中小企業こそ資本効率追求による株式価値向上を!

中小企業こそ資本効率追求による株式価値向上を! 経営

株式市場の動向と日本企業の評価

2025年9月に入り、日経平均株価は過去最高値を更新する場面も見られ、株式市場は堅調に推移しています。

日経平均株価は、今年4月にトランプ関税により急落し、一時は先行きが懸念されました。

しかし、7月の日米関税交渉が合意に至ると、株価は上昇に転じ、その後、過去最高値を更新しました。

現在の株価をフェアバリューと判断している投資家もいるようですが、いずれにせよ日本企業の価値が高く評価されている状況に変わりはありません。

一部の報道によれば、トヨタ自動車が豊田自動織機の非公開化を進めていることなどを背景に、日本企業による以下のような取り組みが市場から評価され、株価上昇の一因となっているようです。

・ROE(自己資本利益率)を意識したコーポレートガバナンスの強化
・東京証券取引所によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業への資産効率改善の要請

では、株式公開をしていない中小企業にとって、この資本効率の追求はどのように捉えるべきでしょうか?

その答えとして有効なのが、「企業価値評価」という考え方です。

中小企業にも活きる「企業価値評価」の考え方

中小企業など、株式公開をしていない企業が自社の株価を評価する方法の一つとして、日本公認会計士協会が定める「企業価値評価のガイドライン」を参考することができます。

このガイドラインは、M&Aなどで株式や事業を売買する際や、株主間トラブルの解決にあたって株価を評価する際にも利用されており、株式公開をしていない企業の客観的な株価を評価する指針となります。

その中で企業価値の概念として、以下の考え方があります。

株式価値 = 企業価値 - 他人資本(有利子負債等)
企業価値 = 事業価値 + 非事業用資産

事業価値とは、事業活動から創出される価値を指し、この事業価値に、事業に直接関係のない資産の時価を加算したものが企業価値となります。

そして、その企業価値から、資金到達コストが発生する他人資本、つまり有利子負債を控除することで株式価値が計算される構造です。

この構造を決算書でイメージしてみましょう。

まず、貸借対照表において企業が所有する資産は、以下の2つに分類されます。

①事業で使用している資産(事業用資産)
②事業に使用していない資産(非事業用資産)

企業は資産を活用して利益を創出しており、それぞれの資産から生み出される利益は以下の通りです。

①事業用資産を活用することで創出される利益は、営業利益(理論的にはEBITDA:利払い前・税引き前、減価償却前利益)となり、事業価値はこの利益の大きさで評価されます。

②非事業用資産の運用益は営業外収益に計上されますが、有価証券や定期預金といった非事業用資産には時価があるため、その資産の時価で評価されます。

この①と②を足した価値が企業価値となります。そして、貸借対照表の負債は、以下の2つに分類されます。

③買掛金などのように資金調達に利子がつかない負債(無利子負債)
④借入金のように利子がつく負債(有利子負債)

③の無利子負債は事業価値の一部とみなされる一方、④の有利子負債は企業価値から控除され、株式価値の算出に用いられます。

ちなみに、有利子負債のコストは営業外費用に計上されます。

事業価値と資本効率を可視化

この企業価値の概念を活用することで、次の3つの利回りが計算可能となります。

A:事業の利回り      営業利益(EBITDA) ÷ 事業資産
B:非事業用資産の利回り  営業外収益 ÷ 非事業用資産
C:有利子負債の利回り   営業外費用 ÷ 有利子負債

これらの計算は全社で一括して行うこともできますが、Aは事業別に、Bは投資資産別に計算することも可能です。

さらに、「D:株主の期待利回り」も重要な指標の一つです。

一般的に、株式公開をしている企業へ投資している投資家の期待利回りは、6~8%程度とされていますが、中小企業は投資リスクが高いため、期待利回りを10%程度と見込む場合もあります。

皆様が非公開企業に投資される場合も、おおよそこの程度の利回りを期待されるのではないでしょうか?

そして、これらA~Dの4つの利回りのバランスを考慮することが、中小企業にとって資本効率を追求するうえで重要となります。

具体的には、以下のような検討をします。

  • A事業の利回りはD株主の利回りを上回っているか?
  • A事業別の利回りで、D株主の利回りを上回っている事業がどれくらいあるか?
  • 各事業にD株主の利回り以上の目標設定ができないか?
  • C有利子負債の利回りを下回っている事業があれば、その事業の撤退や資産の資金化ができないか?
  • B非事業用資産の利回りとC有利子負債の利回りのバランスを検討し、非事業用資産で有利子負債の返済ができないか?
  • 非事業用資産を投資することで、A事業資産の利回りを獲得できないか?

また、これらの資本効率を追求するためには、各利回りを正確に計算できるよう、事業別の利益はもちろん、事業別の投下資産や非事業用資産ごとの利回りも把握できるような管理会計制度を導入する必要があります。

これにより、毎期の決算時に資本効率を測定し、次年度の課題設定へと繋げることが可能となります。

まとめ

まとめ

事業別の利益を算出している企業は多いものの、貸借対照表も事業別に作成することで、各事業における投資効率を正確に把握することができます。

もし現在、貸借対照表を事業別に作成されていないようであれば、ぜひ一度、その分類に取り組んでみてはいかがでしょうか?

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティングは、中小企業の経営改善に関する様々なお悩みに対し、現状分析から課題解決のためのご支援を行っています。

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筆者紹介

池ヶ谷穣次

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 代表取締役社長 中小企業診断士 池ヶ谷 穣次
アタックス入社後、中堅・ベンチャー企業の業績管理制度構築や業務改善、経営シミュレーション等の幅広い分野で貢献。 システムエンジニア時代に得たシステム思考を応用し、経営者・経理責任者の参謀役として活躍中。

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