「デジタル遺言」の動向をみる~遺言書の電子化は可能か~

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遺言とは

遺言とは、皆さんご承知のとおり、遺産の分け方をめぐって相続人同士での争いを防ぐための「財産の分け方」や法定相続人以外の人に財産をあげたり、寄付したりする「相続人以外への遺贈」、それ以外にも「自分が相続人に伝えたいこと」など、被相続人(亡くなった人)の最後の思いを自分の死後に実現するための方法です。

「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」

日本では、民法で細かく定められていて、その種類としては主に、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」があります。

その中でも「自筆証書遺言」「公正証書遺言」の2種類が一般的に活用されています。

「自筆証書遺言」は、遺言者が遺言書本文を自書(自ら書くこと)して作成する遺言書です。

今では、遺産が多岐にわたるような場合には、パソコンなどで作成した財産目録を別紙で添付する方法も許されています。

手軽に作成でき、費用が掛からないなどのメリットがある反面、紛失や発見されないリスクがあるほか、遺言書保管制度(※)を活用しない場合、裁判所の検認が必要になるなどのデメリットもあります。

※法務局が遺言書の原本を保管してくれる制度(令和2年7月~)

「公正証書遺言」は、公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。

公証人が関与して作成する遺言書なので、確実性が高い形式と言えます。

公証役場で原本を保管してくれるので、紛失・隠蔽などのリスクがないことや検認が不要なことも大きなメリットです。

一方で、公証役場へ出向くなどの手間がかかりますし、証人が2人必要だったり、遺産額に応じた手数料がかかる点などはデメリットです。

日本でデジタル遺言は有効か?

WEBサービスやスマホアプリを使って電子データとして遺言を作成する方法については、残念ながら、今のところ日本では法的に有効ではありません。

民法で書き方等についてルールが定められており、(民法第960条)そのルールのひとつに遺言書を「紙」で作成しなければならないと定められているからです。(民法第968条、第969条)

仮に、デジタル遺言が認められるとすれば、「自筆証書遺言」のように手書きする必要がなくなりますし、「公正証書遺言」のように証人を2人も用意して公証役場に行く必要もなくなります。

遺言作成のハードルは一気に下がり、もっと多くの人が気軽に利用できるかもしれません。

もっとも、遺言書には、「付言事項」という、書いた内容に法的な効力はありませんが、大切な人へ最後の思いを伝えるところがあります。

法的な遺言と矛盾しないようにこの「付言事項」を電子データで作成し、思いを伝え、トラブルの防止につながるのであれば民法上の遺言書にはなりえませんが、作る効果はあると言えます。

遺言書の電子化の動向

「自筆証書遺言」については、残念ながらデジタル遺言のような形で作成できる見通しはまだたっていません。

しかし、国の規制改革推進会議では、デジタル技術を活用して、自筆証書遺言と同程度のものを簡便に作成できるような新たな方式について必要な検討を行うとしており、今後の進展が期待されます。

「公正証書遺言」については、かなり具体的な話が進んでいます。

法務省は、令和3年6月18日に閣議決定した「規制改革実施計画」において、令和7年の秋頃までに公正証書の作成に係る一連の手続のデジタル化を目指すとしています。

これによりオンライン化が実現すれば公正証書遺言の電子データでの作成・保存が原則化され、紙だけでなく電子データとしても発行を受けられるようです。

デジタル化(計画)の概要

①嘱託(申請)

これまで公証役場に出頭して嘱託を行い、印鑑証明書等の書面の提出を必要としたものから、インターネットを利用して、電子署名を付して嘱託を行うことを可能とする、としています。

②嘱託人の陳述、内容確認等

公証人が対面で、嘱託人の陳述聴取、真意確認、内容の正確性の確認等を行うものから嘱託人が希望し、かつ、公証人が相当と認めるときは、WEB会議の利用が可能となります。

③公正証書(原本)の作成・保存

公正証書原本を書面で作成・保存し、嘱託人・公証人の署名・押印を必要としたものから電子データでの作成・保存を原則化し、電子署名(嘱託人はより簡易な方法も利用可)で対応できるようになります。

④正本・謄抄本の交付

公正証書の正本・謄抄本を書面で交付するものから電子データでの受領が選択可能になります。(書面での交付も、引き続き選択可能)

今後の更なるIT技術の発達などにより、より使いやすい遺言制度になることを期待しつつ、引き続き動向に注目したいと思います。

筆者紹介

伊藤彰夫

アタックスグループ パートナー
アタックス税理士法人 代表社員 公認会計士・税理士 伊藤 彰夫
1967年生まれ。資本政策、事業承継、相続対策、M&A、国際税務の各ニーズに対応したコンサルティングに数多く従事。国際税務では、移転価格税制の対応、海外を活用したファイナンシャルプランニング、クロスボーダー交渉などの実績を誇る。現在、上場企業及び関連企業法人チームの統括責任者兼国際税務チーム責任者。
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