石川柊太投手~チームに勝利をもたらす、育成出身投手【第135回】

石川柊太投手~チームに勝利をもたらす、育成出身投手【第135回】

新型コロナウイルス禍で開幕が三ヶ月遅れた今年のプロ野球でしたが、無観客での開幕から、今は5000人限定という条件付きではあるものの、観客を入れての開催が行なわれています。1ヶ月半以上が経過し、各チームとも40試合以上のゲームを消化し、8月9日(日)現在セリーグは読売ジャイアンツが首位に立ち、パリーグは福岡ソフトバンクホークスと東北楽天ゴールデンイーグルスが同率首位に並ぶという激しい攻防を繰り広げています。

今年は日程が過密になっていることや、調整期間が例年とはだいぶ異なっていたことの影響か、各チームとも故障やケガによる選手の離脱も結構目につきます。そんな中、順調な滑り出しと共に期待どおりの活躍をされている選手も数多くおられますが、そんな活躍選手の中から、今回は福岡ソフトバンクホークスの大黒柱の一人ともなっておられる石川柊太(シュウタ)投手をとりあげさせていただきます。

石川投手は1991年12月生まれの28歳、東京都品川区のご出身です。小学校2年生から野球を始め、中学生までは軟式野球をやっておられたようです。高校は東京都立総合工科高等学校に進学されています。高校3年時には東東京大会でベスト8まで勝ち進まれたものの、甲子園とは無縁の高校生活でした。

その後、大学は創価大学(東京新大学野球連盟)に進学されましたが、1学年上におられた現・東京ヤクルトスワローズの小川泰弘投手の卒業後は登板機会も増え、4年生の秋のリーグ戦では4勝無敗の活躍でリーグ優勝に貢献されました。(余談ですが石川投手の3年後輩には、2016年秋のドラフトで5球団競合の末、今はチームメートとなっている田中正義投手がおられました)

大学4年生の秋(2013年)に行われたドラフト会議では支配下登録選手としてはどこからも声がかかりませんでしたが、育成ドラフト会議で福岡ソフトバンクホークスから1位指名を受け、育成選手として背番号138番でプロへの第一歩を記しておられます。ただし入団時から右肩・右肘の故障が相次ぎ、最初の2年間は三軍での登板はあったものの、二軍のウェスタンリーグ公式戦での登板にも至りませんでした。

ようやく3年目の5月にウェスタンリーグ公式戦で初登板初勝利を挙げ、7月には支配下選手契約を勝ち取り、背番号も二桁の29番になられたものの、一軍公式戦への登板機会を得ることまでは出来ませんでした。ただ二軍公式戦では9試合・33イニングの登板機会を得て4勝0敗、防御率3.00の成績を挙げ、少しずつ階段を上がっていかれました。

入団4年目となった2017年、春季キャンプを主力中心のA組で過ごされると、オープン戦でもリリーフで好投を続け、初めて開幕一軍の切符を手にされました。4月初旬の対東北楽天ゴールデンイーグルス戦で4番手のリリーフ投手として一軍公式戦にデビュー。以降の試合でも中継ぎ投手として登板を重ね、5月中旬にはオリックスバファローズ戦で初ホールド、5月末のセパ交流戦・中日ドラゴン戦で一軍公式戦初先発・初勝利を記録される等、一軍投手としての立場を固めていかれました。

結局この年は34試合(うち先発12試合)に登板し、98回3分の1イニングを投げて8勝3敗、防御率3.29、先発・リリーフの双方で勝利を挙げ、ポストシーズンのクライマックスシリーズ(CS)・ファイナルステージ(対楽天戦)でも3試合に登板して勝利、日本シリーズ(対DeNA戦)でもリリーフ登板で2勝しておられます。そして報道によるとオフの契約更改では推定年俸500万円が一気に3000万円にアップされたようで、名実共にチームの主力選手の一人となられました。

翌2018年も年間通してリリーフと先発の両方をこなす起用方法は変わらず、42試合(うち先発16試合)、127回3分の1イニングの登板で13勝6敗6ホールド(うち先発で7勝、リリーフで6勝)を挙げておられます。ちなみにですが、13勝という勝利数はエースである千賀滉大投手と並ぶチームの最多タイ記録でした。

この年はCSファーストステージ(対日本ハム戦)、CSファイナルステージ(対西武戦)でもリリーフとして勝ち投手になっておられますが、日本シリーズ(対広島戦)の第1戦で好投するも右肘に違和感を発症し、結局ベンチ入りメンバーから外れるという残念な状態でシーズンを終えられました。

入団6年目となった昨シーズンは自主トレ期間中に右足太ももの肉離れを起こし、春季キャンプはリハビリ組でのスタートとなられました。3月にはシート打撃に登板するところまで回復をみせていたのですが、4月の中旬に再度の右肘痛を発症。結局半年近い長期離脱となってしまい、9月後半に復帰は果たすも、レギュラーシーズンはわずか2試合の登板で終わってしまいました。

しかし読売ジャイアンツと戦った日本シリーズ第3戦では2番手で登板し、2回を無失点に抑えて勝ち投手になるなど、最後の最後でチームの日本シリーズ三連覇に貢献することが出来ました。

ここまでお読みいただいて気づかれたかもしれませんが、石川投手はリリーフ登板で勝ち投手になられるケースが結構目につきます。これは偶然の産物ではなく、石川投手の投球スタイルに起因するもののように思えてなりません。

石川投手は最速156㎞、通常で150㎞前後のキレのいいストレートと大きく曲がるパワーカーブ、小さな変化のスライダー等を投げ分ける本格派の右腕ですが、三振奪取率が高い上に、バッターに立ち向かう際の投球間隔がとても短いことが大きな特徴です。先発・リリーフとして1年間フルに活躍された2018年のケースでは、無走者時の平均投球間隔は9秒台前半だったそうです。

これはプロ野球の全投手の中でもかなり早い部類に入るようで、相手バッターに考える間を与えず、ポンポン投げ込んでくる為、味方の野手陣には「石川が投げる時はリズムがいいので守る時間が短い」と好評なようで、このリズムの良さ、テンポの良さが直後の攻撃に好影響を及ぼし、結果得点が入って石川投手に勝ちがつく、という好循環を生み出しているのではないかと思われます。

石川投手の投球における最大の武器となっている大きく曲がる「パワーカーブ」ですが、このボールの握りはかつてヤクルトスワローズで活躍された伊藤智仁投手(現・東北楽天ゴールデンイーグルス一軍投手コーチ)のスライダーの握りと同じであることをご本人が明かしておられます。伊藤智仁投手と言えば高速スライダーですが、でもどこに接点があったのでしょうか?

石川投手に伊藤智仁氏のスライダーの握りを伝えたのは、大学時代に指導を受けた佐藤康弘コーチでした。佐藤コーチは社会人野球のプリンスホテルに投手として在籍時、日本代表として1992年のバルセロナオリンピックに出場されていますが、その時に一緒に日の丸を背負って戦った仲間の中に、後にヤクルトスワローズで衝撃的なデビューをされた伊藤智仁投手がおられたようです。

当時スライダーの習得を目指していた石川投手が「こういう握りもあるんだぞ」と教わったのが最初だったようです。ただ石川投手がこの握りで投げると大きく曲がる、というより曲がり過ぎてしまう上に、さほど球速も出なかったようで、長らく武器にはならなかったようです。ただ入団4年目、実質的な一軍デビューとなった2017年に、発想を変えて「このボールはスライダーではなくてカーブなんだ」と考えるようになったことが転換点となったようです。

通常カーブといえば「ドローン」と弧を描くのが一般的であるのに対し、石川投手のパワーカーブはグイッと力強く曲がります。カウントをかせぐことも出来、どちらかと言うとストレートが高めにいきがちな石川投手ですが、バッターはこのカーブをケアすることで高めのストレートも打ちづらくなっているようです。

まさに自らの欠点をも武器に変えてくれている訳で、今や石川投手にとって生命線と言っても過言ではありません。このボールを右打者に投げる時は、バッターの顔をめがけて投げているイメージだそうで、まさに相手バッターにとっては厄介極まりないボールに違いありません。

こんな武器に磨きをかけ、迎えた今シーズンでしたが、開幕5戦目での初登板以来、ここまで6試合に登板して4勝0敗、防御率2.39という成績を残しておられます。初登板の西武戦こそ3回3分の2イニングで6失点という不本意な投球でした(しかし敗戦はつかず)が、あとの5試合はすべてクォリティースタート(先発投手が6回以上投げて3失点以内に抑える)でした。

中でも圧巻は8月1日の埼玉西武ライオンズ戦、プロ入り初となる完投勝利を1安打完封で達成されました。最速149㎞のストレートに得意のパワーカーブ等を交えて自己最多の13奪三振、今季リーグ最短の2時間21分で試合を終わらせる、まさに快投でした。当日ラジオ中継の解説をされた前監督の秋山幸二氏は、話をしようとしたら終わってしまうぐらいテンポのいい試合だったと絶賛されていました。

石川投手の完封劇があった時点で福岡ソフトバンクホークスは貯金7の首位でしたから、これからいよいよ首位固めに入っていくのだと思って見ていたところ、なんと前回登板から5日後の8月6日に石川投手の登録抹消が発表されました。今シーズンの登板2戦目で初勝利をあげた直後にも一度登録抹消の措置がありますから、別に驚くことではないのですが、8月4日から敵地での6連戦を戦う相手は、その時点で2位につけていた当面の敵である東北楽天ゴールデンイーグルスです。

故障の再発でなければ再登録に必要な10日間の経過後、直ちに再登録されるものと思われます。ただ工藤監督をはじめ首脳陣の目には、当面の敵である楽天戦での目先の1勝よりも120試合のレギュラーシーズン、1位チーム・2位チームで戦うパリーグ固有のクライマックスシリーズ、更にその先の日本シリーズを見据えての措置であろうことが伝わってきました。

入団時から右肘に故障を抱え、一軍の主力投手となってからも右肘に問題を抱えている石川投手に対して、シーズン最終盤までいかにいい状態でマウンドに送り出すか、その観点からみれば今回の登録抹消にも素直に納得がいきますし、2017年・2018年のように先発とリリーフの両方の役割をさせていることにも、登板イニング数の調整という観点で見れば、実に理にかなった起用法がなされているようにも思えてきます。

石川投手は一軍デビュー以来、先日の完封劇まで通算25勝9敗、防御率3.28という成績を残しておられますが、ご覧いただくと分かる通り極めて勝率の高い負けないタイプのピッチャーです。今シーズンはすべて先発登板をされていますが、今後戦況に合わせてリリーフに廻ることも十分有り得ると思われます。

右肘に少し問題を抱えるものの、投げれば勝つ可能性の高い石川投手をどんな起用法で活用していくか、工藤監督をはじめとする首脳陣の采配を楽しみにしたいと思いますし、その起用に応えて石川投手がどんな活躍を見せてくれるか、今後を大いに楽しみたいと思います。石川投手の快刀乱麻のご活躍を心よりお祈りしています。

(おわり)
2020/08/11

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筆者プロフィール

fukuyama福山義人氏 元 (株)CSKホールディングス社長
株式会社マネジメント・サポート 代表取締役 福山義人氏1949年生まれ。慶應義塾大学卒業後、現(株)SCSKに入社。創業オーナー大川功氏に師事し、新規顧客開拓担当、営業マネジャー、管理部門マネジャーを経て、2005年代表取締役社長に就任。退任後、(株)マネジメント・サポート設立。現在は、創業オーナーに仕えた経験と自らの社長経験をもとに、若手経営者へのサポート及び講演活動等に従事。

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