介護業界の常識を覆す -ステラリンク株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2016年10月

2014年から当メルマガでは、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載26回目の今回は、愛知県一宮市を中心に幅広い領域で介護福祉サービスを提供しているステラリンク株式会社(以下、S社)の池クジラぶりを見たい。

S社は、1992年2月、現社長の筒井健一郎氏(以下、T氏)が設立した。

東レに入社後、訪問販売員、百貨店配達員、仕出し弁当づくり、タクシードライバー、トラックドライバー等様々な職業を経験し、1983年、35歳で物流会社を設立した。

しかし、社員に長時間労働を強いた結果、労働争議が発生。
48歳の時、その責任を取って会社を去った。

この過去の苦い経験に対する反省から、T氏は人を幸せにする経営、働きやすい職場づくりの重要性を心底理解した。

2年間の無職生活を経てS社を設立し、社長に就任したT氏は、利用者満足度と社員満足度の両立を決意した。

利用者満足を支えているのが、S社の中核施設となっている延べ床面積1,300坪の日本最大級の規模を誇る「たんぽぽ温泉デイサービス一宮」というデイサービスセンターだ。

ここには、「訪れた人がみんな笑顔になる、介護のディズニーランドを目指す」というT氏の思いが込められ、年間7万8千人、1日当たり平均約250人の利用者がやってくる。

施設は2階建て。
1階の広い空間には多くの円卓があり、利用者が仲間と談笑したり食事ができるフリースペースになっている。

2階には、「パチンコルーム」「カジノルーム」「麻雀ルーム」「将棋ルーム」「カラオケルーム」「英会話ルーム」「パソコンルーム」「囲碁ルーム」等々の個室が設置され、250種類ものリハビリプログラムが用意されている。

それらの中から、利用者は自分の好きなものを選び、1日の過ごし方を自由に組み立てられる。

プログラムの利用には、施設内通貨「シード」を使う。

例えば、2階に設けられた約100mの通路(リハビリ通路)を、徒歩で一周すると100シード、杖をついてだったら200シード、車椅子でなら300シード支給される。

一方で、カジノや麻雀等でシードを使い果たせば破産となる。

一般にこの種の施設は利用者の満足度が高い。

しかしその一方で、サービスを提供する社員が常に疲労困憊というところが多い。

特にS社では、これだけ利用者に自由度を与えているだけに、社員の負担が大きくなりがちだが、離職する社員はほとんどいない。

そればかりか、他の施設で疲れ果てた求職者の入社希望も多い。

S社がこの問題を解決できているのは、「ESなくしてCSなし」。

「ディズニーランドのように、笑顔でキャスト(社員)が働ける環境づくり」というT氏の経営方針のもと、自社開発したSMILEシステムによる効率化で、社員満足度が高いからだ。

S社では、620人の社員中、非正規の女性社員が9割以上である。
業界平均5割程度と比べるとかなり高いが、ここに秘策がある。

一般に、女性社員は出産・子育てに課題がある。

S社では、子どもに急病が発生した場合、電話一本で休んでいい。
また、残業ゼロを徹底している。

施設内にスタッフ専用託児所があり、常に人員を多めにしてシフト管理に柔軟性を持たせている。

T氏は、非正規社員を厚くすることで、サービスレベルを高く維持することに成功した。

S社は、従来の介護業界の常識を覆し、苛酷な労働環境を避け、社員が離職しない環境を整え、利用者主導の巨大デイケアサービスという市場(池)を創りあげ、その池クジラとなった。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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