プロ経営者としての財務思考〜長期的視野を持った考え方とは?

不動産賃貸業なる業種があります。初めからこの業種を選んで起業するケースもありますが、別事業を営む経営者が齢を重ねるうちに、後継者がいないとか事業の将来性がないという理由から、それまでの事業をたたみ不動産賃貸業に転ずるケースは結構多いようです。

なぜ不動産賃貸業かというと、この業種が景気変動の波を受け難く、相対的に倒産確率が低い、安全な事業であるという認識が世間にあり、経営とは無縁の専業主婦や子女でもできると思うからです。

こうした理由から不動産賃貸業に転ずることが間違いとは申し上げませんが、プロ経営者としての感覚が不必要かといえば、それは絶対に違うと思います。

A社という賃貸ビル会社があります。都心に8階建のビルを所有しており、バブルのころ不動産価格はとんでもない高額で、賃貸収入も相当なものでした。当時、担保価値も高く、どの銀行からもお金を借りてくれと頼まれていました。

お金というものはあれば使うものです。父親が社長、母親が監査役、息子と娘が取締役という、全くの家族企業だったこともあり、賃貸収入と借入金で得たお金は、利益を上げて法人税を支払いたくない思いからも、役員報酬や諸経費に費消されていました。そして数億円の借金は、返されずに残っていたのです。

それから10数年という歳月が過ぎ、近隣に新築ビルが建ち並び、抜けたテナントが中々埋まらないという事態に陥りました。ここに至って、社長はようやく、大修繕しなければ不動産価値を維持できないことに気づきました。

そこで建設業者に見積もらしたところ、2億円はかかるということです。会社には預金が数千万円しかなかったので、銀行担当者に融資を申し込んだのですが一向に返事が来ません。しびれを切らした社長が担当者に確認したところ、担保価値目一杯の借入が残っており、これ以上貸すのは無理だと言われてしまったのです。

昔は銀行が「もっと借りてくれ」と言っていたので、いつでも貸して貰えるものと思い込んでいたのですが、時代が変わってしまいました。不動産価格も賃貸収入も共に下がり、もはやこれ以上、銀行からお金を借りられなくなっていたのです。

本来、ビルは50年間に一度建て替えるとして、仮に10億円必要とすると、毎年、2000万円ずつの減価償却相当のキャッシュを蓄えなければならないはずです。50年の途中で30年目と40年目に大幅な改修工事が必要であれば、その部分の資金も追加で蓄える必要があります。役員報酬はその残りから支払うしかありません。

こんな経営として当たり前のことを、このビルオーナーは忘れてしまっていたのでしょうか。1年に一回決算期が到来しますが、そこで税金を支払わなければならないことに気を奪われてしまっていたからでしょうか。減価償却費相当額を蓄えてこなかったつけは実に大きいのです。

テナントが抜け落ちて行く中、資金不足から手の打ちようがない状況に追い込まれていました。プロの不動産賃貸業ならこんな愚行は絶対にしません。親からただで貰った「財産」だから、長期的視野を持てずに食い潰してしまうのです。

はたして、これを笑い話として笑い飛ばせるでしょうか。不動産賃貸業といえども簡単には永続させることなどできないのです。経営に、長期的視野に立った財務の視点は絶対に欠かせないのです。

筆者紹介

アタックスグループ 代表パートナー公認会計士・税理士 西浦 道明
1972年 一橋大学卒。81年 株式会社アタックスを丸山弘昭と共同創業後、90年 今井会計合同事務所(1946年創業)と経営統合し、アタックスグループを結成。「社長の最良の相談相手」をモットーに、中堅中小企業の事業承継、株式公開、企業再生、事業再編、組織改革、M&Aなど、幅広い業務に従事。
現在、アタックスグループのトップとして、 公認会計士、税理士、 中小企業診断士、社会保険労務士、その他スタッフ総勢約160名を率いる。
西浦道明の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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