更なる高みへ!甲斐キャノン【第103回】

更なる高みへ!甲斐キャノン【第103回】

2018年のプロ野球は、日本シリーズにおいて福岡ソフトバンクホークスが広島東洋カープを4勝1敗1分で下し、全日程を終了しました。

広島東洋カープの本拠地マツダスタジアムでの二連戦を広島が1分1勝とした時には、まさかそこから4連勝で福岡ソフトバンクホークスが優勝を決めるとは思いもしませんでした。その裏には広島自慢の機動力を完全に封じ込めたソフトバンクの守りがありました。中でも6回連続で盗塁を刺し(日本シリーズ新記録)、シリーズのMVPに輝いた甲斐拓也捕手の活躍は目を見張るものがありました。という訳で、今回は福岡ソフトバンクホークスの甲斐拓也選手を取りあげます。

当シリーズで甲斐選手を取りあげるのは2回目です。(第83回「雌伏6年、報われた努力!」) ぜひ前回のコラムにも目を通していただきたいのですが、ここでごくごく簡単に甲斐選手のプロフィールを紹介させていただきますと、甲斐選手は1992年11月生まれの26歳、大分市のご出身で、同じ大分の楊志館高校を卒業後、福岡ソフトバンクホークスより育成ドラフトの6位指名を受け、入団されました。

入団から6年間はひたすら修練を積み、一軍のプレーヤーとして表舞台で本格的に脚光を浴びるようになったのは、昨シーズンからです。実は昨年10月に第83回のコラムを書いた時は、まだクライマックスシリーズ、日本シリーズの始まる前でしたので、発表になっていなかったのですが、昨シーズンは捕手部門のゴールデングラブ賞、ベストナインの栄誉も受けておられます。

今シーズンは133試合に出場(うち先発マスクは111試合)されましたが、チーム内での捕手としての守備回数から判断すると、メイン捕手の立場は既に手にされたように思われます。ただ規定打席には到達されておらず、ほぼすべての試合に出場し、試合終了まで交代無しに守り通す為には、課題の打撃力のアップが必要かなと思われます。今シーズンの打撃成績は、打率.213、7ホームラン、37打点でしたが、この打撃力では試合後半の勝負どころで代打を送られることも現状では致し方ないかな、と思われます。

現段階での甲斐選手の存在感は圧倒的な守備力にあります。今シーズンのパリーグの捕手の盗塁阻止率では、.447の甲斐選手がダントツの一番です。二番がチームメイトでもある高谷裕亮選手の.385、三番が埼玉西武ライオンズの森友哉選手の.373と続き、四番目は.320まで阻止率が下がります。12球団で一番肩のいい捕手は甲斐選手というのが、既にプロ野球界全体で確立しています。

そんなキャッチャーを相手にするのですから、日本シリーズで対戦した広島東洋カープの選手たちは、対戦する投手のクセや特徴を相当研究していたはずです。しかし甲斐選手、途中交代で出場した高谷選手の前に、計8度の盗塁を試みた広島東洋カープの選手たちは一度も成功させることなく敗退してしまいました。まさに広島は封じ込められ、逆にソフトバンクにとっては流れを自らに引き寄せるプレーが連続して起こったということです。

ある野球評論家の方は、甲斐選手が二塁へ送球する際の、足の運びを絶賛されています。ミットの位置を固定したまま、捕球する前に左足を一歩前に踏み出し、捕球と同時にステップを踏んでスローイングに移るそうですが、このフットワークの良さが正しい送球姿勢につながり、コンパクトなスローイングと正確なコントロールを生むことにつながっているそうです。

更に甲斐選手の使っているキャッチャーミットは最大の武器であるスローイングを生かす構造になっています。このキャッチャーミットは捕球をするポケット部分がとても浅く作られており、少しでもキャッチングのタイミングがずれると、ミットからボールが溢れ出てしまいそうになるのだそうです。甲斐選手ご自身が「キャッチングは滅茶苦茶難しい」と言われるほどです。でもこのミットを使い続けるのは、ボールが握りやすく、キャッチングからスローイングへの移行がとてもスムーズに出来る為だそうで、自らの最大の武器である肩を生かす為に、難しいキャッチングを繰り返し練習し、精度の向上に努めておられます。

少し余談になりますが、甲斐選手が使っておられるポケット部分の浅いキャッチャーミットにはちょっとしたエピソードが隠されていました。まだ甲斐選手が修行の身であった3年ほど前、常日頃より尊敬はしているものの、直接の面識はなく話をしたこともなかった埼玉西武ライオンズの炭谷銀仁朗捕手に、ミットを譲ってもらえないかと懇願されたそうです。チームは異なるものの、同じ捕手として少しでも上手くなりたいともがいている若者の願いを受け入れ、炭谷捕手が甲斐選手にプレゼントしたのが、今も甲斐選手が使い続けておられるミットだそうです。チームは違えどプロ野球の世界の先輩・後輩の間でこんな心の交流がなされていることを知って、私までもがなんか嬉しくなりました。

今シーズンの4月から本拠地の「福岡ヤフオク!ドーム」では、甲斐選手が盗塁を阻止するとセンター後方のビジョンに「KAI CANNON」の文字が甲斐選手の映像と共に流されるようになったそうです。どういう由来で「甲斐キャノン」と言われるようになったのか定説はないようですが、強肩をキャノン砲(大砲)に例えたという説や、アニメの「機動戦士ガンダム」に登場する「ガンキャノン」のパイロットがカイ・シデンであることから、という説もあるそうです。

いずれにしろ、福岡ソフトバンクホークスのファンの間を中心に知られていた「甲斐キャノン」という言葉が、今回の日本シリーズを機に、東京や大阪で売られているスポーツ紙・一般紙を通じて野球ファン全般に広く知られるところとなりました。一部の野球評論家は、守備だけならメジャーリーグでも通用すると言われましたが、捕手の守備にこれだけ人々の目を釘付けにし、これまでとは全然違う野球の楽しみ方を教えてくれた甲斐選手のプレーは、とてつもなく大きなインパクトを与えてくれました。

甲斐選手は育成から這い上がって今の座を掴み取った選手ですが、福岡ソフトバンクホークスというチームからは、厳しい競争を勝ち抜いて若い選手がどんどん育ってきています。一方で必要と思われるケースではFAでの補強にも敢然と乗り出しますし、外国人選手の補強にも的確に手を打っています。チームを強くする為には設備・施設への投資を怠らず、選手への投資も怠らない姿勢は、日本のプロ野球界を引っぱっていく盟主のあるべき姿と映ります。

今シーズン、福岡ソフトバンクホークスは故障者・ケガ人が続出し、大変苦しいシーズンを戦われました。常に何かが足りない状況で、そのことがレギュラーシーズンの6.5ゲーム差2位という成績だったのだと思われます。しかしシーズンの後半から終盤にかけて徐々に陣容を整え、チーム力を整えた結果が、クライマックスシリーズのファーストステージ、ファイナルステージを勝ち上がり、更には日本シリーズの勝利にもつながりました。まさに層の厚さを見せつけられた思いがします。

今年の日本シリーズを戦い終えた福岡ソフトバンクホークスには、プロ野球の球団経営のあるべき姿を見せてもらった気がしました。しかし日本のプロ野球が更なる発展を遂げる為には、他の11球団、中でもセリーグ代表として日本シリーズに臨むチームが互角に近い戦いを挑めるチーム力を整えない限り、ファンの気持ちも徐々に冷えてしまうのではないか、そんな危惧さえ感じました。

甲斐選手は福岡ソフトバンクホークスというチームの育成力を象徴する選手のお一人です。今回の日本シリーズのMVPのインタビューで「一生懸命、ピッチャーの人が牽制とかをやってくれたからなので、ピッチャーの人に感謝したいと思います。しっかり準備をしてきたので、機動力は使ってくると準備していた結果です。自分ひとりの力だけでは取れなかった。監督やコーチの力もありますし、投手の力もあってのことなので感謝したいと思います」と喜びを語られました。盗塁阻止は投手との共同作業という認識をしっかり持っての投手陣への感謝の言葉、私はこの選手はもっと上手くなるし、まだまだ上達する、そんな感想を持ちました。

来シーズンは、願わくは規定打席に到達できるところまで守備機会も増やし、名実ともに日本一のキャッチャーとして、益々一層の活躍を期待したいものです。「甲斐キャノン」の炸裂を一野球ファンとして心から楽しみにしたいと思います。

関連記事『甲斐拓也選手~雌伏6年、報われた努力!【第83回】

(おわり)
2018/11/9

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筆者プロフィール

fukuyama福山義人氏 元 (株)CSKホールディングス社長
株式会社マネジメント・サポート 代表取締役 福山義人氏1949年生まれ。慶應義塾大学卒業後、現(株)SCSKに入社。創業オーナー大川功氏に師事し、新規顧客開拓担当、営業マネジャー、管理部門マネジャーを経て、2005年代表取締役社長に就任。退任後、(株)マネジメント・サポート設立。現在は、創業オーナーに仕えた経験と自らの社長経験をもとに、若手経営者へのサポート及び講演活動等に従事。

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