経営の極意は「論語」と「そろばん」 -和食レストランN社

経営

西浦道明のメルマガ 2014年3月

地域で14ヶ店の和食レストランを営むN社に2代目の兄弟経営者がいる。

父親が創業した23年後、F社長(兄)は、勤める大企業を3年で辞め、父親の反対を押し切って入社した。

入社時の売上は3.5億円、利益はゼロ、バランスシートは債務超過だった。
父親が反対したのは当然だった。

自分自身の入社後、やはり大企業に勤めていた弟(F専務)を呼び戻し、兄弟で力を合わせ、売上16億円、利益1.7億円、自己資本比率75%のレストラン会社に育て上げた。

構造不況の飲食サービス業にあって、いったい何がこの会社をここまで発展させたのだろうか。

まず、F社長が、父親の反対を押し切ってまでして会社に舞い戻ったのは、単に父親の健康に対する心配を越え、「父親を支えてきてくれた社員たちを路頭に迷わせていいのか」という思いが芽生えたからだった。

同じ職場に、「自分の家業を継がなかったゆえ、多くの社員を路頭に迷わせてしまった」という十字架を背負った先輩がいた。

この先輩の経験談が、苦労を覚悟の上で父親の会社に戻る決断を、F社長にさせた。

F社長の強力な営業力により、入社5年後には、売上が10億円にまで拡大していた。

しかし、バランスシートの右側には、売上と同じ10億円の借金が積みあがっており、利益はないに等しかった。

これが何を意味するかを理解したF社長は、そこから必死になって「ホンモノの経営」を学んだ。

そして、P/Lではなく、B/S重視の経営をしなければならないことを知った。

それまで、経営とは、「売上を拡大させること」と勘違いしていたのだ。

F社長が学んだ経営とは、まずは経営理念を打ち立て、自社が社会で何のために存在するのかを示すことであった。

「人に喜んでもらうことが使命・・・」とミッションを掲げた。
人とは社員であり、お客様であった。

またバリューとして、「この街に必要とされ続け、この街になくてはならない資産となる・・・」と掲げ、N社の生み出す価値を定義した。

これを実現するには、「誰でも好きになれる人」を社員として採用しなければならないことを心に念じた。

そしてもう一つ、「健全性>収益性>成長性」を重視する経営であった。

会社は、いつ潰れてもおかしくないような決算内容では、社員の雇用を守りきれない。

バランスシートを健全にすることができなければ、会社に価値がない。

また、収益がなければ、社員の苦労に報いることができない。
これでは、社員は頑張る楽しみがない。

経営者としては、会社を大きくすれば虚栄心が満たされる。

しかし、その前に健全性と収益性がなければ、自社が何のために存在しているのか、存在意義が問われることになる。

ゆえに、「健全性>収益性>成長性」なのだ。

日本の資本主義の父と言われる渋沢栄一氏は、経営にとって大切なものを「論語とそろばん」と説いた。

今流に言えば、「経営理念」と「財務アタマ」ということになるのだろうか。

経営者にとって、「原理原則に忠実であること」、「つねに素直に自省できること」の意義は、実に大きい。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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