増やすか」だけでなく、「その売上をどのような営業活動によってつくるのか」まで、具体的に考えられるようになります。
また、営業目標を追いかける際には、売上高だけでなく、粗利率、粗利額、顧客数、販売件数、販売数量なども継続的に確認することが重要です。
売上高が伸びている一方で、これらの数字が悪化しているのであれば、早い段階で営業活動そのものを見直す必要があります。
インフレによって価格が上がる今の時代では、「売上を増やす」ことだけを目標にするのではなく、「必要な利益を確保するために、どのような売上をつくるのか」という視点が、これまで以上に重要になっています。
粗利を毀損している営業の過去習慣
もうひとつ、最近の営業現場で気になっているのが、過去から続いている営業習慣によって、知らないうちに粗利が毀損しているケースです。
売上が伸びているにもかかわらず、思うように利益が残らない。
その原因を詳しく見ていくと、原価上昇だけではなく、営業担当者が長年当たり前のように行ってきた値引きや、見直されていない取引条件が影響していることがあります。
ここでは、その中でも特に注意したい3つの習慣についてお話しします。
1つ目は、値引き権限が曖昧なままになっていることです。営業担当者が受注を優先するあまり、
「この金額なら決めてもらえそうだ」
「少し値引きすれば競合に勝てる」
と、自らの判断で価格を下げてしまうケースがあります。
例えば、販売価格100万円、原価70万円の商品であれば、粗利は30万円です。ここから5万円を値引きすると、売上高の減少は5%です。
一方で、粗利は30万円から25万円となり、約17%も減少します。粗利30万円に対して5万円の値引きは、粗利の約1/6を失うのと同じです。
営業担当者からすると「5%の値引き」でも、会社に残る利益への影響は決して小さくありません。
しかも、一度値引きした価格は、次回以降の基準になりやすいものです。
「前回はこの価格だったので……」と、値引きが新たな基準になれば、その影響は一度の取引で終わりません。
そのため、値引き可能な金額や率、上司の承認が必要となる条件などを明確にしておく必要があります。
また、見積書を提出する前に、粗利率と粗利額を確認する仕組みも必要です。
これは、営業担当者の裁量を奪うためではありません。
営業担当者が受注を追いかける中でも、会社として守るべき利益を明確にし、営業担当者と会社の双方を守るための仕組みです。
2つ目は、部品や付属品、関連サービスを安易に値引きしてしまうことです。
営業担当者は、主力商品や設備本体の価格については慎重に交渉します。
ところが、
「本体を購入していただくのだから、これくらいはサービスしよう」
と部品、消耗品、オプション、設置費、配送費、保守費などを簡単に値引きしたり、無償にしたりすることがあります。
しかし、こうした付属品や関連サービスは、主力商品よりも粗利率が高い場合があります。
本体価格を守ったつもりでも、その周辺で利益を失っていれば、取引全体の採算は悪化します。
さらに注意したいのは、一度行った「サービス」が、次回以降の標準になってしまうことです。
営業担当者は「今回だけ」と考えていても、顧客からすると「今後も受けられるサービス」と認識されてしまうことがあります。
その結果、一度の好意的な対応が、将来にわたる値引き習慣に繋がってしまいます。
付属品や関連サービスについても標準価格を設定し、有償であることを明確にしておくこと。
値引きを行う場合には、何を、いくら値引きしたのかが見える形にすること。
さらに、個別の商品だけではなく、取引全体の粗利額で採算を判断すること。
こうした管理が必要です。
3つ目は、過去から続く取引条件を見直していないことです。
「以前からこの価格で販売している」
「長年お付き合いのあるお客様だから、条件を変更できない」
こうした理由で、何年も同じ取引条件を続けている会社があります。
しかし、その間にも原材料費、人件費、物流費などは上昇しています。数年前には十分な利益が出ていた取引でも、現在ではほとんど利益が残っていない。
場合によっては、実質的な赤字になっていることもあります。
もちろん、長くお付き合いしているお客様を大切にすることは重要です。
ただし、「長いお付き合いを大切にすること」と「不採算な取引をそのまま続けること」は、別の問題です。
今後も安定して商品やサービスを提供していくためには、コスト環境の変化を丁寧に説明し、適正な取引条件について顧客と話し合う必要があります。
そのためにも、少なくとも年に一度は、顧客別、商品別、案件別に粗利率と粗利額を確認すべきです。
採算が悪化している取引については、価格改定だけでなく、次のような点も含めて、取引全体の採算を改善する方法を検討します。
- 最低発注数量の設定
- 配送条件の変更
- 仕様の標準化
- 発注の集約
ここまで3つの例を挙げましたが、共通しているのは、営業担当者やマネージャーが「売上」と「受注」を重視する一方で、その取引によって会社にいくらの利益が残るのかを十分に確認できていないことです。
これからの営業活動では、「いくら売ったか」だけではなく、「どれだけ適正な利益を残したか」までを見る必要があります。
物価や原価が上昇する今、過去と同じ目標設定や営業習慣を続けていれば、売上が増えているにもかかわらず、会社の体力が少しずつ失われていくことがあります。
だからこそ、これからの営業には次の2点が欠かせません。
- 必要利益から逆算した売上目標の設計
- 日々の営業活動に潜む粗利毀損習慣の見直し
営業の役割は、単に「商品を売ること」ではありません。
「顧客に価値を提供し、その対価として適正な利益を会社に残すこと」
これからの営業には、こうした視点が、これまで以上に求められています。
筆者紹介

- 株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ 主任コンサルタント 山北 陽平
- 富士通グループ主力販売会社を経て、株式会社アタックスへ入社。前職では、営業として東海エリア250人中1位の実績をとりMVPを獲得。アタックス入社後は、営業のコンサルタントとして企業のコンサルティングに従事する。現在はNTTドコモ、パナソニックグループ、朝日新聞社、などの大企業から、中小企業まで、多くの企業に「行動分析学」をもとにした行動改革指導を実施している。その指導は年間200日を超え、指導対象のビジネスパーソンは年に3,000人にのぼる。10年間の在籍期間に300社以上のコンサルティングを経験し、様々な業種業態の課題解決手法を持っている。専門の営業とマーケティング以外にも、製造、技術、管理、企画、クリエイト、物流など広範囲の組織変改を実現するコンサルティングを展開。現場の中で作り出した指導ノウハウは、参加者の9割が設定した問題を解決するという圧倒的な成果を出している。とことん結果にこだわった指導スタイルは多くの経営者、マネジャーから絶大な評価を得ている。
