漢方医学と西洋医学の融合に貢献する -株式会社ツムラ

経営

西浦道明のメルマガ 2017年8月

2014年から当メルマガでは、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載36回目の今回は、東京都港区で、医薬品(漢方製剤、生薬製剤他)の製造販売を行う、今や堂々たる大企業の株式会社ツムラ(以下、T社)の池クジラぶりを見ていきたい。

1893年(明治26年)、津村重舎が故郷の奈良を出て上京し、「良薬は必ず売れる!」と良薬普及の大志を抱き、母方の実家・藤村家に伝わる中将姫由来の薬『中将湯』を製造販売すべく、津村順天堂(今日のT社の前身)を創業した。

その後T社は、1924年、津村研究所(現・ツムラ漢方生薬研究所)と薬草園を創設。1974年には医療用漢方製剤29処方の販売を開始した。

折しも1976年、厚生省(現・厚生労働省)がT社の医療用漢方製剤33処方を薬価基準に収載。

医療機関で処方される漢方薬が健康保険適用となった(T社の医療用漢方製剤は現在、129品目が薬価収載されている)。

しかしながら、1883年、明治政府が医師養成・医師免許を西洋医学のみに頼り、日本の伝統医学である漢方を排斥してきた100年近い歴史がある。

長らく漢方は「エビデンス(科学的根拠)がなく、得体が知れない」と思われてきた。

しかし、そうは言っても、細菌を殺したり精密な検査を得意とする西洋医学に対して、不定愁訴を治療することに長けた漢方医学の良さは、多くの医者が認めてきたところである。

先日お亡くなりになられたT社芳井順一前社長(以下、Y氏)は、西洋医学と漢方医学を融合させることを自らの使命と考えた。

1997年当時、全国に80ある大学医学部・医科大学の中で、漢方医学教育が実施されていたのがわずか24大学であり、それも自主的な学習講座や講義に過ぎなかった。

Y氏は、80大学すべての教育を変革しなくてはならないと考え、情報提供活動に力を入れる。

一方、文科省の医学教育カリキュラムに「和漢薬を概説できる」という一行が追加され、漢方医学教育が全国80の大学医学部・医科大学で実施されるようになる。

また、西洋医学と同レベルで、医療用漢方製剤のエビデンスを確立する取り組みを進めた。

具体的には、医療ニーズの高い領域において、漢方薬が特異的に効果を発揮する疾患に的を絞り、臨床・基礎データを集積させている。

さらに、漢方薬の原料となる119種類の生薬について、トレーサビリティの体制を整えた。

原料生薬を安定供給・確保をするために、国内に生薬栽培拠点の拡大を進めるとともに、栽培の機械化や研究等にも取り組んでいる。

T社では、Y社長の遺志を継いだ加藤照和社長の下、漢方医学の研究開発、医療業界への普及活動をさらに進め、市場を拡大し続けている。

その結果、医療用漢方製剤市場のシェアは、2016年3月末時点で84%と「漢方薬と言えばT社」と言われるブランドを確立させた。

T社は、どの医療機関・診療科においても、患者が、必要に応じて漢方を取り入れた治療を受けられる医療現場の実現に貢献する、というビジョンを掲げ、漢方医学と西洋医学を融合させた日本独特の医療体制に貢献し、そこに必要な漢方製剤を提供することで、医療市場(池)を創り、その巨大な池クジラとなっている。

  
  
アタックスグループでは、1社でも多くの「強くて愛される会社」を増やすことを目指し、毎月、優良企業の視察ツアーを開催しています。
視察ツアーの詳細は、こちらをご覧ください。

西浦道明のメルマガバックナンバー 一覧へ

筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
タイトルとURLをコピーしました