経営者保証の解除、金融庁の方針はバラ色か?~今、経営者が取り組むべき3要件

経営

アタックスには”社長塾”という次世代の社長や経営幹部を教育し伴走するカリキュラムがあります。

私はその中で”経営者の資金調達と金融機関と適切に付き合う方法”という講座を担当しています。その講座でそれなりの時間を割いて受講者に説明しているのは”金融機関とのリレーションシップ”についてです。

金融庁が打ち出した方針とは?

債権者として時には上から目線で煙たいことを言う金融機関は、借り手企業にとっては面倒な相手である場合もあるでしょう。とは言え、成長のチャンスや経営の危機において、必要な資金を融通してくれる必要不可欠なビジネスパートナーといえる存在でもあります。

ですので、好き嫌いは別にして、金融機関に自分の会社のビジネスモデルを長所・短所含めて理解してもらう努力をすることは経営者である限りすべきであり、避けては通れないことです。

さて、11月初に金融庁が経営者保証を制限する方針を打ち出した、というニュースを目にした方も多いのではないでしょうか。これらを見ると、”無保証で起業しやすくなる”とか”保証を外してもらえる”等と中小企業から見るとバラ色の記事が多いようです。

本当にそうでしょうか?
個人的にはそうした楽観的な評価にはやや懐疑的です。何故ならこの金融庁の方針が参照する、元々の”経営者保証に関するガイドライン“には何ら変更が加えられていないからです。
 

経営者保証の解除の3要件

“経営者保証に関するガイドライン”に記載されている保証解除の要件は3つです。

  • 良好な財務体質
  • 所有(オーナー)と経営(法人)の分離
  • 適切な経営情報の開示

ここは全く変わっていません。
変わったのは、それぞれの要件を具体的にどのようにすればクリアできるかの説明を、金融機関に求めるようにしたことです(正確には元々のガイドライン上でも、”丁寧かつ具体的に説明する”と記載されているので、ガイドラインから行政庁の指導にレベルを上げたイメージです)。

ですので、これらの報道を見て、そうした三要件を満たさずに”保証無しで大丈夫、保証解除してもらえる”と思ったとしたら少し肩透かしを食らうかもしれません。
 

<事例>”適切な経営情報の開示”の重要性

保証解除の案件ではありませんが、最近、ある会社の社外取締役経由で、リファイナンス(注:借り換え)をしたいとの相談がありました。

決算書を見ると、財務内容は芳しくなく、借入残高に比べて多数の金融機関(約20行)が存在しており、メイン銀行がどこかも良く分からない、というネガティブ要素満載です。

一方、足元業績は回復中で、金融機関の残高表を見るとかなり足並みの揃ったリスケ対応をしてもらっているようなのはポジティブ要素といえます。

これなら早々のリファイナンスは難しいものの、短期的に大きな投資がなく、業績が安定していれば1~2年でリファイナンスの機会が訪れそうだな、との事前判断のもと、その会社に伺いました。

金融機関への適時・丁寧な説明

その会社の財務部長は、元々上場会社ご出身で、1年前にこの会社に転職したとのことでしたが、転職したての時は金融機関からは、返せ返せとの催促ばかりで、大変だったとおっしゃいました。

その部長によれば、リファイナンスしたいと思っても難しかったので、まずは既存の金融機関に、足元の状況・業績含め、非上場企業にも係わらず、決算確定前には決算短信を作る等して金融機関への適時・丁寧な説明を心掛けたようです。

資金繰り交渉に余裕が

その結果、業績回復基調も寄与したとは思いますが、金融融機関からの返済要請は落ち着き、資金繰り交渉に余裕が持てるようになったとのことでした。

私としては、部長の対応と会社業績を見て、敢えてご支援を申し出る状況ではない、と判断し、その部長と合意形成を図った上で、紹介者の方には「今の体制なら1~2年内で金融機関対応状況が好転すると思います」と回答させて頂きました。

これは、直接的には保証解除のケースではありませんが、内容としては先に述べた条件の、”適切な経営情報の開示”を十分満たしたうえで、”良好な財務体質”を作りつつある会社の例かと思います。

つまり、良好な財務体質に加え、適切な情報開示が大切な要素だということです。
 

議論できる機会は確実に増える

また別の例として、近年は赤字ですが、過去の蓄積で貸借対照表は抜群で多少の赤字ではびくともしない健全な企業の経営者から、「取引先金融機関が個人保証を外してくれない」との相談が来ました。

聞くと「オーナー企業なので個人保証は外せません」と言われたとのこと。

これは、現行のガイドラインからしても、明らかに金融機関側の説明不足で、こうした状況に対しては、今回の金融庁の方針変更できちんと議論できる機会が増えるでしょう。
 

金融機関と企業との間の相互理解を深める

繰り返しになりますが、元々、経営者を保証人としない基準は、

  • 良好な財務体質
  • 所有(オーナー)と経営(法人)の分離
  • 適切な経営情報の開示

の3点です。

これは変わらないけれど、どうすればその基準を満たしたと言えるのか、具体的な説明を金融機関に求め、金融機関と企業との間の相互理解を深める、というのが今回の制度改定の要旨だと考えています。

金融機関が保証を外してくれないと金融庁に訴えても、これらの要件を満たしていない企業は、金融機関側から「要件を明らかに満たしていません」と反論されれば、それ迄でしょう。

ただ、そうした会社であっても、どうすれば保証を解除できるのかを金融機関ときちんと議論しやすくなり、多数の会社のそうした挑戦が、保証解除が可能となるデファクトスタンダードを作り上げることにもなってくるでしょう。

多くの企業が後継者難に悩む中、後継者に個人保証をさせない体質をつくることは経営者としての一つの大きなミッションだと考えています。

金融庁の個人保証対応の見直しに際して、改めて企業側もどのように経営を改善し、金融機関とのリレーションを構築するか、それを真剣に考えると共に、悩むことがあれば、遠慮なくアタックスにご相談ください

筆者紹介

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株式会社アタックス執行役員 金融ソリューション室 室長 松野 賢一
1990年 東京大学卒。大手都市銀行において中小中堅企業取引先に対する金融面での課題解決、銀行グループの資本調達・各種管理体制の構築、公的金融機関・中央官庁への出向等を経て、アタックスに参画。現在は、金融ソリューション室室長として、金融・財務戦略面での中堅中小企業の指導にあたっている。
松野賢一の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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