義肢装具にアートの視点を取り入れる -中村ブレイス株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2015年5月

昨年来、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得している中小企業をご紹介している。

第9回は、人口約500人の過疎化が進む島根県大田市の大森町で、堅実にオンリーワンビジネスを続ける義肢装具メーカー、中村ブレイス株式会社(以下、N社)の池クジラぶりを見ていきたい。

N社は、1974年、現社長の中村俊郎氏(以下、N氏)が創業した。

義肢装具は一品一様であり、障害を持たれた方一人ひとりに違うものをつくらなければならず、大企業が得意とする量産体制や急速な技術進歩とは縁遠い、時間や手間のかかる業界である。

それゆえ、地域の中小企業でも生き残ることができた。

現在のN社は、年商約10億円、経常利益約2億円に成長した。

N氏は、業界の誰も気づかなかったシリコーンという新素材による義肢装具の製作にいち早く着目した。

まずは靴の中敷きを作ることから始めた。

シリコーンは小さな穴が開いていて通気性に優れ、臭いがつかない、むれないなど、それまでの革やコルクで作られていたものと比べ、比較にならないほどの優れた機能を持った。

医療の用途ではきめ細かなメンテナンスが必要なため、同業者にケアしてもらうことが正しいと考え、同業者と共存共栄し、1984年の発売以来、これまでに150万個を販売するまでになり、N社の経営の礎を築く製品となった。

さらに1993年、「メディカルアート研究所」を開設し、事故や病気で失った耳や鼻など身体の一部を、シリコーンを使いリアルに再現する補正技術の研究開発を本格的に始めた。

メディカルアートでは、義肢製作にアートの視点を取り入れるという、業界の誰もが考えなかった非常識に挑戦し、形状も色合いも驚くほど本物そっくりの手、耳、人工乳房などを、喪失前に撮ってあった写真をベースに製作しているという。

人工乳房を製品化した当時、乳がんの治療は、外科手術によって乳房を切除する方法がほとんどであり、乳房を喪失したことに悩む人が多かった。

そこで、たとえば、人工乳房には、サーモ変色ラバーを使用し、お風呂に入ると、本来の皮膚と同じように赤みが帯びるようにした。

「旅行先で、みんなとお風呂に入りたいけど、恥ずかしくて入れない」という女性の悩みを解消してあげることに成功したのだ。

また2002年、人工肛門用装具を開発した。

それまでの輸入品は、かぶれるなどの不都合があったが、人口乳房と同じく、徹底的にユーザーの立場に立って開発に取り組んできた。

こうしたメディカルアートという、より精巧に質感を再現した一品一様の義肢製作は、大いに手間がかかりどの部位でも多額のコストがかかる。

ところが、保険が適用されない。

したがって、N氏は、ユーザーに対して、何とか支払えそうな10~20万円という低価格で提供している。

このようにN社は、シリコーンの用途開発をベースに、徹底的にユーザー視点に立つことで、圧倒的に高品質な、義肢装具にアートの視点を取り入れたメディカルアート市場という「池」を切り開き、その「クジラ」として、顧客の感動を創出し続けている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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