カン喜~頑張る障がい者多数雇用企業

経営

山口県周南市に「カン喜」という社名の中小企業がある。設立は昭和57年、現在の主事業は冷凍食品の製造販売で、代表的商品は「かきフライ」や「殻つきかきグラタン」で後者の生産販売量は全国一である。ちなみに、当社のかきグラタンの器は「かきフライ」の殻を洗浄して活用するのでまさに一石二鳥である。

現在の社員数は72名、売上高は約7億円という典型的な中小企業であるが、当社の最大の特長は障がい者雇用先進企業という点である。事実、カン喜本体の社員数72名中32名は障がい者、障がい者雇用率は、なんと44.4%である。

余談であるが、当社では本社とは別に、自社はもとより地域の、障がい者雇用を一層推進するため就労継続A型施設として「よろこび」という施設を運営しているが、そこにも48名の障がい者が就労している。

周知のように、わが国における障がい者の法定雇用率は2.0%であるが、実態は1.8%であり、法定雇用率にも達していない。これは多くの企業が、障がい者雇用に本気・本格的に取り組んでいないからであり、一方、障がい者の就労に対して誤解も、少なからずあるからである。その意味では、いかに当社の障がい者雇用が特出しているかが理解できる。

ところで、経営的余裕の余りない中小企業の場合、障がい者雇用への取り組みは、施設や企業等で就労経験のある、即戦力型の障がい者を雇用するのが一般的である。

しかしながら、当社の障がい者雇用の中心は、これまで全く就業経験のない特別支援学校の卒業生である。このため現場で働く社員の年齢は18歳から40歳、平均では約30歳であり、国内の冷凍食品工場で働く従業員は60歳以上が多い中、当社の若さは例外的といえる。

障がい者の雇用を促進するため、さらには障がい者により高い給料を支給したいがため、企業内は多くの工夫が施されている。例えば、障がい者一人一人の個性を見極め適材適所型の配員が行われているほか、生産工程をあえて細分化し、障がい者の仕事を創造している。加えて言えば、失敗に対してもあきらめず、根気よく指導している。

こうしたことができるのも、創業者である上坂道麿会長の障がい者に対する思いがとりわけ強いからといえる。創業者の上坂会長は昭和57年の会社設立後まもなく障がい者雇用に取り組んでいるが、それは当時の養護学校の先生方や父兄から雇用を依頼されたこともあるが、自身の両親の影響も大きかったという。

ちなみに上坂会長は、福井県の出身であるが、戦前・戦後の混乱期、経済的に余裕のない地域住民のために、会長の両親が自宅を開放し子供達や障がい者を預かる姿を見ながら育ち、いつしか自分も弱い人々のためになることをしようと思い生きてきたという。

10年後の計画は、障がい者雇用150名を含め、全体では300名体制にしたいと語る。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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