株式会社特殊衣料~パート出身の女性経営者が創ったいい会社

坂本光司の快進撃企業レポート 経営

札幌駅から車で20分ほど走った札幌市西区の工業団地の一角に、株式会社特殊衣料という社員数120名のユニークな中小企業がある。

主事業は、医療機関や福祉施設等で使用されているタオルや衣類のリネンサプライや福祉用具の販売、介護保険のレンタル、さらには、福祉分野の多彩な自社商品の製造販売等である。

障がい者雇用にも、すこぶる熱心で、現在の障がい者の雇用率は、全国平均が2.4%であるのに対し、同社はなんと38%と高い企業である。そればかりか、障がい者の社会参加を促進支援するため、社会福祉法人も設立している。

同社は、もともとは、布おむつの洗濯業として創業した家業的な企業であったが、同社を今日のように大きく変化変貌させたのは、現会長であり、現社長の実母である池田啓子氏である。

池田氏は、家事はもとより、同居していた自身の母親と、ご主人の母親のお世話、さらには、子育てをする専業主婦であったが、同社の創業者から強く請われるとともに、家族の支援もあり、先ずは1週間に1日だけのパート社員として入社している。

池田さんは、結婚し、専業主婦になるまでは、北海道の著名な企業で、役員秘書室や総務部や人事部で等で働いていたこともあり、パート職とはいえ、次第に、彼女の言動は、社内外の関係者から一目置かれるようになっていった。

責任感が強く心配性であった池田さんは、すぐに毎日勤務となり、そして正社員となり、入社後、数年経つと、社員数10数名の企業ではあったが、ナンバー2の立場までになっていった。

創業者も既に80歳を超え、高齢であったということや、親族に後継者もいなく、池田氏に後継者を依頼したのである。もし池田氏が事業承継できなければ、事業の廃止をする計画であった。

池田氏は、家族の支持は受けたが、当初、社長への就任だけは大いに迷った。

というのは、自身が中学生の時、父親が経営する中小企業が、取引先の倒産のあおりを受け、連鎖倒産し、屋敷は無くなり、家族はバラバラになってしまったこと、そればかりか、大切な社員やその家族までも路頭に迷わせてしまったことを、一日も忘れていなかったためである。

池田さんは、自分が経営者となり、当時雇用していた20名弱の社員やその収入に期待し生活をされていたご家族、さらには、協力業者の方々の雇用や生活を守り続けることができるのであろうかと、何日も自問自答した。

結果として、事業承継をしたのであるが、それは、もしも池田氏が事業継承をしなかったならば、特殊衣料は廃業せざるを得ない状況だったからである。

2代目社長となった池田氏は、単に依頼されたおむつの洗濯だけでは、また特定少数の発注企業に依存・追随するような経営では、社員の雇用を守り、社員やその家族の幸せの実現など到底困難と考えたのである。

出した結論は、「特定の企業や市場に過度に依存しないバランス経営」「価格競争をしない独自経営」「下請ではなく自家商品創り」「業績や企業成長ではなく人とりわけ弱い立場の人々を大切にする経営」等の実践であった。

こうした経営が、次第に社内外の関係者の評価を高め、特殊衣料はゆっくりではあるが着実に成長発展していったのである。

その全てを紹介する紙面的余裕はないが、例えば、自家商品創りひとつをとっても、池田氏が社長になり本格的に取り組むようになった2000年以降、今日まで、開発し市販している商品は100アイテムをはるか超す。

いずれも、病院や福祉の分野では、知られた商品ばかりであるが、とりわけ著名な商品が「アボネット」という商標ブランドの転倒時の頭部保護帽子」である。

もともとは、障がい児向けに開発した画期的商品であったが、社会の要望も強く、今や製造業や建設業、さらには流通業など向けの商品も多く開発している。

こうしたこともあり、池田氏は、優れた経営者に贈られる「渋沢栄一賞」を受賞されたばかりか、特殊衣料は、世のため人のためになる真っ当な経営を実践する優れた企業に贈られる「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞を受賞している。

こうした世のため人のためになる経営を愚直一途に実践する企業こそが、地域再生の旗手でもある。

 

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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