リサイクル事業を静脈産業に育てる -会宝産業株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2022年6月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載94回目の今回は、石川県金沢市で、自動車リサイクル・中古自動車部品の輸出・販売を行う会宝産業株式会社(以下、K社)の池クジラぶりを見ていきたい。

K社は、1969年、現会長の近藤典彦氏(以下、K氏)が設立した。

当初、廃車した車などを解体して鉄くずを売る解体業としてスタートしたところ、周りからクズ屋呼ばわりされた。

そこで、自動車メーカーが動脈産業なら解体リサイクル産業は静脈産業であり、循環型社会には不可欠な存在であることに着眼。

この考え方が流布し、社員は誇りを持って働くようになった。

K社が海外に目を向けたのは、国の内外で、廃車に関する考え方に大きな違いがあることに気づいたからだ。

日本では自動車の使用年数10年、走行距離10万kmが廃車の目安だが、発展途上国では50~60万キロを走る車も珍しくない。

また、車が故障しても、パーツを交換したり修理したりして動かなくなるまで乗り続ける。

そうした国では、走行10万km程度の車なら使える部品が山ほどあるのだ。

そこで、年間約12,000台の中古車を買い取り、解体してパーツごとに分別し、使用済み車両から鉄やアルミなどの素材だけでなく、エンジンやタイヤ、ライトなどを取り出し、中古車の修理部品として、売上の75%を輸出が占めるビジネスモデルを構築した。

その後、K氏は、IT化に乗り出し、「KRA(会宝・リサイクラーズ・アライアンス)システム」を独自開発した。

これは部品一つひとつに年式や状態などを記したバーコードを貼って在庫管理に生かすもので、これにより、車輌仕入れから海外販売まで品質のトレーサビリティが実現できるようになった。

このシステム導入の結果、在庫管理、品質管理の精度が向上し、一定の基準で品質や状態を評価して価格を決める流通市場を完成させることに成功した。

驚いたことに、K社はこのシステムを独占せず、国内外の同業他社に開放して業界プラットフォームにしたのだ。

こうして、同業他社はシステム利用を通じて、ネットワークや販売機会を拡大することができるようになり、自動車リサイクルビジネス全体の安定的な発展が可能になった。

また、システム公開に留まらず、2003年には、特定非営利活動法人である全国自動車リサイクル事業者連盟(RUMアライアンス:Re・Use・Motorization・Alliance)を設立し、これが日本および世界の自動車リサイクル事業の適正な標準化モデルと認定されるようになった。

今現在、ロシア、中東、南米の国々をはじめ、世界約90ヶ国に輸出している。

また2007年、日本の優れた解体技術を教える「国際リサイクル教育センター」を設立し、国内外から多くの研修生を受け入れている。

さらに、発展途上国では廃車の放置や部品の不法投棄が社会問題になっており、解体業者の技術レベルも低い。

こうした現状を変えるため、地球規模での循環型社会の実現を掲げ、世界に5つの拠点を設けて自動車リサイクル事業を展開し、培ったノウハウを伝える活動にも積極的に取り組んでいる。

このように、K社は、自動車リサイクル事業を社会的意義の高い静脈産業にまで育てるという大きな志を実践し、国内外の同業者・お客様から高い評価を得てきた。

今やK社は、日本と世界の90ヶ国を繋ぐ自動車リサイクル市場(池)を構築し、そこでのクジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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