経営戦略を収支計画のみならず、財務計画に表すことが重要

会計

7月27日の日経は、「武田薬品がスイスの製薬会社の買収資金の内、6000億円を借入、無借金経営を転換」と報じた。記事によると、武田薬品は1990年代後半から負債が十数億円の実質無借金状態が続いていた。

今回、スイスの製薬会社大手のナイコメッドを買収する1兆1千億円のうち、6000億円を短期借り入れし、残りは自己資金で賄う。これにより、武田薬品は無借金経営を転換することとなり、自己資本比率も今年3月期末の75%から60%に低下する見通しだと言う。

他にも、アステラス薬品やエーザイなど、多額の資金で海外企業の買収に動いている。自前の経営資源だけでは事業拡大が難しくなり、多額の有利子負債を背負ってでも成長を追求する戦略に転換したのだ。

さて、これは大企業の話であり、中堅中小企業には関係ないととらえてはいけない。確かに、企業買収(M&A)は身近なことではないし、6000億円という単位は関係ない話なのかもしれない。しかし、この武田薬品の話は、買収後の財務マネージメントに着目すべきである。

企業が何らかの戦略を選択する場合、その戦略実行後の売上高や利益などの業績を、中期経営計画という具体的な数値計画にするはずである。そして重要なのは、損益計算書に表した計画を推進した場合、どのような貸借対照表になるか、である。

武田薬品の場合は、6000億円を借り入れ、返済期限が近づいた時期に長期資金に切り替え、5~6年かけて毎年1000億円程度返済していく考えのようだ。つまり、借入金の推移を含めた計画貸借対照表がきちんと示されていると思われる。

ぜひ、中堅中小企業経営者の皆様には、自社の戦略を立てることはもちろん重要であるが、それを数値計画に表すこと、それも、収支(損益計算書)だけでなく財務(貸借対照表)も計画に表す「計画経営」を推進していただきたい。

基本的に、中堅中小企業は「計画」を立てるのが苦手だと思う。計画または予算を作ってはいても、ほとんどが収支の計画のみである。これでは財務リスクがどこにあるのか判断できなし、財務リスクを軽減する手を予め打つことができない可能性がある。つまり、財務マネージメントができない成り行き貸借対照表になってしまう可能性が高いのである。

戦略を実行した場合に収支はこうなるという計画と、その収支や投資でどのような財務になるかを計画貸借対照表にして、戦略と実行を検証し、必要があれば修正するといったマネージメントをぜひ実行していただきたい。

そうすることで、キャッシュフローを重視した経営を推進することになり、強い財務体質を手に入れることができると確信している。

<参考記事>
「武田、6000億円借り入れ」
2011年7月27日(水)日本経済新聞 朝刊

筆者紹介

株式会社アタックス戦略会計社 代表取締役会長 片岡 正輝
1952年生まれ。アタックス税理士法人の前身である公認会計士今井冨夫事務所に入社。現在は、アタックスグループの統括マネージャーとして、広範囲な知識と豊かな経験という両輪を武器に、経営・財務・会計業務を中心に計画経営の推進、経営再構築、事業承継等のコンサルティング業務に従事、経営者の参謀役として絶大なる信頼を得ている。
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