お客様に対する「親身さ」が競争力 -義肢装具メーカーN社

経営

西浦道明のメルマガ 2013年12月

40年前、N社長は欧米の先端技術を身につけて帰国し、無謀にも山間の人口が400人しかいない過疎の町に義肢装具メーカーを設立した。

当社は、今現在売上10億円、社員数70人と中小規模だが、極めて高い顧客価値を生み出し、日本を代表する義肢装具メーカーに成長している。

この会社がなぜここまでになったのか、「競争力」と「社員力」の観点から見ていきたい。

創業から10年経ち、社員数が15名ほどになった頃、「どうしたら今よりもっと良い義肢装具ができるだろうか」と考えていたN社長は、シリコーンという合成樹脂と出会った。

とある展示会の記念品だったシリコーン製の灰皿を見て、これが「靴の中敷に使えないか」と閃いた。

通気性が良く、人間の肌に優しい特長に着眼したのだ。

社員に宣言して研究を開始し、苦労の末に半年後、開発に成功した。
国際特許を取得したのは当然だった。

N社長のシリコーンとの出会いが、その後のN社の事業展開を決定づけた。

まず自社の社是を「THINK」とした。
患者の立場に立って徹底的に考え続けなければ、いい製品ができないと考えたからだ。

N社事業の基本は、「シリコーンを活用して、障がいを持った人のために何ができるか」であった。

創業から20年近く経った頃、このシリコーンを活用して人口乳房作りに乗り出した。

着けることで気持ちが明るくなれるようなリアルな装具をシリコーンで作れないだろうかと考えたのだ。

そこで、乳がんで乳房をすべて摘出した女性からじっくりとお話を聴いた。
身体の傷だけでなく大きな心の傷を抱えていることが分かった。

人口乳房は服で隠して使うものとは言え、女性たちは、温泉にも恥ずかしがらずに入浴できる、色も形もリアルな乳房を再現して欲しいと願っていた。

N社では、メディカル・アーティストの育成がこのときから始まった。

お母さんが子供を抱きしめたときに、胸の柔らかさを子供が感じられるようにとまで配慮したのだ。

その後、シリコーン製の手指、鼻、耳にも挑戦していった。
指に「ネイルアートやマニキュアをしたい」というニーズにも対応した。

誰か一人のお客様が喜んでくれればそれでいい。
その喜びは広がっていくし、自分たちの技術もやりがいも高まっていく。

目の前にいるお客様に喜んでもらいたいという「親身さ」があれば、それを土台に「THINK」することにより、シリコーンの用途開発は留まるところを知らないはずである。

こう見てくると、N社の「競争力」は明らかにシリコーンという素材の活用にある。

N社長の必死の「THINK」から生まれた閃きがシリコーンを義肢装具に使わせた。

しかし、これだけではない。
社員のひたむきな「親身さ」、そしてその「親身さ」という土台の上で考え続ける姿勢がN社の「競争力」を構成している。

「親身さ」と「THINK」という二つを「社員力」と呼ぶとすれば、「社員力」があってはじめてお客様に価値を生み出す「競争力」が生まれる。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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