コレットチャックの町工場 -株式会社エーワン精密

経営

西浦道明のメルマガ 2015年7月

昨年来、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得している中小企業をご紹介している。

第11回は、「コレットチャックの町工場」として有名であり、ジャスダック上場も果たしている、株式会社エーワン精密 (以下、E社)の「池クジラ」ぶりを見ていきたい。

E社は、昭和40年、東京都府中市で現取締役相談役の梅原勝彦氏(以下、U氏)が創業した。

U氏は、幼少時に父親の会社が倒産したため、一家離散という苦汁を舐めた。

12歳から住み込みの丁稚奉公としてねじ製造工場で働き、16歳で夜間中学へ入ったという経歴の持ち主である。

U氏は、製造業の基本である「QCD」すなわち、(1)高品質、(2)低コスト、(3)短納期のうち、(1)高品質は当たり前、(2)低コストは実現しても価格で差別化する訳にはいかない。

したがって、(3)短納期に強いこだわりを持った。

原則、当日の午後3時までに受けた注文のうち7割はその日のうちに仕上げ「当日発送」している。

この「超短納期」こそが、E社の提供価値である。

生産拠点である山梨工場の事務所では、顧客からの電話に担当者が「ワンコール内」で受話器を取り、短冊に型番や個数、「急」などと太い赤ペンで手書きし、「カプセル」に入れる。

工場内にはパイプが張り巡らされ、短冊入りの「カプセル」は空気圧で作業担当者の元へ届く。

この一連の流れは、電話で注文を受けてからわずか数分だ。
まず、この準備段階からして素早い。

E社は「超短納期」を実現するため、製造品目をコレットチャックなど特定のものに絞り込んでいる。
このため、設備が限定できる。

一般に製造業では、多めの在庫、稼働率の悪い機械設備、余剰な人員は「悪」とされる。

E社は、この業界の常識を覆した。
設備・人・在庫のどれもこれも、過剰に置くことにしたのだ。

お客様の突然の注文に備えてあらかじめ半製品をつくっておき、注文が入ると直ちに、社員が残された工程を余剰の設備を使って素早くモノづくりする。

事前に半製品を用意しておき、設備は稼働率7割と余裕を持たせ、人の生産効率を一番に考えるからこそできる芸当である。

E社に頼めば翌日に完成品が届くのに、同様の製品を他社に頼むと1~2週間はかかる。

こうして実現した超短納期がお客様を心から感動させるため、お客様は一切値引き要求をしない。

業績の面では、工作機械業界では、売上高経常利益率は、平均10%以下とされるが、E社では創業以来、平成20年までの38年間、売上高経常利益率35%超を持続し、平成21年以降は少し利益率が低下したものの、現在に至るまで、20%を下回ったことはない。

E社は、コレットチャックなどを緊急で納めて欲しいという、超短納期を求めるお客様に対して、そのご要望に応えることで大きな価値を生み出すことに成功した。

お客様は、喜んでこちらの定価を支払ってくれるので、このような高収益をあげることができる。

これほどまでに見事な「池クジラ」にはなかなかお目にかかれない。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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