社員旅行は福利厚生か給与所得か!?~事例でみる経理実務の落とし穴

税務

経理・税務の実務では、「不確定概念」に対し判断を行わなければいけない場合が多くあります。

不確定概念とは、税法の条文や通達等で「著しく高額」「不相当に」「多額でない」「相当期間」「社会通念上」「やむを得ない事情」といった金額や、期間、状況等が明確でない表現のものです。

A社の事例でみる

このようなケースはどうでしょうか。

コロナも落ち着いたので、4年ぶりに慰安旅行を企画しているが、これが経費として認められるか否かという事案です。

A社の慰安旅行計画案

1.行先と日数 グアムで3泊4日
木曜日午前出国~日曜日午後帰国
2.参加者 正社員、パート
3班に分けて出発日を変える
3.宿泊先 ホテルはスタンダード(Bクラス)で
2人1部屋
4.食事負担(会社) 木曜と土曜の夕食は全員で一緒
朝食は毎回クーポン配布
5.行事 金曜は3つのオプションより選択し参加
それ以外は各自由行動
6.費用 1人あたり18万円で会社は15万円負担

税務上の考え方

従業員等に対し福利厚生目的の支出であっても、給与課税の対象となり、所得税の源泉徴収が必要となる場合があります。

慰安旅行の場合は、以下の要件に該当すれば給与課税はありません。

①4泊5日以内であること(海外では滞在日数)
②従業員等の50%以上が参加していること
③旅行が社会通念上一般的に行われている内容のものであり、会社の負担額が多額でないこと

ここで、①②は形式的なものなので判断に迷うことはほとんどありません。

A社の場合もクリアしています。

問題は③です。

「社会通念上」「多額でない」という不確定概念です。

国税局のHPタックスアンサーより

国税庁は「総合的に勘案して判断する」とし、3つの具体例を公表しています。

  (イ)旅行期間 (ロ)費用および負担状況 (ハ)参加割合
<事例1> 3泊4日 旅行費用15万円(内使用者負担7万円) 100%
<事例2> 4泊5日 旅行費用25万円(内使用者負担10万円) 100%
<事例3> 5泊6日 旅行費用30万円(内使用者負担15万円) 50%

事例1および2は、旅行期間・参加割合の要件および少額不追及により原則課税なし。

事例3は、「旅行期間が5泊6日以上のものについては、その旅行は、社会通念上一般に行われている旅行とは認めないことから課税されます」(原文のまま)としています。

そのため、多くの書籍やWEBでの解説では、事例2を取り上げ「10万円まで」なら大丈夫で、それ以上は問題となる場合があるとしてはっきりしません。

書籍やWEBでの一般的解説では、状況がわからないので仕方がないとは思いますが、今回のケースの回答としては全く不十分です。

検討する際の注意点

国税庁のタックスアンサーやQ&Aは、実務の指針として当局側の考え方を窺い知るという面では非常に役にたちます。

特に事例はわかりやすく、実務で取り入れるのは効率がよいと思います。

ただし、それに縛られて、思考をやめてしまうのはとても危険です。

この例で考えると、社会通念上一般的に行われる旅行とは何か、その費用はどのくらいなのかがポイントのはずです。

もちろん、一般的な旅行とは何かは十人十色となりやすいですが、旅行が豪華になればなるほど高額であるという前提に立てば、やはり費用がひとつの目安になると考えられます。

ここで重要なことは、「多額である」と判断(立証)するのは当局であり納税者ではないということです。

つまり、不確定概念ゆえに、「多額でない=いくらなら大丈夫か」ではなく、「多額である=いくらぐらいだと課税されるのか」という考え方が大切なのです。

たとえば、「いくらなら大丈夫か?」という問いであれば、「10万円までなら大丈夫です。国税庁のHPで言っています」となりますが、「いくらぐらいだと課税されるか?」に対する回答は異なります。

参考になる裁判例・裁決例

ここで役に立つのは、裁判例(裁判所)や裁決例(不服審判所)です。

これらを調べると、概ね20万円以上のものは多額であると判断されています。

20万円まででは、次の裁判例等があります。

<事例4:平成3年7月18日裁決>
183,771円/人 → 社会通念上一般的な旅行で福利厚生の目的といえる
<事例5:平成10年6月30日裁決>
192,003円/人 → 家族も参加し、多額であり社会通念上一般的なものではない
<事例6:平成14年4月11日裁判例(岐阜地裁)>
165,066円/人 → 福利厚生とはいえない

このあたりで判断が分かれています。

事例を読み解く

この事例をそれぞれ読み解くと特徴があります。

事例4は、関係会社間の費用負担のことが争点であり、福利厚生としての金額の多寡を争っているわけではない事例です。

審判所の裁決では、間接的に183,771円は福利厚生で問題ないという判断になっているものです。

事例5は、この金額を多額と判断してはいますが、そもそもこの慰安旅行では家族の参加率が高く、当該年度(H5)は32%、ほかの年度(H6.H7)では60%以上が家族参加です。

人数で平均すると19万円ですが、社員ごとに享受した金額は異なり、19万円(単独参加)~86万円(家族参加者の最高額)となっています。

参考のためこの裁決事例の他の年度は、43~180万円(H6)、27~124万円(H7)です。

事例6は、平均すると16万円ですが、個人別にみると13~43万円と飛行機代やホテル代で従業員と役員の間では相当な格差のある内容でした。

これを考えると、事例5と事例6は金額の問題よりこの旅行はそもそも福利厚生の性格といえるのかという問題があったものと判断されます。

逆に、事例4は、そもそも争点としていないところの判断なので問題ない前提に立っているような印象を受けます。

このように、事例等を紐解いていくと、先のA社の事例はほとんど問題ないものと考えられます。

実務を行う中で、どうしても判断を分かりやすいものに頼ってしまうことは仕方がないとはいえ、よく法の趣旨を理解した上で対応すべきだと考えます。

 

税務顧問サービス

筆者紹介

アタックス税理士法人 代表社員 税理士 愛知 吉隆
1962年生まれ。中堅中小企業から上場企業に至るまで、約800社の税務顧問先の業務執行責任者として、税務対応のみならず、事業承継や後継者支援、企業の成長支援等の課題や社長の悩みに積極的に携わっている。
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