上林誠知選手~高卒4年目の若者に覚醒の予感【第76回】

名古屋 052-586-8829

静 岡 054-205-8180

東 京 03-3518-6363

大 阪 06-6364-1350

(受付時間:平日9:00~17:30)

上林誠知選手~高卒4年目の若者に覚醒の予感【第76回】

2017年のプロ野球は開幕から1ヶ月以上が経過し、熱い戦いが繰り広げられています。ゴールデンウィーク(4月29日~5月7日)はお天気にも恵まれて1試合も雨で流れることもなく、全48試合で160万人の観客が球場に足を運び大盛況の状況でした。

セリーグでは阪神タイガースが9点差の試合をひっくり返しての大逆転勝利で、広島東洋カープを破って首位に躍り出たり、パリーグでも4月はモタモタしていた福岡ソフトバンクホークスがゴールデンウィーク期間の8試合を6勝2敗とようやくエンジンがかかり始めました。

又パリーグではもう1チーム、開幕から「一体どうしたんだ!」との声が出るぐらいの大不振であった昨シーズンの覇者・北海道日本ハムファイターズもゴールデンウィークを6勝2敗と、ようやく浮上のきっかけを掴んだように見受けられます。こうした中で、今回はゴールデンウィークでの活躍が特に目立った福岡ソフトバンクホークスの上林誠知(ウエバヤシ・セイジ)選手を取り上げさせていただきます。

上林選手は埼玉県さいたま市出身で、1995年(平成7年)8月生まれの21歳、宮城・仙台育英高校から2013年秋のドラフトで福岡ソフトバンクホークスから4位指名を受け入団された右打左投の外野手です。高校時代には春夏の甲子園に三度出場され、3年生の春の選抜ではベスト8まで進まれています。

プロ入り後、1年目は内野手に転向し二軍戦に三塁手として出場されていましたが、一軍での出場はありませんでした。そして2年目の2015年、再び外野手に登録を変更され、5月に初めて一軍に出場選手登録がなされ代打で初出場されています。そして8月後半に9番・右翼手として先発出場された試合でプロ初安打を放つと、その同じ試合の第3打席で初本塁打となる逆転満塁本塁打を打ち、初打点・初得点も記録されました。

この年は一軍での出場は15試合だけでしたが、その中で打率.318の結果を残し、ロッテとのクライマックス・ファイナルステージ、ヤクルトとの日本シリーズでも代打で打席に立つ機会を手にしておられます。一方この年は二軍公式戦となるウェスタンリーグで首位打者(打率.343)、盗塁王のタイトルも獲得される等、大きく芽を出す寸前の段階までこぎつけられました。

そしてプロ入り3年目の昨シーズン(2016年)、大きな期待をかけられて臨んだシーズンでしたが、一軍での出場試合数を伸ばせず、ウェスタンリーグでの成績も前年に比べて大幅ダウンとなってしまい、上林選手にとってはまさに、もがいてもがいてもがき苦しんだ一年だったようです。

その時のことを振り返って上林選手は「前の年(2015年)にちょっと良くて、そこで次の年に何かを変えたかというと何も変えていない。でもそのままいけば、ある程度の結果は残せるんじゃないかという考えがあった」と述べておられます。

しかし実際は違っていました。2016年はキャンプの練習の時点でフォームもスイングも何かしっくりきていないと感じておられたようですが、なかなか修正がきかないまま深みに落ち込んでいかれたようです。前の年の映像を見ていい時に戻ろうともされたようですが、ご本人は多分それも良くなかったとも述べておられます。

尊敬するイチロー選手やチームの同僚でもあり、自主トレを一緒にさせてもらい師とも仰ぐ内川聖一選手のような方たちでも毎年少しずつ何かを変えておられる、そうしたことはよくわかっていたはずなのに、実際に打てないとなった時には、何をどうすればいいのかもわからないような状態に陥られたのだと思われます。結局何も納得出来ずに昨シーズンを終えた時、上林選手のとった行動は翌シーズンに向けての自主トレの前にすべてを白紙にするということでした。

まず原点に帰って体づくりから始められたようです。体脂肪を増やさずに体重を増やし、時間をかけて筋量を増やしていかれました。その結果パワーがつき、下半身が安定したことでフォームも安定、更に体重が増えて体に芯が生まれたことでフォームの軸がぶれずにバットのヘッドがきくようになるという効果が生まれたようです。

又前述したように上林選手は内川聖一選手が中心になってやっておられる自主トレ集団で一緒にトレーニングを積んでおられますが、今年の自主トレでは実際に上林選手の体をガッと掴んで動かしてやり、体の微妙な動きを具体的に教えるといったシーンがあったそうで、上林選手はその内川選手の具体的なアドバイスによって何かを会得されたようです。

福岡ソフトバンクホークスを軸に評論活動をされている野球評論家の池田親興氏は、上林選手のゴールデンウィークの大活躍を見て、今は思い切りバットを振らなくてもコンパクトにヘッドをきかせれば飛ぶという感覚・コツを掴んだようだ、と述べておられますし、上林選手ご自身は「股関節に乗って体を回すイメージを持っている」と語っておられます。

また福岡ソフトバンクホークスの工藤監督は覚醒しつつある21歳の上林選手のことをこんな風に語っておられます。「打席ごとの考え方が良くなっている。(試合中に)セーフティバントを成功させたが、周りが見えて視野が広がった。ベンチでもネクストバッターサークルでも、常に相手のピッチャーにタイミングを合わせている。集中できているのも、日々のそういうことの積み重ねだと思う。打撃コーチも早くから出てきて付きっきりで指導しているが、周りに感謝をして、日々勉強を重ねて欲しいね。」

福岡ソフトバンクホークスは選手層の厚いチームであり、ちょっとやそっとでは一軍に上がれませんし、一軍ベンチに入ってもすぐに活躍することは厳しいチームです。若手選手たちはまず二軍・三軍でじっくり鍛えられます。そこで少し芽を出しかけた選手に初めて一軍での出場機会が与えられます。一軍で少し活躍できても調子を落としてしまうと再び二軍行きが命じられます。本当の実力をつけた選手だけがレギュラーへの階段を一段ずつ上がっていく権利を与えられます。自らの頭で考え、もがき苦しむ中から這い上がった者にだけ、その権利が与えられます。まさにそこには真の実力主義が貫かれているように思われます。

しかし若手選手にはもがけるだけもがく場も用意されています。(第53回「強さへの飽くなき追求」の項の「HAWKSベースボールパーク筑後」の話をご参照下さい) 先を見据え長期の構想の中での組織づくり、そして個々の選手育成が実践されているのが福岡ソフトバンクホークスというチームなのだと思われます。ここに組織が若手人材の育成にかける、あるべき姿が示されていると私には感じられました。

上林選手はこうした状況の中を自らの力でレギュラーへの階段を一歩一歩着実に上り始めました。しかしレギュラーの立場を確実なものとするにはもう少し時間が必要です。当然相手チームは上林選手を研究してきますし、試合に出続けることによる体力の壁との戦いもやってきます。しかしこうした壁を乗り越えた先にこそ、福岡ソフトバンクホークスの真のレギュラー選手、更には日本球界を代表するような選手としての名声がついてくるに違いありません。

前述した内川選手の自主トレ集団には、昨年「神ってる」という流行語を生みだした広島東洋カープの鈴木誠也選手も参加しておられます。1歳年上でWBCの日本代表にも選ばれた、背番号も同じ51番の鈴木選手の存在は上林選手にとって大きな刺激になっているようです。

5月になってからの8試合(5/10現在)で29打数14安打、打率.483、4本塁打、シーズンを通しても開幕してからの31試合出場で打率.330、6本塁打の成績(5/10現在)を残しておられる上林選手には、今シーズン大きく覚醒される可能性を感じさせてもらっています。これから佳境へ向かう今シーズン、上林選手のご活躍を大いに楽しませてもらいたいと思います。

(おわり)
2017/5/11

「福山義人のプロ野球に学ぶ組織論」一覧に戻る

筆者プロフィール

fukuyama福山義人氏 元 (株)CSKホールディングス社長
株式会社マネジメント・サポート 代表取締役 福山義人氏1949年生まれ。慶應義塾大学卒業後、現(株)SCSKに入社。創業オーナー大川功氏に師事し、新規顧客開拓担当、営業マネジャー、管理部門マネジャーを経て、2005年代表取締役社長に就任。退任後、(株)マネジメント・サポート設立。現在は、創業オーナーに仕えた経験と自らの社長経験をもとに、若手経営者へのサポート及び講演活動等に従事。

※福山義人氏への講演依頼はこちらから