マスキングテープ市場の池クジラ -カモ井加工紙株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2023年3月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載103回目の今回は、岡山県倉敷市で、各種粘着テープ、捕虫製品の研究開発、製造、販売を行うカモ井加工紙株式会社(以下、K社)の池クジラぶりを見ていきたい。

K社は、1923年に鴨井利郎氏が創業したのが始まりである。

1930年に、天井吊り下げ式のハエ取り紙「リボンハイトリ」を開発したところ、大ヒットとなった。

ハエ取り紙が誕生したのは、時代背景として生活衛生状態がよくなかったことが大きい。

食品問屋出身だった創業者も、食品に寄って来るハエをどうにかできないかと悩んでいたが、当時、国産の粘着式ハエ取り紙はなく、高価な輸入品しかなかったため、なかなか一般家庭にまで普及しなかった。

K社としては、「それなら、安くていいハエ取り紙をつくりましょう。」となったのである。

さらに高度成長期を迎え、まだハエ取り紙は売れ続けていたが、下水道の普及や殺虫剤の登場によって、近い将来、確実に市場は縮小すると、K社は判断した。

そこで、ハエ取り紙で培った粘着技術を活用して、1962年、工業用マスキングテープの生産をスタートさせた。

自動車需要が増える中で、当然、車をこすったりぶつけたりして塗料がはがれるといったことも多くなった。

そこで、その周りにテープを貼る塗装用に活用された。

1970年代には、高層ビルの建築ラッシュに伴い、シーリング(気密性や防水性を高めるために、建物の継ぎ目やひび割れなどの隙間を充填すること)用の養生テープとして重宝されるようになった。

当時の海外の紙テープは、クレープ紙素材が主流で、強度はあるが厚みもあり、塗装したときに紙の厚みの分だけ段差ができてしまうという課題があった。

そこでK社は、できるだけテープの厚みが薄く、しかも耐水性があり、破れにくい和紙をマスキングテープに採用することにより、そういった悩みを解消した。

K社が、モノづくりにおいて大事にしていたのは、現場の声を聞くことだった。
職人の元へ出向き、その不満の声を一つひとつ直接拾い上げていった。

また現場に出向くだけではなく、開発段階で、職人の方に社内の会議に参加いただく職人会議も開催するなど、現場の声にとことんこだわった。

さらに、単にそのニーズを反映させた製品を作るだけではなく、実際に現場でテストすることで改善・改良を加え、より使い勝手を向上させ、職人の高い支持を得ていった。

2006年、東京に住む3人の女性からK社に工場見学希望の連絡があった。

工場を訪れた3人は「手でちぎって使えるし、はがしても糊が残らない」「上から文字も書ける」「重ねた時の透け感がかわいい」と次々に感想を口にした。

K社にとって彼女たちの視点は、これまでにない斬新なものだった。

さらに、彼女たちは「もっとこんな色があれば…」「もっとかわいいデザインがあれば売れるのに…」という要望を次々に出してくれた。

そこでプロジェクトチームを発足し、そうした要望を手掛かりに商品化を進めていった。

それまで工業用で重視されていたのは品質や値段のみだったが、文具用となると、テープの長さも工業用のままでは長すぎる。

どんなデザインが嬉しいのか、どれくらいの長さなら使いやすいのか。
どのような販路を開拓していけばいいのかなど、多くの課題が出てきた。

その解決のために、彼女たちの意見を積極的に聞き、新たな視点で新しいマスキングテープづくりに取り組み、試行錯誤を続け、2008年、文具・雑貨向けマスキングテープ「mt」が誕生した。

「mt」の20色もの繊細なカラーリングは、発売と同時に爆発的な人気となり、発売から10年も経たないうちに年間売り上げ20億円までになった。

文具用マスキングテープ市場におけるシェアは約7割にまで達している。

以降、様々なイラストや模様を施したり、デザイナーとコラボレーションしたり、今までに4000種類以上が生み出され、K社の一大ヒット製品となった。

これにより、工業用としての用途しかなかったマスキングテープが、文具・雑貨向けという新たな市場開拓につながったのである。

K社は、現場の声に徹底的に耳を傾け、その課題を解決する製品を開発し続けることにより、お客様から高い評価と信頼を得た。

K社は、マスキングテープ市場(池)のクジラとなった。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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