お茶屋さん繁盛支援業 -株式会社吉村

経営

西浦道明のメルマガ 2018年7月

2014年から当メルマガでは、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載47回目の今回は、東京都品川区戸越で食品包装資材の企画・製造・販売を行う、株式会社吉村(以下、Y社)の池クジラぶりを見ていきたい。

Y社は、1932年7月、吉村英一氏が創業。1973年、後継社長に就任した吉村正雄氏(以下、父)は茶袋の生産能力を飛躍的に伸ばし、商圏を東京から全国に拡大。業界トップになった。

2005年11月、長女の橋本久美子氏(以下、娘)が3代目社長に就任。

ペットボトルのお茶が売れ始めて日本茶を淹れる習慣が急速に失われ、コーヒーが飲まれる社会に変化したことがきっかけだった。

Y社が業績を下げる中、カタログ制作担当者の娘は、お茶屋さんのエンドユーザーに目を向けるべきと進言した。

そして、父から「明日の飯をつくるのはお前だ」と信頼を獲得した。

娘は、Y社は売上の95%が緑茶に関連する製品。全国8000件ものお茶屋さんに支えられているのだから、お客様から逃げずに、大手に真似できないことをお客様の視点から見直して業務プロセスを磨けば、成長のチャンスはまだまだいくらでもあると考えた。

娘は、自社事業を「茶業界のビジネスパートナー」と再定義。

「日本茶の需要創造」に挑むことにした。 

このため、経営の基本スタンスを、プロダクトアウトからマーケットインに転換。

消費者の声を聴く、諸々の仕掛けを作った。

その一つが、1995年から今も続く「消費者座談会」だ。

消費者の声から製品やカタログを作り、こうした仕掛けによって顧客ニーズを吸い上げ、改善へと繋ぐPDCAサイクルをハイスピードで回すことにした。

こうして、お客様にとっての新市場創造型の製品開発、顧客マーケティング支援業への大転換が、一つ目の経営方針である。

経営方針の二つ目は、日本茶の新市場を創造する三つの仕組みである。

(1) パッケージ化

(2) 小ロット生産のためのデジタル印刷システム

1回分の茶葉が入る個包装用のパッケージは、数百円からという店頭販売価格の手頃感もあり、「パーソナルギフト」の需要増加に伴い大きく成長した。

商品の誕生から各成長ステージに合わせ、柔軟にお客様をサポートしている。

(3) 店頭のデザインやユニフォーム、POPなどの販売促進

包装紙やしおり、フィルターインボトルなど新しい茶器開発に至るまで、「お茶屋さんが繁盛するためにできるすべてのことを…」という思いから、お茶屋さんのビジネスパートナーとしてフルサポート体制を整えた。

経営方針の三つ目は、全員参加の目標管理と全社員の動機づけである。

経営計画発表会・全員参加会議・ES調査・ノーベル起案・壁新聞・イチオシ投票・ダイバーシティなど、社員一人ひとりが主人公になる多種多様な取り組みを実践している。

その中で特に力を入れているのが、全員参加型の全員が1人20秒で何かしらの発言を行うことをルールとした5分会議だ。

会議では、現場からの声を集め、お客様に貢献するために、お客様と常日頃接している「現場社員しか把握できないお客様のニーズ」や、「製品を作っている現場社員の細やかな気づき」といった情報を全社員で認識し、共有し行動する企業文化が形成されている。

これが上二つの経営方針を支えている。

Y社は全国8000件のお茶屋さんに特化。そのエンドユーザーのニーズ・ウォンツに目を向け、コーヒーやペットボトルに押され気味の業界の新製品開発・新市場創造までフルサポートする「お茶屋さん繁盛支援業」という池(市場)を創り上げ、そのクジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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