世のため・人のためになる三セク 三セクのモデル「サンアクアTOTO」に学べ

坂本光司の快進撃企業レポート 経営

第三セクターは、全国に7,000社以上存在するが、その多くは、「地域活性化」を、お題目に行政主導で設立され、理事長などトップも行政からの天下りというところが多い。

しかも、主たる財源は、行政の補助金や委託費であり、それでかろうじて存在している三セクも正直ことのほか多い。

本来の「三セク」の存在意味・価値は、行政(第一セクター)や民間(第二セクター)の双方に関わる、いわば、中間領域の社会的課題を解決するためや、三セクが実施したほうがより効果・効率的と思われる事業運営のための組織体であるはずである。

その意味でいえば、今、全国各地に存在する、「三セク」は、今一度、その存在価値を再検討することが強く求められているといえる。

こうした中、これぞ「三セク」の存在価値と言っても良い事業運営している第三セクターも全国には少なからずある。その1つが、今回紹介する北九州市の「サンアクアTOTO株式会社」である。

同社の設立主体は、北九州市に本社がある著名な住宅設備機器メーカー「TOTO」と「福岡県」そして「北九州市」の3者であるが、その中核は「TOTO」である。

地域に住む、働く意欲がありながら就労の機会に恵まれない障がい者に、働く喜び・働く幸せを提供したいと、県や市に呼びかけ、第三セクターとして1993年に設立されている。

「TOTO」は、本体でも多くの障がい者を雇用する等、かねてより、障がい者雇用には、積極的に取り組んできた企業であり、自社独自で子会社として設立するという方法もあったが、あえて「三セク」方式で設立したのである。

その主たる目的は、本社では、継続雇用が困難な障がい者のためだとか、法定雇用率を達成するためといった「特例子会社」の設立ではない。

地域に住み暮らす、様々な障がいのある人々が、働きがいをもって、生き生きと働ける多様な就労の場を増やしたいということや、地域内の多くの企業に障がい者雇用への理解と関心を高め、結果として、障がい者にも優しい街づくりのお役に立ちたかったのである。

現在、同社で働く社員総数は144名であるが、そのうち、障がいのある社員は93名であり、障がい者の割合は65%である。

障がいの内訳は、視覚障がい・聴覚障がい・言語障がい・内臓障がい・肢体不自由等のある身体障がい者が39名、知的障がい者が42名、そして精神障がい者が12名である。

より驚くのは、障がい者93名中37名は重度障がい者であることである。

一般的に、障がい者、とりわけ重度の障がい者の仕事は、単純な軽作業になりがちであるが、同社では、健常者もかなわないような様々な仕事を任せている。

TOTOの社員用名刺や商品チラシの印刷はもとより・商品の取扱説明書のレイアウトやその校正・印刷も一手に引き受けている。また、同社では、TOTO製品に使用される150種類もの高度な機能部品や金具の組み立て作業も行っている。

同社の工場を見て関心をするのは、こうした仕事は、ほぼ全て、障がいのある社員が、自分で考え、やり方を工夫できるように、また多能工になれるよう、1人生産(セル生産)方式を導入している。

また、こうした作業を可能にするため、どんな障がい者に対しても、本人が最も働きやすさ・働きがいを感じる環境を見事に整えている。

筆者は、これまで、特例子会社はもとより、数多くの障がい者多数雇用企業を訪問させていただいているが、同社程、一人一人の障がい者に配慮し、環境を整えている企業は珍しい。

こうした生産環境だけでなく福利厚生施設も美しいばかりか、一人一人への配慮が見事である。

例えば、素敵な社員食堂のテーブルは、障がいのある社員が立ち座りする時に、テーブルに、どんなに力をかけてもびくともしないよう、人工大理石で作っている。そればかりか、テーブルの、何か所かには、杖を置きやすいよう楔が打ち込まれているのである。

この他、車いすの高さに合わせた低い洗面台から高い洗面台がある他、肢体不自由の障がい者や視覚障がい者に合わせたトイレも多数用意されている。工場内の通路も事故がないようカーブミラーが設置されているほか、車いすでも周囲が見渡せるよう、設備品の高さは全て、140センチ以下に抑えられている等々である。

現在、わが国には、18歳以上の在宅障がい者は1,000万人強存在するが、民間企業で雇用されている人は約67万人、行政機関を含めても、僅か77万人程度に過ぎない。そればかりか、法定雇用率を守るべき企業の達成割合は未だ50%にも満たないのである。

障がい者雇用は難しいとか、余裕がある企業こそが、やればいい等といって、障がい者雇用に積極的に取り組もうとする企業が、残念ながら未だ少ない。

その意味では、こうした「TOTO」と「福岡県」そして「北九州市」がコラボしての、三セク運営での「サンアクアTOTO」の取り組みは高く評価できる。

こうした障がい者の雇用の場を増やすための三セクは、全国に数事例確認できるが、未だ極めて少ない。全国の自治体が、こうした「三セク」を一つでも設立したならば、全国各地で多くの障がい者就労が実現するとともに、近年の人財不足社会にも対応できるのである。

読者各位にはぜひとも知って欲しい、また行って確かめて欲しい、障がい者雇用のモデル企業・モデル「三セク」である。

 

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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