転職を理由とした離職者がいない -株式会社日本レーザー

経営

西浦道明のメルマガ 2015年9月

昨年来、当メルマガでは、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中小企業をご紹介している。

連載13回目の今回は、21期連続黒字を堅持する、レーザー機器の専門商社、株式会社日本レーザー(以下、N社)の池クジラぶりを見ていきたい。

まず、N社のいちばんの存在価値は、どこにあるのか。

それは、国内の顧客の要望に応えるレーザー製品を世界中から探し出し、最先端の光技術や関連製品・システムを輸入、顧客が抱える問題を解決していることだ。

N社では、創業以来47年、一貫して光関連機器に特化。

「産業分野」と「理科学分野」という2つの「購買代理店」市場を築いてきた。

もともとN社は、親会社のレーザー関連事業を支えるために設立された100%子会社だった。

1968年設立時から20数年間は、親会社から天下りの社長がやってきては、腰かけ程度で去っていくのがお決まりだった。

当然のことながら社員は不信感を募らせ、業績は低迷し、債務超過に追い込まれた。

このような状況下、再生のために親会社から送り込まれた近藤宣之氏(以下、K氏)は、親会社の取締役を辞任して自らの退路を断ち、N社に骨を埋めて再建に専念すると決意した。

K氏は、失敗すればすべてを失い自己破産となるリスクを背負い、MEBO(マネジメント・エンプロイー・バイアウト)を実施した。

親会社から大半のN社株式を買い取り、役員と社員で分かち合った。

持ち株比率は、MEBO実施前は、日本電子(JEOL)70%、役員が30%(うち、K氏は10%)だったが、独立後は、役員53.1%(うちK氏は14.9%)、社員32%、日本電子(JEOL)14.9%(2014年)と、「社員の社員による社員のための会社」を創りあげ、日本電子は持ち分法非適用になった。

海外レーザーメーカーの国内販売代理店の大半は一匹狼の一人親方で、取引先数は少ない。

そうした中、組織化に成功し僅か58名(2015年1月)で業界最大規模となったN社は、一つの販売代理店では対応しきれない様々なニーズに、輸入したレーザー機器をカスタマイズしながら対応することで、「購買代理店」に機能アップした。

そして、K氏は、国内ユーザーも数多くの世界のメーカーも共に自社のファンとさせ、2014年度の年商は就任時から4倍の38億円とした。

ここで、N社の主力商品である、ハイ・エンドなレーザー装置の日本市場についても俯瞰しておこう。

まず、技術力の高い日本の大企業には、市場規模が小さ過ぎて採算が合わない。

次に、欧米では、博士号(PhD)クラスの技術者がレーザーメーカーを簡単に設立しているが、日本ではそうした環境がなくベンチャーが育たない。

一方、欧米のレーザーメーカーにとっては言葉の壁があり、代理店が必須である。
N社の「池」がいかに自然の要塞かが分かる。

N社が「池」を築いた核心部分は、先ほどのMEBOのように、結局のところ、K氏の人間性をも含めた経営力に尽きる。

たとえば、社員の「英語力」はN社にとって必須のスキルであり、TOEICの点数に応じたインセンティブ制度を用意している。

また、社員の「高い提案力」に報いようと、営業・技術系を対象に、粗利益の3%という成果主義的な賞与制度を用意している。

ただし、欧米型の個人主義ではなくチーム主義を採用している。

さらに、ダイバーシティを実践しており、女性活躍にも積極的である。

このような社員力を高める努力は、「モチベーション」が何よりも大きな経営の勝敗決定要因だとK氏が理解しているからである。

こうした取り組みの結果、N社の社員満足度は非常に高く、学歴・年齢・性別・国籍等を考慮しない、実力主義の待遇や透明性・納得性の高い人事考課制度を実施してきた結果、この10年間で転職を理由とした離職者は一人も出ていない。

なぜ好業績が継続しているか、どうして無借金経営を実現するに至ったかがよく分かる。
「池クジラ」の面目躍如である。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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