「本当によいもの」にこだわる -松山油脂株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2014年12月

本年9月から、中小企業は自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、自らがその池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」になることで高収益を生み出せるという考え方をご紹介している。

今回は、年商4億円の下請け製造業から、20年近くかかったが、年商60億円、経常利益6億円の自社ブランド製品メーカーにまで成長した、松山油脂株式会社(以下、M社)を取り上げる。

社員数519名。
創業5代目の経営者は、代表取締役社長、松山剛己氏(以下、M氏)である。

M氏は「他社に依存せず、自分たち固有の価値観で、自律した経営のできる会社にしたい。人に命令されたり縛られたりせず、自社で方針を決め、自社で価格決定権を持ちたい」と強く願い、大企業が手を出せない「小口配送、少量多品種、鮮度品」に対象を絞り、事業変革に挑んだ。

そうは言っても、広告宣伝費など使えず、営業マンも自分一人、週1日しか営業する時間がない。

そこで、フロア担当者が購買決定権を持つ、大手小売店3社、東急ハンズ、ロフト、ナチュラルハウスにのみ、営業対象を絞った。

当時はまだ、化粧品で「無添加」というものは目新しかったことから、消費者から「こんなにいいものが、こんなに安く?!」という顧客価値を実現できた。

大変良く売れ、販路が拡がった。

こうして、M社は、「フロア担当者が購買決定権を持つ棚」という「小さな池」のクジラになった。

ところが、大手小売店1社あたりの年間売上が3億円、自社全体の売上が10億円を超えると、売上成長が止まった。

M社の製品が、大手小売店3社内で、フロア担当者に決定権のある棚をほぼ占拠し、限界に達してしまったからだ。

そこでM社長は、この壁を突破しようと、2000年、新たに開発した自社製品を直営店舗で販売する、製販一体の新事業「MARKS& WEB」を立ち上げた。

通常、多店舗展開するには、それなりに店舗コストがかかるものだが、M氏は、駅ビル等で、エスカレーター周りのデッドスペースになっている、誰もが気づかなかった極小スペースに着眼した。

そこに、三連什器なるそこを有効活用する什器を考え出して設置し、店舗や広告宣伝のコストを徹底削減できる直営店をスタートさせた。

その結果、品質の高い原材料を使った製品を、驚くほど良心的な低価格で提供することに成功した。

ここでも「こんなにいいものが、こんなに安く?!」という顧客価値を生み出すことに成功したのだ。

昨今、女性の趣味や嗜好、ライフスタイル、価値観などは日々変化し、多様化してきている。

M社は、「シンプルさを好み、肌にも、自然環境にも優しい商品を選択する女性」を対象にした、“WASH&CARE”という「池」に絞り込み、たとえば、自社の社員が、自分の家族や大切な友人らに、胸を張って商品紹介することができる、“本当によいもの”にこだわった。

さらに、使う人の心が自然におだやかになるような、天然の原料(天然精油や植物エキス、植物末、天然色素)など、“本当によいもの”をつくるためには何を使うべきかを丹念に考え、じっくり素材を選んでいる。

そして、毎日使っていても心地よく、どのようなインテリアにも馴染む、シンプルで飽きのこないデザイン、安心して使える価格にもこだわり、企画・開発・製造までを一貫して行っている。

その結果、今日の、極めて細分化された女性のニーズに対応する製品展開が実現したのである。

そして、今度は、この少し大きめの「池」のクジラになったのだ。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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