薄まる暦年贈与の効果~生前贈与による財産承継対策はこれまで以上に計画的に!

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昨年12月23日に令和5年度税制改正大綱が閣議決定されました。

ここ数年、見直し課題として取り上げられていた「相続税と贈与税の一体化」が盛り込まれています。

私たちは、日頃から、自社株や財産の承継について相談いただく機会が多いのですが、この改正により、財産承継対策、とくに生前贈与による対策に大きな影響があると考えています。

「相続税と贈与税の一体化」に関係する項目には、「暦年課税における相続前贈与の加算期間の延長」と「相続時精算課税制度の見直し」がありますが、ここでは前者について取り上げていきます。

「暦年課税における相続前贈与の加算期間の延長」とは?

暦年課税制度は、1月1日から12月31日までの1年間で贈与を受けた金額から、基礎控除110万円を控除した残額に対して、10%~55%の累進税率を適用して贈与税が計算されます。

通常は、贈与税の申告・納付で完結しますが、贈与した者に相続が発生した際、その相続で財産を取得した者に、相続開始前3年以内に受けた贈与があれば、その贈与額を相続税の課税価格に加算しなければなりません。

今回の改正では、この加算期間が3年以内から7年以内に延長されることになります。

令和6年1月1日以後の贈与から対象になりますが、令和8年の相続までは加算期間が3年で、令和9年の相続から徐々に延長され、令和13年の相続から7年になるのです。

なお、延長となる4年間の贈与については、贈与額の合計額から100万円を控除した残額を加算します。

例えば、10年前から毎年100万円ずつ子どもに贈与した後、すぐに相続が発生したとすると、今までは、相続開始前の3年分の300万円が相続財産に加算されますが、改正後は、延長された4年分の400万円から100万円を控除した300万円を加えて600万円を加算します。

暦年課税による生前贈与の効果はどうなるのか

改正前

ここで、今回の改正が暦年課税による生前贈与の効果にどの程度影響があるのかを確認してみます。

2億円の財産があり、相続人は妻と子どもの合計2人で、2分の1ずつ分けるものとします。

何もしないまま相続を迎えたとき、妻に相続税はかかりませんが、子どもの相続税は1,670万円になります。(計算方法の詳細は省略、以下同様。)

それでは、子どもに毎年300万円ずつ10年間暦年贈与を行い、その直後に相続が起こったときはどの様になるのでしょうか。

今までは、相続開始前3年以内の贈与額900万円(300万円×3年)が相続税の課税価格に加算されます。

その結果、子どもに対する相続税が約1,139万円で、10年分の贈与税190万円と合わせて1,329万円になります。

何も対策をしないまま相続を迎えたときと比べて、税金が約341万円安くなります。

改正後

次に、改正後です。

加算期間が、相続開始前7年以内になり、この間の贈与額のうち2,000万円(300万円×3年+300万円×4年-100万円)が相続税の課税価格に加算されます。

その結果、相続税が1,307万円で、贈与税190万円と合わせて1,497万円になります。

何も対策をしない場合よりは173万円安くなりますが、今までと比べると約168万円増えることになります。

これらは、一定条件をもとに行った試算に過ぎませんが、今回の改正により、暦年課税における基礎控除や相続税率と贈与税率の税率差を活用する生前贈与の効果は確実に薄まることになりそうです。

計画的な取り組みこそが重要なポイント

今回の税制改正で、生前贈与による財産承継対策は複雑になり、考えるべきことが増えたと思います。

確かに効果は小さくなりますが、暦年課税による生前贈与は無用かというと決してそうではありません。

暦年課税でも、相続開始前の期間が7年を超えれば加算する必要はなくなりますので、かなり早い段階から財産承継に取り組むことで対策としての効果は期待できます。

また、相続等で財産を取得しない孫に対する生前贈与は、基本的に、今までどおり相続税の課税価格に加算する必要はありませんので、早めに移しても支障がない財産の承継には十分活用できるのではないでしょうか。

相続時精算課税制度とは?

一方で、相続時精算課税制度※はこれまで以上に使い勝手が良くなりそうです。

令和6年1月1日以後の贈与から、暦年課税制度とは別に110万円の基礎控除が創設されますし、相続財産の課税価格に加算する金額は、これまでの全額から基礎控除後の残額に見直されます。

財産など個々の状況にもよりますが、暦年課税より相続時精算課税を適用すべきケースがかなり増えるのではないかと思われます。

※60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与について選択適用できる制度で、1月1日から12月31日までの1年間の贈与金額から特別控除額2,500万円(累計の控除枠になります)を差し引き、一律20%の税率を適用して贈与税を計算します。ただし、この制度による贈与は、贈与時の金額ですべて相続税の課税価格に加算されます。

何れにしても、財産等の現状分析をしっかり行ったうえで、複数の選択肢の中から最適な生前贈与の対策を適用することが大切です。

そのためには、選択肢が限られないよう、いかに早い段階で取り組むか、成り行きではなく、いかに計画的に取り組むかということが、ますます重要になってきます。

とくに中小企業の社長は、自社株や事業用財産など事業承継に深く関係する財産をお持ちですから、計画的に取り組むことで、良い結果に結び付けていただきたいと思います。

アタックスグループでは、税務顧問、経営顧問だけでなく、自社株や財産の承継などの課題解決のためのご支援を行っています。お気軽にご相談ください。

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筆者紹介

アタックス税理士法人 代表社員 税理士 磯竹 克人
1987年 名古屋市立大学卒。税務・会計の業務を中心に数多くのクライアントに対する指導実績を持ち、親切で丁寧な指導が厚い信頼を得ている。現在は、事業再構築支援、事業承継支援、資本政策支援などを中心にクライアントの問題解決にあたっている。
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