健常者と障がい者が共に幸せを感じる会社 -日本理化学工業株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2021年12月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載88回目の今回は、神奈川県川崎市で、文具・事務用品製造販売、プラスチック成形加工を行う日本理化学工業株式会社(以下、N社)の池クジラぶりを見ていきたい。

N社は、1937年、現社長の祖父が、東京都大田区蒲田で創業した。

N社は、積極的な障がい者雇用で有名だが、社員88名のうち70%強を知的障がい者が占めている。

ただ、N社が、かくも多くの障がい者を雇用するのは「かわいそうだから」という理由からではない。

障がい者一人ひとりを戦力化して生産性を高め、国内チョーク業界でシェア70%超のトップメーカーになった。

N社のチョーク製造は、近くの大学病院の医師から「アメリカに体に害のないチョークがあるから、輸入してくれないか?」と依頼を受けたことに始まる。

当時、石膏チョークが主流で学校の先生に肺の病気が多かった。

N社は、まずはアメリカから輸入しながら研究開発を進め、最終的にホタテ貝を材料として炭酸カルシウム製の「ダストレスチョーク」を開発した。

N社製のチョークは、文部省の斡旋品として国のお墨付きを受け、全国の学校に普及して行った。

大企業が参入しないニッチな市場であることに加え、景気に左右されず、計画的につくりやすいため、安定した経営ができるという利点もあった。

しかし、近年では、少子化やホワイトボードの普及、学校の授業のIT化が進展し、チョークの需要は年々減少傾向にある。

そうした環境下、N社は、チョークの品質改良に取り組み、オリジナル商品開発へと舵を切った。

N社は、窓、道路、テープ、スチロールなど様々な場所・用途で活用できる「キットパス」をオリジナル商品として開発した。

これは、ガラスやホワイトボードなどに描くことができ、ぬれた布で簡単に消せる水溶性の固形マーカーである。

口紅などに使われるパラフィンが主原料となっていることに加え、消しカスも出ないため、環境にも人にも優しい。

さらに、チョークのリサイクル品を花壇の肥料として利用するなど、新用途開発にも取り組んでいる。

N社は障がい者の戦力化に知恵を絞っている。

保護者同伴の採用段階で、周りに迷惑をかけないことなど、もし違反したら即座に家に帰すことを約束してもらっている。

障がい者の理解力に合わせて作業工程を作り、また、障がい者を、マネージャー補佐の班長に就ける制度を考案している。

さらに、頑張った人にはMVPを与える。
一方で、障がい者と一緒に働く健常者の役割も重視している。

どうすれば個々の障がい者の理解力に合わせて仕事ができるようになるのか、それを考えるのが社員の仕事なのだ。

その結果、健常者の社員には、一生懸命な障がい者に接することで彼ら彼女らの役に立とうという気持ちが生まれ、それが健常者自身の働く喜びとなり、また、日々障がい者の成長をみることで、自らの心の成長が図られている。

N社は、チョークの品質改良と新用途開発さらには自社のオリジナル商品の開発を続け、お客様から高い評価を得てきた。

N社は、健常者と障がい者が共に働き、お互いが幸せを感じることができる働く環境を創造することにより、日本のチョーク業界(池)のクジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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