コロナ禍でもう一度考える「損益分岐点売上高」

今一度立ち止まって考える損益分岐点売上高とは

この経営コラムでも何度も言及されている損益分岐点売上高ですが、足許のコロナ禍において売上減少に苦しむ会社も多い中、改めてその意義を考えてみましょう。

損益分岐点売上高は、簡単に言うと損益が0となるときの売上高です。

また、損益分岐点売上高比率は、今の売上を100%とした場合、何%の売上の時に利益がゼロになるかを示す数字です。

売上高が1増える(減る)時に増加(減る)利益を限界利益率と言います。
計算式は、以下の通りです。

限界利益率=(売上高-変動費)÷売上高

ちなみに、
変動費 売上に比例するとされる費用
固定費 売上に比例せずにかかる一定の費用

を言います。

例えば、売上が100で、利益が10、変動費が50の会社があったとすれば・・・

限界利益率=(100-50)÷100=50%

となります。

売上が1落ちれば0.5ずつ利益が下がっていくので、売上が20落ちれば現状の利益10は、0となります。

従って、

損益分岐点売上高 100-20=80
損益分岐点売上高比率 80÷100=80%

となります。

80売れば利益はトントンで、現状から売上が20%下がっても何とか赤字にならない状態、と言うことになります。

ちなみに、この20%のことは経営安全率・安全余裕率、等と呼ばれ、損益分岐点売上高比率と同様、一定の売上の下での経営の安全度の指標となります。

また、この例で売上が0になった場合、売上が100減るので限界利益は50減ることになります(100×50%)。

今の利益が10ですから、利益は10-50=▲40となります。
これは売上が0でも必要な経費を意味しているので、固定費は40、と言うことになります。

つまりこの会社の収益構造は、

固定費 40
限界利益率 50%

ということになるわけです。

見方を変えると、常にかかる固定費の40を賄うために必要な売上は、40(固定費)÷50%(限界利益率)=80となり、この会社の損益分岐点売上高は80、と言うことになります。

これだけなら、非常に簡単なのですが、実務では固定費と変動費の切り分けが非常に難しいのが実態です。

普通の商品の仕入原価なら変動費でしょうし、減価償却や家賃等は固定費的な側面が強いでしょう。

しかし、例えば、固定費である人件費は、売上増に合わせて人を増やせば増加しますし、売上が減って人を減らせば人件費も減少します。固定費でも短期的な売上に左右されるものがあるのです。

コロナ禍で損益分岐点売上高を考える理由

さて、何故このコロナ禍の中、損益分岐点売上高をもう一度考える意義があるのか?
それには以下の2つの理由があります。

1.真の固定費を正しく捉える

一つ目は、今回のコロナの影響で売上を大きく落とした会社にとって、この事態は真の固定費が何かをある程度正しく捉える機会でもあるからです。

私の顧問先の中には、今回の影響で売上が0になった会社もあります。
売上0である以上、要している経費は全て固定費と言うこととなります。

この会社は、通常削りにくい人件費を、雇用調整助成金を活用することで実質的に削り、余分なスペースを返却して家賃を圧縮する等、売上0下で不要なものを大胆に見直すことで、固定費を従来より大きく削減しました(勿論、従来は固定費ととらえていた人件費が変動費化した面も大きいのですが)。

2.売上回復見込みの道標

二つ目は、大きく下げた売上はいずれ回復に向かうでしょうが、どこまで回復させればいいのかという道標になることです。

業種によりけりでしょうが、コロナ以前の売上に回復するには相当の時間を要することが予想されます。

そうなると、コロナ前の売上の80%や70%、場合によってはもっと少ない売上でも利益を上げていかなければならない事態も想定されます。

足許からの売上回復を図る際には、固定費をどこまで下げ、限界利益率を何処まで上げ、どれだけの売上を上げれば、利益を確保できるのかをしっかり把握しながら進めていかなければなりません。

さもないと、売上目標が非現実的なものとなったり、何とか売上は確保したものの利益が伴わず、事業継続が危うくなる、と言うことになりかねません。

損益分岐点売上高比率の低さは「企業の強さ」

上述の顧問先も、固定費削減と限界利益率の見直しにより、損益分岐点売上高をかなり下げることができたのですが、足許の状況からまだ心もとないと、日々追加策を練っているところです。

損益分岐点売上高比率の低さは、企業の強さを表しています。

少し古いデータですが、2018年11月の月刊資本市場の記事によると、企業の損益分岐点売上高比率は2000年頃までは大企業も中小企業も然程大きな差もなく推移していました。

しかし、2000年頃から乖離が大きくなり、2017年時点の損益分岐点売上高比率の平均は、大企業で60%、中堅企業で75%強、中小企業で80%強程度となっています。

極端に言うと、今回のコロナショックで大企業は売上が40%減っても何とか利益を維持できるのに対して、中小企業は20%減少すれば赤字に陥る、と言うこととなります。

また、先月の日経新聞にも、政府は”中小企業社数の維持”を目標から外すとの記事が掲載されました。

勿論、このことが直ぐに中小企業政策の転換につながる訳ではないでしょうが、少なくとも低成長下の日本で、こうした経済ショックに際して、全ての中小企業を温存させておくことには限界があるのは事実でしょう。

一般的に、中小企業の損益分岐点売上高比率は80%程度あればまずまず、と言われてきましたが、ポストコロナ時代の経営安定には一段と低い損益分岐点売上高比率が求められることとなるでしょう。

中堅企業や大企業にも互して行ける、生き残るための強い収益基盤を持った企業になるためにも、今一度、自社の損益分岐点売上高(比率)を見つめなおし、コロナ後に向けた戦略を組みなおしてみては如何でしょうか。

筆者紹介

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株式会社アタックス 執行役員 金融ソリューション室 室長 松野 賢一
1990年 東京大学卒。大手都市銀行において中小中堅企業取引先に対する金融面での課題解決、銀行グループの資本調達・各種管理体制の構築、公的金融機関・中央官庁への出向等を経て、アタックスに参画。現在は、金融ソリューション室室長として、金融・財務戦略面での中堅中小企業の指導にあたっている。
松野賢一の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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