榎田大樹投手~甦ったサウスポー【第98回】

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榎田大樹投手~甦ったサウスポー【第98回】

2018年のプロ野球は7月も終わりが近づきましたが、セリーグはどうやら広島東洋カープの優勝が見えてきたようです。一方パリーグは開幕8連勝以来ずっと首位に立つ埼玉西武ライオンズが、90試合近くを消化してまだ首位を保っています。この試合に負けたら首位陥落という瀬戸際を踏ん張りながら、北海道日本ハムファイターズとの熾烈な首位争いを繰り広げています。

今回はシーズン開幕の直前に埼玉西武ライオンズにトレードで加入し、地味ながらも戦力として貴重な働きを見せている一人の選手を取り上げさせていただきます。
その選手の名は榎田大樹(エノキダ・ダイキ)投手です。

榎田選手は1986年8月生まれのまもなく32歳、鹿児島の志布志湾に面する曾於郡(ソオグン)大崎町ご出身の、左投左打の投手です。私立の小林西高校(宮崎県小林市)から福岡大学・東京ガスへと進まれ、後にプロ入りされています。

高校時代は3年生の夏の全国大会県予選で日南学園高校に敗れてベスト4止まり。大学時代は九州六大学野球連盟のリーグ戦で通算12勝をあげ、ドラフト候補に名前は上がったようですが、結局指名はされず実業団の東京ガスに進んでおられます。

2年間在籍された東京ガスでは入社1年目から投手の柱として活躍され、2年連続で都市対抗野球の本戦に出場され、2年ともベスト8まで進んでおられます。最初の年には新人賞にあたる若獅子賞を受賞される等、アマ球界の好左腕として注目されるに至り、2010年秋のドラフト会議で阪神タイガースより一巡目で指名を受け入団されました。

入団された初年度は開幕からセットアッパーとして活躍され、5月後半にプロ入り初勝利をあげると7月前半にはプロ入り初セーブも記録され、監督推薦でオールスター戦にも出場されました。この年は球団の新人記録となる62試合に登板して33ホールドを獲得されましたが、これはセリーグの新人投手では歴代最多、NPBの新人投手全体でも歴代2位に相当する記録でした。

こうして順調なプロ生活を歩み始めたと思われたのですが、1年目の活躍が登板過多であったのか、入団2年目の後半から左肘痛に苦しむようになり、翌シーズンの早期復帰に備えるべく、シーズン終了を待たずに左肘の遊離軟骨除去手術を受けられました。

入団3年目となった2013年には、左肘手術の影響も考慮され、連投を避ける等の目的もあって先発へ転向。先発転向2試合目となった4月半ばの読売ジャイアンツ戦で先発初勝利をあげ、この年リーグ優勝の読売ジャイアンツからは先発で3勝をあげたものの、シーズン通算では4勝9敗と大きく負け越した上に3回にわたる戦線離脱、しかもこの年本塁打の日本記録を更新した東京ヤクルトスワローズのバレンティン選手の、日本プロ野球記録となる第56号本塁打を打たれる等、ご本人にとっては不本意なシーズンであったのかもしれません。

以降入団4年目の2014年シーズンの途中からは再び中継ぎへ転向され、負け試合を担当されることも多くなり、昨シーズンは年間3試合の登板に終わってしまいました。今シーズンも春季キャンプは阪神タイガースの二軍で過ごしておられましたが、開幕を半月後に控えた本年3月14日、岡本洋介投手との交換トレードで埼玉西武ライオンズへの移籍が発表されました。

榎田投手は球団からトレード通告を正式に受けた時、「7年もお世話になりましたからチームを離れるのは寂しいとは思いました。でもトレードはプロ野球選手にはつきものですし、僕にとってはプラスだとも思いました。プロ野球は上で勝負できないとプロじゃない。期待されて求められていくトレードです。阪神よりもチャンスがあると思いました」と、とても前向きに捉えられた当時の心境を語っておられます。

西武では最初二軍からのスタートとなり、潮崎二軍監督からは「まず先発でやってみて、そこから考えてみようか」という話はあったようですが、何も先発の枠が空いていた訳ではなく、かつての守護神だった高橋朋巳投手が故障離脱したことで、読売ジャイアンツへFA移籍した野上亮磨投手の人的補償として入団した高木勇人投手が中継ぎへ回ったことで、その高木投手の先発予定だった4月12日のロッテ戦で榎田投手にチャンスが巡ってきたようです。

その試合でロッテのエース涌井秀章投手と堂々投げ合って、6回を5安打2失点と粘ってゲームを作り、首位を走るチームの勢いに乗って久しぶりの先発勝利を挙げられました。その後は一度の中継ぎ登板をはさんで、あとはすべて先発登板で開幕から4連勝と、ここ数年のモヤモヤ感を吹き飛ばすかのような活躍ぶりを見せられました。

昨シーズン終了時点で阪神タイガースのドラフト同期で残った投手は榎田投手一人だけになっており、来年ダメなら次に戦力外通告を受けるのは自分・・・と腹を括っておられたようです。

それならもう一度自分を見つめ直し、これだけやったんだからと思えるだけのことはやってみようと昨年の秋からレベルアップへ向けての様々な取り組みを始められたようです。その中のひとつが投球動作解析に詳しい先生のアドバイスを取り入れてのフォーム改造だったようです。

それまでは軸足にしっかり体重を乗せて投げていく形を意識されていたようですが、先生のアドバイスを取り入れ、踏み込んだ右足で回転することを意識することにより、テイクバックを小さく打者の近くでボールをリリースするようなフォームに改造されたそうです。打者に向かっていくような形のフォームとなり、同じような球速でも打者が差し込まれることとなり、榎田投手の感覚とピタッと合ったようです。1月の自主トレ、2月のキャンプでの取り組みで、ご自身の中では先発のチャンスがあれば結果を出せるんじゃないかという手ごたえを感じておられたようです。

ただ残念なるかな、同じ力なら若手起用というチーム方針が打ち出されている阪神タイガースでは、オープン戦でも一軍相手に試す機会は与えられなかったところへ、突如巡ってきた今回のトレード話だったようです。だから投げる場所を与えてくれている西武球団には、ただただ有難いという感謝の気持ちを持っておられるようです。

そして交流戦では、本拠地メットライフスタジアム(西武ドーム)に古巣阪神タイガースを迎えた6月3日の試合で先発マウンドに立ち、7回111球を投げ、5安打3失点に抑えて今季5勝目を挙げれらました。

昨秋から取り組んでこられたフォームの改造によって投手の生命線であるストレートが甦り、粘り強く勝ちゲームを作っていくという、まさに榎田投手の良さが凝縮されたような好投でした。試合後のヒーローインタビューでは西武ファンのみならず、阪神ファンからも大きな声援が送られていたことがとても印象的でした。

埼玉西武ライオンズでは昨季二桁勝利を挙げた野上亮磨投手が読売ジャイアンツへFA移籍、中継ぎのキーマンであった牧田和久投手がポスティング制度を使ってメジャーリーグへ移籍、昨年一年間32ホールドをあげたBシュリッター投手の退団と、投手陣が手薄になっていたという事情がありました。

野上投手の人的補償で高木勇人投手を獲得したことに加え、先発左腕候補として榎田投手を補強、シーズンに入ってからも元広島東洋カープ、前BCリーグ・富山サンダーバーズのデュアンテ・ヒース投手を獲得したり、つい先日も金銭トレードで小川龍也投手を中日ドラゴンズから補強しています。このチームが強力打線に引き換え、いかに投手力に弱点を抱えているかを思い知らされるような戦力補強ぶりです。

投手が複数年にわたって活躍することがいかに大変か、1年間継続して安定した投球を続けることがいかに大変か、そんなことを思い知らせてくれる埼玉西武ライオンズの台所事情です。

そんな中にあって与えられたチャンスをモノにし、貴重な戦力としてチーム内での立場を確立しつつある榎田投手の奮闘にエールを送りたいと思います。ただ榎田投手に関して言えば、ご本人の努力は勿論ですが、機会に恵まれない他球団の投手に目をつけ、先発投手として活用し、持っている能力を目一杯引き出し戦力化している、埼玉西武ライオンズのチームマネジメントの勝利のように思えます。

ただ榎田投手も監督・コーチから全幅の信頼をおかれるローテーション投手にはなっていません。
その証拠に榎田投手の投球回数は、チームの試合数と同一となる規定投球回数には届いていませんし、7月最後の登板となった7月29日(日)のゾゾマリン(千葉マリン)スタジアムでの対ロッテ戦、リーグ屈指の好投手であるマイク・ボルシンガー投手(試合前時点リーグトップの12勝1敗)から、好運も重なって4回で6点を取り、4回表が終わって6対1という展開で、4回裏榎田投手が四球をからめてつかまり、1死後押し出し死球で6対2と迫られたところで、スパッとドラフト1位ルーキー斉藤大将(ヒロマサ)投手に交代させられました。

1アウト満塁の大ピンチを、ドラフト1位とは言え、まだプロ入り3戦目の登板に過ぎない斉藤投手が後続を見事断ち切って、プロ入り初勝利をあげました。斉藤投手の見事な投球が光りましたが、一方でこの試合の榎田投手を注目して見ていた私は、辻監督をはじめとする首脳陣の榎田投手への信頼の度合いの現実を思い知らされた気がしました。ただ10年ぶりの優勝を一丸となって目指すチームとしては、当然の措置であったのだろうとも思えました。

14試合に登板して7勝2敗・防御率3.21という成績を残している榎田投手は、シーズン通算で二桁勝利をあげることも十分可能です。しかしそうした数字上の成績を残すこと以上に、無駄な四球を出さず、持ち味であるフィールディングの良さや牽制のうまさといったことも駆使しながら、6回・7回を粘り強く投げ抜きゲームを作ることに全力を傾けていただきたいなと思います。それがチームの10年ぶりのリーグ制覇への大きな貢献となるはずですし、監督・コーチの本物の信頼を勝ち取ることにもつながるはずです。

開幕以来、榎田投手が投げてきた75イニングは相手球団にもそれだけのデータを渡してきたということです。優勝争いがもっともっと熾烈となるここからが榎田投手にとってもまさに正念場・踏ん張りどころです。ここからシーズン終了までどんな投球を見せてくれるか、榎田投手のこれからを注目して見守らせていただきます。

(おわり)
2018/7/31

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筆者プロフィール

fukuyama福山義人氏 元 (株)CSKホールディングス社長
株式会社マネジメント・サポート 代表取締役 福山義人氏1949年生まれ。慶應義塾大学卒業後、現(株)SCSKに入社。創業オーナー大川功氏に師事し、新規顧客開拓担当、営業マネジャー、管理部門マネジャーを経て、2005年代表取締役社長に就任。退任後、(株)マネジメント・サポート設立。現在は、創業オーナーに仕えた経験と自らの社長経験をもとに、若手経営者へのサポート及び講演活動等に従事。

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