吉田正尚選手~打撃の頂点をつかめ!【第143回】

吉田正尚選手~打撃の頂点をつかめ!【第143回】

新型コロナウィルスの感染者が一向に減らない厳しい状況の中、今年度のプロ野球はまもなく2月1日のキャンプインを迎えます。今年はキャンプ地へのファンの見学にも制限がかかるようで、果たして予定どおりの開幕を迎えることが出来るかどうかも予断を許さない状況です。

そんな中、今回は昨シーズンまでで3年連続のベストナインに選ばれ、初の打撃タイトルも獲得し、既にリーグを代表する選手のお一人ともなっておられる一人の選手をとりあげさせていただきます。その選手の名は、オリックス・バファローズの吉田正尚(マサタカ)選手です。

吉田選手は1993年7月生まれの27歳、福井県福井市出身の右投左打の外野手です。173㎝、85㎏とプロ野球選手としては決して大きい体格の選手ではありませんが、その豪快なフルスイングは観る者を魅了してくれます。吉田選手は6歳から野球を始め、小学校・中学校の在学中はボーイズリーグの鯖江ボーイズに所属しておられました。子供の頃より「遠くへ飛ばしたい」という意識の強い少年だったようです。

その後進学された敦賀気比高校では、1年生の夏に4番打者として甲子園での全国大会に出場されました(初戦で帝京高校に敗退)。2年生春のセンバツ甲子園にも出場されましたが、この時は準々決勝まで進まれました。ただ残念ながら、その後は甲子園出場は叶わなかったようです。出場された甲子園の4試合で、16打数5安打、打率.313、2打点という成績を残しておられます。

高校卒業後は青山学院大学に進学され、入学早々の1年生の春季リーグから東都大学リーグの1部リーグで4番打者に抜擢され、打率.311、1本塁打、7打点を記録して指名打者としてベストナインに選ばれています。その後、秋季リーグでも指名打者部門で2季連続でベストナインに選ばれる等、大学生レベルでは格の違いを見せつけておられます。

大学2年生になると外野の守備にもつかれるようになり、2年生春・3年生秋のリーグ戦では外野手としてベストナインに選ばれています。3年生秋のリーグ戦では打率.352、3本塁打と吉田選手ご本人は大活躍でしたが、チームは2部に降格と残念な結果となってしまいました。4年生時は2部リーグで戦い、秋のリーグ戦では打率4割をマークするも、チームの1部昇格はならず、ご自身の成績とチーム成績が噛み合わない消化不良の大学生活でした。

ただ一方で、2年生時には日米大学野球選手権の日本代表に、3年生時にはハーレムベースボールウィークの日本代表に選出され、更に4年時には2015年ユニバーシアードの日本代表にも選出され、特にユニバーシアードでは主に4番打者として日本代表の優勝にも貢献される等、大学球界の強打者としての評価は揺るぎませんでした。こうして迎えた2015年秋のドラフト会議では、オリックス・バファローズから1位指名を受け、入団されています。

吉田選手は入団以来ずっと背番号34番を背負っておられますが、これはご自身と同じ右投左打の外野手で「憧れの対象で目標の選手」と公言されている米大リーグのブライス・ハーパー選手(現フィラデルフィア・フィリーズ)が、ワシントン・ナショナルズ時代の2018年までつけていた背番号であり、ご本人が強く希望して実現したものだそうです。

オリックス球団は「どうしても和製大砲が欲しかった」ということでの1位指名だったようで、当然即戦力としての期待が掛けられていました。紆余曲折を経ながらも入団1年目の開幕一軍入りを果たし、開幕戦に1番指名打者として出場し、2本のヒットを打ち、更に開幕戦から6試合連続安打を打つなど、順調な滑り出しを見せるも、主に腰痛で幾度かの戦線離脱を余儀なくされる等、1年目・2年目はそれぞれ63試合・64試合しか出場できませんでした。

ただ出場した試合で残された成績は素晴らしく、1年目は打率.290、10本塁打、34打点、2年目は打率.311、12本塁打、38打点を記録されています。2年目のシーズン終了後には腰の手術を受けると共に、3年目となる2018年は「故障しない身体づくり」をテーマに掲げて体幹トレーニングなどに取り組まれた結果、2018年以降ここ3シーズンは戦線離脱を余儀なくされるような故障はなく、3年連続での全試合出場を果たしておられます。

この3年間は、故障をせずに試合に出続けられる体力を得ると同時に、打撃のパフォーマンスも一段とアップし、まさにパリーグはおろか、日本球界全体でもトップレベルと思える打撃成績を挙げ続けておられます。ちなみに打率はこの3年間、.321→.322→.350(首位打者)、本塁打は26本→29本→14本(3年目の2020年は120試合にゲーム数減少)、打点は86点→85点→64点と推移し、3年連続でパリーグの外野手部門のベストナインに選出されています。

近年は打者を評価する指標として、打率・本塁打・打点以外に、出塁率+長打率で算出する「OPS」という指標が注目されています。このOPSは得点との相関性が高い指標と言われており、OPSが.800を超えれば一流、.900を超えればリーグを代表する好打者と言われています(.900を超えるのはパリーグで毎年5人前後)が、吉田選手のOPSはここ3年間、.956→.956→.966と推移しており、ここでもリーグを代表する好打者であることが証明されています。

ここで少し吉田選手の打撃技術に触れてみたいと思います。冒頭でも述べたとおり、吉田選手の魅力のひとつは豪快なフルスイングなのですが、一方でバットコントロールと選球眼のバランスの良さも極めて優れた選手です。ひとつの三振をするまでに要する打席数(打席数÷三振数で算出)を表わす「PA/K」という指標がありますが、2020年シーズンで言うと、この数値が16.97でした。

2020年シーズン、吉田選手は492回打席に立ち、四球72を稼ぐ一方、喫した三振はわずか29でした。実はこの29という三振数はとんでもない数字で、パリーグの規定打席到達者26人中、三振数50以下の選手は吉田選手ただ一人(セリーグを含めてもわずか3人、セリーグの最少は横浜DeNAベイスターズの宮崎敏郎選手の29)でした。

PA/K =16.97という数値は、2020年シーズンのパリーグで吉田選手の次に来るのが千葉ロッテマリーンズの鈴木大地選手の7.69ですから、いかに飛び抜けた数値であるかがお分かりいただけると思います。更に言うと、1997年シーズンに216連続打席無三振のプロ野球記録を作られた、オリックス・ブルーウェーブ時代のイチロー選手の16.86をも凌ぐ高数値でした。

吉田選手はご自身の性格の特徴として「向上心、探求心、反骨心が旺盛なこと」と述べておられます。少し余談になりますが、プロ入り1年目のシーズンが終わった後、ハンマー投げの選手としてオリンピックで金メダルも獲られた室伏広治氏(現スポーツ庁長官)に直筆の手紙を書いて指導を乞い、2017年以降は春季キャンプの前に室伏氏から筋力トレーニング、体幹トレーニングの指導を受けておられます。自らが掲げるテーマに対して貪欲に突き詰めていく向上心、探求心がよく表れています。

そんな姿勢は試合の中でも発揮されているようで、試合前から対戦する投手のデータを頭に入れ、ベンチやネクスト・バッターズサークルから、戦況に応じて相手投手が前のバッターにどんな配球でどんな攻め方をしてくるか、次の自分の打席でどんな攻め方をしてくるか、その組み立てをしっかり考えて打席に立っておられるようです。

この事前のシミュレーションが初球をヒットにしている打率の高さにもつながっているのでは、とご本人も語っておられます。一方で2ストライクに追い込まれてからは、考え方に幅を持たせ、逆方向への意識をしっかり持つようにされているようです。そのことによって、しっかりボールを長く見ることが出来、難しいボールに手を出さず、甘いボールならしっかりアプローチ出来、そのことが結果として三振の少なさにもつながっているとのことで、吉田選手に言わせると逆方向への意識から生み出されているようです。

年々打撃技術を進化させている吉田選手ですが、入団から間もない頃はどちらかと言うと左投手を苦手とされていました。しかし今ではそれも克服し、投手の右左に関係なく、コースの内角外角高め低めのいずれに対しても、かなり高いアベレージを残しておられます。併せて球種についても特に苦手とする球はなく、データ上最も低いスライダーでも2割8分程度の率を残しており、相手投手からすると極めて打ち取りにくいバッターに進化しておられます。

昨シーズンが終わった後、3年連続のベストナインが決定した際に受けたインタビューで「今年は首位打者を獲得することが出来ましたが、来年は打撃部門のすべてでタイトル争いをして、再びベストナインに選んでいただける数字を残せるよう頑張ります」と述べられ、更に高いところを目指していく意欲を表明されました。

仮定の話ですが、もし吉田選手がパリーグの優勝争いが出来る強豪チームに在籍していたら、あるいはセリーグの上位球団に所属していたら、今よりももっと高い注目を集める選手であったかもしれません。吉田選手が入団してからの5年間、チームは最下位3度を含め、すべてBクラスに低迷しています。しかし見方を変えると、ずっとBクラスに低迷するチームであるが故に、出場のチャンスに早くから恵まれ、そのことが早くから打撃技術を開花させたことも間違いなさそうです。

観る者の勝手な要求かもしれませんが、吉田選手が優勝争いという厳しい状況の中で戦う姿をぜひ見てみたいなと思います。優勝争いという真剣勝負の中で、相手投手・相手チームが吉田選手を抑える為に、より組織的に対応してくる中で、吉田選手がその包囲網を打ち破る為にどんな手を尽くしていくのか、そんな戦いをぜひ見たいものです。

吉田選手が持っておられるポテンシャルや可能性には、まだまだ奥深いものが感じられます。自らも認めておられる向上心、探求心で更に打撃技術の高みを目指してもらいたいと思いますし、持ち前の反骨心と自らの打撃の力でチームの上位進出の原動力ともなっていただきたいものです。吉田選手の2021年シーズンの更なるご活躍を心よりお祈りしたいと思います。

(おわり)
2021/1/20

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筆者プロフィール

fukuyama福山義人氏 元 (株)CSKホールディングス社長
株式会社マネジメント・サポート 代表取締役 福山義人氏1949年生まれ。慶應義塾大学卒業後、現(株)SCSKに入社。創業オーナー大川功氏に師事し、新規顧客開拓担当、営業マネジャー、管理部門マネジャーを経て、2005年代表取締役社長に就任。退任後、(株)マネジメント・サポート設立。現在は、創業オーナーに仕えた経験と自らの社長経験をもとに、若手経営者へのサポート及び講演活動等に従事。

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