海外税務における実務対応~経営判断の必要性~

国際税務 税務

国内の市場規模の縮小、昨今の円高など、グローバリゼーションの波は確実に中堅・中小企業の経済活動にも波及しており、多くの中堅・中小企業が国際取引をする時代となりました。

それに伴い、国際税務に関する基礎知識や海外の税制に関連する情報については、国際取引をする企業や個人にとっては重要な位置付けとなり、特に現地の海外税務の取り扱いについては注意が必要です。

海外での規制や税制をしっかりと理解していないと、無用なコストが発生したりビジネスを阻害するトラブルにもなったりするからです。

今回は、この海外税務にまつわる取り扱いについて新興国において理屈どおりに処理されない具体的事象を交えてどのように対応するかをお話していきたいと思います。

中国企業へ役務提供の対価を請求する場合

日本企業が自社の従業員を中国の関連企業に出張させ、技術支援コンサルティングを行う、これはよくある事例です。

この時、日本企業が役務提供の対価を請求すると中国側で企業所得税(法人税)10%と増値税(消費税)6%が請求額から控除されて日本企業の口座に送金されます。

但し、6カ月を超えない短期の役務提供は、日中租税条約上、PE(恒久的施設 Permanent Establishment)は存在しないとみなされ、当該技術支援コンサルティングは、PEが無ければ、企業所得税は課せられません。

しかしながら、中国国内では、中国の税務通達に基づき処理が行われ、また、非貿易項目の送金規制から納税証明がないと送金できないなど種々の要因から、6カ月以下の短期の役務提供でも、企業所得税が控除されてしまうケースが多く見受けられます。

大変不合理な話ですが、日本企業としては、当然に手取り資金が減ってしまいますし、納付した企業所得税は、本来支払うべき税金ではないため、日本側で外国税額控除の適用による二重課税の調整もできません。

本来あるべき税務処理に是正するよう中国税務局と掛け合うことも考えられますが、実際にかける時間と労力を考えると得策ではないかもしれません。

経営判断としては、必要な手取り額を逆算し、契約書上、企業所得税の負担額をグロスアップして対応することも実務上の対応方法の1つです。

ベトナム企業へ役務提供の対価を請求する場合

こうした海外税務の取り扱いは、日本企業がベトナム企業に対して行う役務提供で課税される外国契約者税(FCT)でも同じようなことが生じています。

外国契約者税(FCT)は、ベトナム国内の個人や企業に対して海外の個人や企業がサービス提供した場合にベトナム国内で発生した所得に対して課される税金です。

ベトナムの法人税(CIT)と付加価値税(VAT消費税)から構成されますが、ベトナム企業が日本企業へ対価を送金する場合、対価から上記外国契約者税(FCT)が控除されて送金されます。

日越租税協定上、日本企業はベトナムにPEがなければ法人税(CIT)部分は課されませんが、ベトナム国内では国内規定に沿って法人税(CIT)も控除されて処理されています。

控除された法人税(CIT)は、協定の規定に従った課税ではないため、日本での外国税額控除の適用はありません。中国の企業所得税と同様のことが起こっています。

このように税務行政が成熟していない新興国においては、想定外の課税処理が行われることもたびたびあります。
こうしたことも考慮して実務対応することが必要です。

現地税制の情報を的確に収集・把握しながら時間とコストを考慮して有利不利を判断していくことが肝要です。

私どもアタックスグループでは、国際税務に関する支援や海外税務の情報収集、クロスボーダー取引についてのリスク評価に関する支援を行っております。
こちらからお気軽にご相談いただければと思います。

筆者紹介

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アタックス税理士法人 社員 公認会計士・税理士 伊藤 彰夫
1967年生まれ。資本政策、事業承継、相続対策、M&A、国際税務の各ニーズに対応したコンサルティングに数多く従事。国際税務では、移転価格税制の対応、海外を活用したファイナンシャルプランニング、クロスボーダー交渉などの実績を誇る。現在、上場企業及び関連企業法人チームの統括責任者兼国際税務チーム責任者。
伊藤彰夫の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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