辻発彦監督~再び来るか、西武黄金時代【第93回】

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辻発彦監督~再び来るか、西武黄金時代【第93回】

2018年のプロ野球が開幕しました。海の向こうでは、今年からロサンゼルス・エンゼルスに入団した二刀流・大谷翔平選手の投打にわたる大活躍が大きな話題になっており、日本にいる我々にも大きな楽しみを与えてくれています。

一方日本のプロ野球は、セリーグでは昨シーズンのクライマックスシリーズのファイナルを戦った広島東洋カープ、横浜DeNAベイスターズの両チームが好調です。特に横浜DeNAベイスターズは、昨年二桁の勝ち星をあげた三人の投手(今永昇太投手、濵口遥大投手、ウィーランド投手)を故障で欠いている状態での現在の成績であり、層が一段と厚くなっていることを如実に感じさせてくれます。又パリーグは開幕8連勝を飾った後も、8回表終了時点で8点差負けの試合を逆転サヨナラ勝ちするなど、開幕後ずっと好調な埼玉西武ライオンズの元気さが目立ちます。シーズンの先は長いですが、王者福岡ソフトバンクホークスにどんな戦いを挑んでいくのか、興味がつきません。という訳で今回は好調埼玉西武ライオンズの指揮官・辻発彦監督を取りあげさせていただきます。

辻発彦氏は1958年(昭和33年)10月生まれの59歳、佐賀県小城市のご出身で、現役時代は右投右打の内野手で名手と謳われた選手でした。佐賀県立佐賀東高校から日本通運浦和に進まれ、社会人野球でプレーされました。高校時代・社会人時代に際立った成績を上げておられたということではなかったようですが、身体能力の高さ、走塁センス、野球への熱意といった点が評価され、1983年秋のドラフトで西武ライオンズから二位指名を受け、25歳でプロの道へ進まれました。

入団後は当時監督であった広岡達朗氏から激しいノックを受け、徹底的に守備を鍛えられ、名手への階段を上っていかれました。入団2年目には110試合に出場して主力選手としての立場を手にされ、入団3年目の1986年からは、死球によるケガで51試合の出場にとどまった1987年を除き、西武黄金時代の不動の二塁手として君臨されました。この間ゴールデングラブ賞を8回、ベストナイン5回(いずれも二塁手部門)の受賞歴を誇っておられます。ただ守備に特化した選手ということではなく、1993年には打率.319で首位打者のタイトルも取っておられますし、西武退団後、現役引退までの4年間を過ごされたヤクルトスワローズ時代も加えて生涯通算で1462本の安打を打ち、打率.282の成績を残しておられます。

そして現役時代の辻選手を象徴するプレーとして色々なところで語り継がれているのが、辻選手入団4年目の1987年の日本シリーズ(西武vs巨人)の第6戦です。2対1で西武リードの8回裏2アウトから辻選手が安打で出塁し、続く秋山幸二選手のセンター前ヒットで一気に一塁ランナーの辻選手がホームを落とし入れ追加点を奪ったシーンです。センターを守るウォーレン・クロマティ選手のまさかホームまでは走らないだろうという一瞬の心のスキと共に生じた緩慢な返球と、中継に入った川相昌弘選手が打者走者の二塁進塁を警戒して背後の三塁ベース側が死角となったほんの一瞬のスキをついた見事な走塁でした。走らせた三塁ベースコーチの伊原春樹コーチの好判断とホームを一気についた辻選手の果敢な走塁が称賛されると共に、完成された強いチームにこそ成し得る象徴的プレーとして今も強く印象に残っています。

現役引退後は、最後に選手として在籍されたヤクルトスワローズを皮切りに、横浜ベイスターズ、中日ドラゴンズで計13年間(ヤクルト2年、横浜3年、二回に分けて中日8年)のコーチ並びに二軍監督生活を送られると共に、2006年にはワールドベースボールクラシック(WBC)日本代表チームの内野守備・走塁コーチも務めておられます。コーチとして在籍された三つのチームでは、好調な時期と低迷期の両方を経験されました。ヤクルトでは4位と優勝、横浜ではすべて最下位、最初の中日時代は落合監督のもと強い時期を、二度目の中日でのコーチ時代はチームが低迷する苦しい時期を過ごしておられます。ご自身の現役時代の西武ライオンズ・ヤクルトスワローズは強豪チームであった為、選手としてリーグ優勝10回、日本一も7回経験しておられます。即ち辻監督が2016年の秋に古巣・埼玉西武ライオンズからの監督要請を受諾された際には、勝てる強いチームと低迷するチームの違いを肌感覚でしっかり把握しておられたように思えてなりません。こうして就任前の3年間連続してBクラスであったチームの再建の担い手としての監督生活が2017年のシーズンより始まりました。

辻監督は中日ドラゴンズのコーチ時代、交流戦で戦う西武ナインを見て「技術のある人材がこれだけいて何故勝てないんだろう。もっと変われるんじゃないか」という見方をされていたようです。実は監督に就任される前年(2016年)のチームの失策数101はリーグ最多でした。つぶさに調べてみると打ち取ったのに暴投してダブルプレーが取れなかったり、バント処理の送球が暴投になったりと、エラーの内容に納得できないものが多かったようで、まずは守備の意識を高めることから始めなくては、と強く感じられたようです。

守備の名手であった辻監督は守備についてこんなことを語っておられます。「どこにどう投げれば次のプレーにつながるか、どんなトスをすれば相手が捕りやすいか・・・。結局守備というのは味方に対する思いやりなんです。特に二遊間は相手の気持ちを思い合うことが大事なポジションで、そういう関係性を築くには、ある程度レギュラーとして固定できる人材が必要です」。

そういう思いでおられるところへ昨シーズン新人選手として入団してきたのが源田壮亮選手でした。キャンプ・オープン戦を見て辻監督は、打撃に不安はあるものの「ショートは源田でいく」と決められ、開幕戦から使い続けられました。結果、源田選手は全試合全イニングをフル出場され、155安打を打って打率.270、37盗塁でパリーグ新人王を獲得され、今やチームに無くてはならない中心選手となっておられます。

辻監督はプロ野球選手としてのスタートを前述したとおり広岡監督の下で始められ、その後は森昌彦監督、ヤクルト移籍後には野村克也監督、コーチとしては中日ドラゴンズで落合博満監督の下で仕事をされています。いずれ劣らぬ名将であり、個性溢れる方たちですが、これらの方たちとの接触を通して、ご自身が監督にご就任された段階では選手やコーチとのコミュニケーションのとり方に関する辻流のスタイルを既に持っておられたように思われます。実際監督をされるようになった今は、選手と1対1でじっくり話をする対話型スタイルを実行しておられます。これは選手一人一人のタイプによって接し方を変えていく必要があるからであり、併せて辻監督ご自身が何事も楽しくやりたい、というお考えを持っておられることから、普段からチーム内がいい雰囲気に満たされている状態を作り上げたいと思っておられるからのようです。勝負ごとの世界では、ひとつのプレーでベンチがわぁと盛り上がれば、劣勢でも「まだいける」という気持ちになれるものだそうです。

コーチとの関係についても方針を決めた後は、極力口出しはせず、各担当コーチに任せるスタイルを貫いておられるようです。コーチに対して「監督がこう言ってるからこうだ」という言い方は決してして欲しくないと思っておられるようですし、イエスマンにならずに「自分はこう思います」とどんどん言ってきて欲しいとも話しておられます。いい雰囲気の中で監督・コーチ・選手がお互い慣れ合いにならず、いい緊張感をもってそれぞれが果たすべき役割を全うしながら切磋琢磨していくことが、辻監督の考えておられるチームのあり方のように思えます。

辻監督のご就任からこれまでの埼玉西武ライオンズの戦い方を見ていると、まず最初に「勝つ為に何がなされるべきか」という基本方針あるいは基本構想が打ち立てられ、今はその基本構想に沿ってプランがひとつずつ着実に実行に移されているように見受けられます。ご就任時の守備の破綻で負けるという状態を解消する為に守備に対する意識改革が行われましたが、守備が弱いという弱点が解消されつつある現時点では、次のステップとして球際に強いプレーが各選手に要求され始めています。またチームの精神的支柱を確立する為、辻監督の就任時から浅村栄人(ヒデト)選手がチームのキャプテンに任命されています。浅村選手はワーワー言ってチームを盛り上げるようなタイプではないようですが、黙々と練習に打ち込む、まさに背中でチームを引っ張るタイプであり、チームのOBの方たちからは、浅村選手はキャプテンになってから明らかに変わったとの声が出ているようで、辻監督の目論見どおりチームの精神的な支柱としてまわりを引っぱる存在感を見せ始めておられるようです。

このチームは実は昨シーズン、かつてエースであった岸孝之投手がFAで東北楽天ゴールデンイーグルスに移籍し、今シーズンは昨年11勝をあげた野上亮磨投手が読売ジャイアンツへ、中継ぎエースであった牧田和久投手が大リーグのサンディエゴ・パドレスに移籍されており、本来なら相当大きな戦力ダウンが表面化してもおかしくないはずですが、そんな影響をほとんど感じさせないほど、チーム力が充実しています。今後は各ポジションの選手層が更に厚みを増すことによって、チーム内の競争が更に激しくなり、それがチーム力の底上げにもつながるはずです。まさに辻監督が現役の頃の、走攻守にスキのない、1点をもぎ取り1点を防ぐ、もっともっと高い極みにある西武野球を目指す道のりがスタートしたような、そんな気がいたします。目指す道のりはまだ道半ばとは思いますが、先行きに対してものすごい楽しみを感じさせてくれます。

このチームがこれから先どんな風に歩み、更なる強豪チームとして成長していくのか、更にはこの2018年シーズン、王者・福岡ソフトバンクホークスとどんな戦いを繰り広げてくれるのか、これから先を大いに楽しませてもらおうと思います。チーム力の強化へ向けての辻監督の益々のご健闘を心よりお祈りしたいと思います。

(おわり)
2018/4/23

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筆者プロフィール

fukuyama福山義人氏 元 (株)CSKホールディングス社長
株式会社マネジメント・サポート 代表取締役 福山義人氏1949年生まれ。慶應義塾大学卒業後、現(株)SCSKに入社。創業オーナー大川功氏に師事し、新規顧客開拓担当、営業マネジャー、管理部門マネジャーを経て、2005年代表取締役社長に就任。退任後、(株)マネジメント・サポート設立。現在は、創業オーナーに仕えた経験と自らの社長経験をもとに、若手経営者へのサポート及び講演活動等に従事。

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