全員参画経営を実現する -サトーホールディングス 株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2016年11月

2014年から当メルマガでは、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載27回目の今回は、東京目黒区に本社を有し、自動認識ソリューションの開発、製造、販売、保守メンテナンス等を行うサトーホールディングス株式会社(以下、S社)の池クジラぶりを見ていきたい。

S社は、1940年5月、佐藤陽氏(以下、S氏)が創業。

S氏は竹材加工機械や自動結束機を次々と発明。

「あくなき創造」という社是のもと、1962年にハンドラベラーを開発、これが世界的なベストセラーとなった。

S氏がハンドラベラーを開発したきっかけは、「商品一つひとつに値札を貼り付ける作業を見て『何とか楽にできないか』」と考えたことにあった。

また1964年にはハンドラベラーに使用するラベルの自社製造も開始し、機械メーカーの枠を超え、サプライ事業にも取り組んだ。

さらに、1970年代に小売現場にPOSシステムの導入が始まったが、1981年、S氏は、世界初のバーコード用熱転写式プリンタを開発した。

こうしてS社は、モノに情報を付加するタギング(タグ付け)分野でのトップ企業となり次々と異分野のソリューションを手掛け、事業拡大している。

このような成功要因の1つは、創業時から続く「現場力」である。

お客様のニーズが改善提案を期待するようになるなか、多くのライバル企業は面倒で手間のかかる現場には行かず、メーカー機能のみに特化した。

一方でS社は、面倒で手間のかかる現場に赴くことを重視し、機器と消耗品の両方を扱ったため、それらの最適な組み合わせを現場で仮説検証することにより、お客様に対してソリューション提供することが可能になったのだ。

2つ目は、「全員参画経営」の実現である。具体的な取り組みとして行ったのが三行提報である。

S氏は、戦後の焼け野原から生きていくために起業し、家族と社員を路頭に迷わせたくない一心で社業に邁進したが、戦後当時の日本の経済状況は厳しく、多くの企業が、生産の停止、労働者の一時解雇に踏み切っていた。

一方の労働者は、新たに施行された労働組合法により、労働条件や地位の改善を要求するという権利を得た結果、労働争議が増加していく状況にあった。

S氏の想いとは裏腹に、S社も社員と労働争議になった。

S氏は「なぜこのように批判されるのか」「いっそのこと潰してしまって、自分ひとりでやり直した方がいいのではないか」と真剣に悩んだ。

組合闘争が終結した後、S氏は、「全社員がいつでも経営者に物申すことができるなら、労働組合など必要なくなるに違いない」と考え、二度と争議が起こらないよう、1976年、毎日、全社員から直接意見を吸い上げるこの制度を誕生させた。

制度ができて40年経った現在も同制度は続いており、全社員が現場で得た会社への改善提案、共有すべき情報、お客様の声などを三行(127文字)にまとめ、毎日、経営トップへ直接報告している。

これにより、(1)社員が現場をくまなく観察するようになり、(2)三行にまとめ毎日提出するので、社員が常に考えるようになり、(3)三行提報のDB化で社員の考え方の変化・ノウハウを蓄積できるようになった。

その結果、経営トップは、いち早く社内外の環境を把握でき、対策を取ることが可能となり、「全員参画の経営」を実現させている。

S社のタギング対象市場として、小売業は今や17%に過ぎない。

製造業、運輸倉庫業、医療・医薬業など、多方面に次々とソリューションを提供し、自らの市場(池)を今も拡大させ続け、売上は1000億円を越えた。

S社は、巨大化した池のクジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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