自らが戦う土俵(市場)を絞る -大垣精工株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2016年4月

2014年から、当メルマガでは、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を上げている中堅中小企業をご紹介している。

連載20回目の今回は、超精密金型の設計・製造・販売を行う大垣精工株式会社(以下、O社)の池クジラぶりを見ていきたい。

O社は1968年、創業者で代表取締役社長の上田勝弘氏(以下、U氏)が、職場の仲間7人と共に脱サラし、電子部品の金型生産を主事業として創業した。

現在では、従業員が220名を超える全国でも有数の金型企業に成長している。

金型やプレス部品の製造企業は、一般には、製品や部品メーカーの協力工場である。

どちらかというと大半が職人的・家業的で、営業力・販売力は総じて苦手。
取引先は、特定企業や、特定業種に偏りがちである。

また多くは、開発技術・設計技術を持たず、製作だけに留まっている。

そんな中、O社は、独立型・自立型の金型メーカー・プレス部品メーカーにこだわり続けた。
 
O社成長の1つ目の理由は、受注型・価格競争型企業の限界を知っていたことである。

U氏は、前職で、様々な発注企業との取引を経験したが、発注先と対等な関係でなければ自分たちが幸せになれないと悟った。

その結果、提案型・能動型・承認図型・非価格競争型経営にこだわった。

2つ目は、テクノロジープッシュ型・マーケットイン型の経営の実践である。

当時一流と目される企業からの引き合いは、少しずつ、高度化・高品質化・高精度化していた。

U氏はこうした市場の変化・ニーズ・ウォンツを見逃さなかった。

そこで、あえて難しい面倒な仕事に取組み、超精密金型の設計製作・超精密プレス部品の設計製作にターゲットを絞り込んだのである。

この実現のため、U氏は、以下の4点にこだわった。

1つ目は、一貫生産体制である。

O社は、金型の設計製作からプレス部品の設計製作まで一貫生産している。

その上で、金型の設計製作からはじめてもプレス部品として売り、技術が流出しにくいビジネスモデルを採用している。

2つ目は、多種多様な金型の設計製作による技術の蓄積である。

一般的に金型企業というと、プレス金型専門とか樹脂金型専門とか、単発型が大半である。

しかしO社は、トランスファー型、ファインブランキング型・積層コア型やセラミックチップ・触媒ハニカム型等、オールラウンドの金型メーカーであり、顧客のあらゆる要望にチャレンジして多能工的に技術を蓄積した。

3つ目は、市場の分散である。

一般に、金型企業やプレス企業の市場や取引先は、自動車部品が中心とか電気部品が中心という具合に、特定市場や企業に依存している。

しかし、O社では、電子機器用部品・自動車用部品・電気用部品・医療器用部品の金型やプレス部品を売っており、景気変動に左右されない、安定収益基盤の確立に成功した。

4つ目は、自社独自の武器を磨きブランドを確立した。

現在、数あるO社の生産品目の中で、とりわけ有名なのが「HDDサスペンション部品」である。

この部品は磁気ディスクとして記録を読み込む磁気ヘッドの間隔を8ナノ(0.008um)以下に保つ重要機能部品である。

この製法技術を有する企業は、世界中でわずか4社しか存在しない。

ちなみに、O社の世界シェアは40%、国内シェアでは何と70%と、トップ企業になっている。

このようにして、O社は自らが戦う土俵(市場)を超精密な金型の設計製作・超精密なプレス部品の設計製作に絞り、その市場では磐石の基盤を創り上げ、見事に、その小さな市場(池)の圧倒的トップ企業(クジラ)になっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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