キシエンジニアリング~頑張る小さな福祉機器メーカー【第166回】

キシエンジニアリング~頑張る小さな福祉機器メーカー【第166回】

島根県出雲市の郊外にキシエンジニアリングという社名の社員数7名の中小企業がある。主事業は工場や農業の現場で使用する省力機械・ロボットや、福祉機会の設計製作である。

社員数7名程度のものづくり企業というと、その大半は、大手企業や中堅企業の部品加工業といった「下請企業」であるが、同社は創業当初から自家商品創り、値決めのできる企業経営を行っている。

同社の経営の原点は創業者であり、現会長は岸征男氏の創業の目的にある。岸会長は地元出雲市の出身であり、大学工学部卒業後、故郷にUターンし、県内の大手農業機械メーカーの研究所に勤務し、高い評価を受けていた開発技術者であり、独立する気持ちはさらさらなかった。

独立するきっかけは、授かった子供が、病気とその後の治療方法が原因で、障がい児となってしまった。その障がいは重く、身体を自分の意思で動かすことも、食べ物を飲み込むことも、さらには眼もほとんど見えない重複障がいであった。

心優しい岸さんは、「少しでも長く娘の傍にいてあげたい…」「自分の技術で子供の障がいを直してあげたい…」という思いで、多くの仲間の反対を押し切り、将来を嘱望されていた大手農機具メーカーを退職し、1985年、自宅納屋を改造し一人で創業している。

以後、経営を維持するために、前職で関係のあった特殊仕様の農機具や工場向けの自動機械やロボットを設計製作しながら、障がいのある娘さんや、その関係で知り合った障がい者のためになる機械や道具の研究開発に没頭していった。

こうして開発された商品は、このおよそ30年間で50をはるか超しているが、その代表的商品は「車いす用電気自動車」「キャビン付き電氣四輪車」「正圧式呼吸トレーナー」「サドル付き歩行器」「入浴補助リフト」そして「リフト付き電動車いす」等である。いずれの機械も障がい者のニーズやウォンツを知り尽くしていないと到底できない価値ある物ばかりであり、その商品を見たり、その開発秘話を聞くたび私たちは涙する。

「リフト付き電動車いす」は、ボタン1つで車椅子の椅子が下は地面まで、上は棚のものが手でとれるほど上下移動がスムーズな機械であり、障がい者の自立・自活化に役立つものである。

また「正圧式呼吸トレーナー」は、深呼吸を補助・促す機械であり、酸素不足の結果、回復が遅れ、不便を強いられている障がい者のために、数年の歳月をかけ開発された画期的商品である。

より驚かされるのは、こうした福祉機械は、研究開発費をとらないばかりか、その価格も採算度外視である。このことを岸さんは、障がい者のいる家庭は裕福な家庭ばかりではない。困っている人を助けたいだけなのです…という。

 

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