グローバル企業を凌ぐ補聴器 -リオン株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2021年7月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載83回目の今回は、東京都国分寺市で、医療機器事業(補聴器、医用検査機器)、環境機器事業(音響・振動計測器)、微粒子計測器事業(微粒子計測器)の製造、販売およびこれらに関連する部品、機器等の製造、販売、サービスなどを行うリオン株式会社(以下、R社)の池クジラぶりを見ていきたい。

R社は1944年、音響学と物理学の民間研究所である一般財団法人小林理学研究所の研究成果の製品化を目的として設立された。

「すべての行動を通して人へ社会へ世界へ貢献する」という強い思いを込めた企業理念をベースに、医療と環境と産業の分野で、補聴器をはじめ4製品群を軸とし、日本初・世界初の新製品を数多く世に送り出している。

ところで、日本の補聴器の市場規模は356億円(2019年)である。

聞こえに不便を感じていても、日本人は欧米と比べなるべく補聴器に頼りたくないと耐えてしまう人が多い。

その結果、難聴者数の推計が1,400万人と、総人口の11.3%という世界第3位の高い割合で存在するにもかかわらず、補聴器使用率は14.4%と、欧米の30~50%に比べて極めて低い。

一方で世界市場は約1兆円あり、100年企業のフォナック、オーティコン、シバントス等々のグローバル企業がしのぎを削り、日本にも押し寄せてきている。

そのような中において、R社の補聴器売上は98.5億円であり、日本国内でトップシェアをキープしつつ成長しているのだ。

補聴器先進国である欧米の常識では測れない、よりきめ細かなニーズに対応しなければならない日本市場でR社が選ばれているのは、北海道から沖縄まで全国約400店舗あるリオネット補聴器販売店を通じ、利用者から届いた多くの声を反映させているためだ。

また、開発部のある本社に補聴相談室が併設されており、日頃から技術者が直接お客様の声を聞くことができる。

その声に応えることで次々と新機能を生み出してきた。

日本語という特有の言語をより聞き易くさせるなど日本人に集中特化し、世界の非常識とも言えるきめ細かな対応ができているのだ。

また、そうしたお客様の声を現実のものにする、多くの世界初を生み出している製品開発力をR社は持っている。

1986年に発売された世界初の防水対応の耳かけ型補聴器や、1991年に発売された世界初のデジタル補聴器、同じく1996年に発売された世界初の電池をどちら向きに入れても大丈夫なおまかせ回路を搭載した耳かけ型補聴器、2005年に発売した日本人の耳に合わせた、やはり世界初の防水型のデジタルオーダーメイドの補聴器、そして2017年に販売した主に外耳道閉鎖症、多量の耳漏などにより通常の補聴器が使えない難聴者を対象とした世界初の軟骨伝導補聴器などである。

さらに製品開発だけではなく、騒音抑制(会話と騒音を区別し騒音を抑制)、指向性(正面の音を強調し後方の音を抑制)、音声強調(人の言葉を強調し、より聞き取り易くする工夫)、残響抑制(音が響く場所での残響音を抑制)により、必要な音を聞き易くすることに特化した技術力を磨いている。

ただ、製品開発力・技術力を高めることは重要ではあるが、どんなに技術的に優れた補聴器を開発しても、使用される方が使い続けないことには効果が発揮されることはない。

製品開発と同様に補聴器の調整も重要であると考え、R社では聞こえや生活環境は一人ひとり異なるということを強く認識して対話を重ねることで、どのような音を楽しみたいかなどその人に合わせた、きめ細やかな調整も行っている。

このように、R社では、日本人の高い要求水準に対応できる製品開発力ときめ細かなサービスにより、並みいるグローバル大手補聴器メーカーたちの攻勢を凌ぎ、着実に成長しているのだ。

R社は、世界の補聴器では対応できない、日本人の高度にしてきめ細かな要求に対応できる補聴器市場(池)のクジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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