緒方孝市監督~去年の俺にはバカだと言ってやる!【第65回】

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緒方孝市監督~去年の俺にはバカだと言ってやる!【第65回】

2016年のペナントレースは大詰めを迎え、既にセリーグでは広島東洋カープが1991年以来25年振り7度目のリーグ制覇、しかも優勝決定時点で2位の読売ジャイアンツに15ゲーム差をつける圧勝での結末となりました。また横浜DeNAベイスターズが初めてのクライマックスシリーズ進出を決めるというフレッシュな話題もありました。一方パリーグは9/22現在、二強の直接対決を2連勝としてマジック6を点灯させた日本ハムファイターズが福岡ソフトバンクホークスに対して優位に立ちましたが、この両チームの戦いに最終の決着がつくまでにはもう少し時間がかかるものと思われます。という訳で今回は取り上げたい話題が数多くあるのですが、25年振りの優勝を成し遂げた広島東洋カープの緒方孝市監督を取りあげてみたいと思います。

緒方監督のプロフィールを述べる前に、今シーズンの広島東洋カープを少し振り返ってみると、開幕から交流戦終了までの71試合が40勝29敗2分(貯金11)という成績であったのに対し、交流戦終了時点から優勝決定までの60試合を42勝18敗(貯金24)で戦っており、圧倒的に後半が強かったことが見てとれます。即ち苦しい夏場もなんのその、チーム力はどんどん充実し、優勝まで一気に駆け抜け、セリーグの他の5球団は成すすべもなく蹂躙された、そんなシーズンであったように思われます。しかし1年前を思い起こすと、勝てばクライマックスシリーズへの進出が決まるという最終戦を落とし、悲嘆にくれたのも監督就任1年目の同じ緒方孝市監督でした。緒方監督にとっても広島東洋カープというチームにとっても劇的に変わった一年であったように思われます。

さて緒方監督のプロフィールですが、1968年(昭和43年)12月生まれの47歳、佐賀県鳥栖市のご出身で佐賀県立鳥栖高等学校を卒業後、1986年秋のドラフトで3位指名を受け、広島東洋カープに入団されています。以来2009年の引退まで22年間の現役生活を広島東洋カープ一筋で過ごされています。打撃タイトルの獲得はなかったものの、盗塁王3回、ゴールデングラブ賞を5回受賞する一方、年間20本以上のホームランを打ったシーズンが6度あるなど、俊足巧打堅守にパワーも兼ね備えた好選手でした。現役引退後は2010~2014年の5年間、守備走塁コーチや打撃コーチなどを務め、昨年2015年より監督に就任されています。実は就任1年目の昨シーズンもチーム投手成績、チーム打撃成績をつぶさにながめてみると総得点は失点を上まわり、各項目もリーグ内の比較では上位に位置づけられるものが多く、Bクラスに甘んじてしまったことが少し不思議にさえ思えます。黒田博樹投手がメジャーリーグから凱旋復帰し、前田健太投手との二枚看板が揃ったことでファンの間では優勝への期待が大きく膨らんでいた分、失望も大きかったようです。

元々緒方監督は超の字が付くほどの頑固者で器用に振る舞うことはどちらかと言えば苦手とするタイプの方のようで、熱心さのあまりの厳しさが誤解を生み、緒方監督ご自身が「無力なんだと感じた1年だった」と述べられる程の辛い初年度を過ごされたようです。シーズン終了後にはフロント側に立つ球団本部長から「今季の敗因はベンチの責任」と厳しく糾弾され、今シーズンを迎えるにあたって、昨季までの二軍監督であった高(コウ)信二・現ヘッドコーチの一軍への配置替え、同じく昨季まで守備走塁コーチであった石井琢朗コーチを打撃コーチに配置替え、昨季現役を引退した東出輝裕選手の打撃コーチへの就任等々の手が打たれましたが、これが今シーズンのチームの躍進に大きく効を奏することになったようです。

即ち高ヘッドコーチがコーチ間、監督とコーチの間の取り纏め役を担われたことでコーチ陣の一体感が育まれ、それがチーム全体にいい意味での波及効果を生み出したようですし、現役時代に二人で二遊間を守った石井コーチ・東出コーチが打撃コーチについたことで「数字に表われない得点の取り方」への意識が徹底されたようです。併せてチームバッティングの方針に沿って実行したことがうまくいかなった場合、それはコーチの責任ということを徹底したことにより、選手が思い切ったバッティングを出来るようになったことも躍進を支えるひとつの要因だったようです。

緒方監督は今シーズン「投手を中心とした守り勝つ野球」が我々の野球と何度も何度も語ってこられました。守り勝つ、即ち守備力を高め、ミスを徹底して少なくする。そしてひとつでも先の塁を目指し走塁への意識を徹底する。今年の広島東洋カープで目につくのは全力疾走を怠らない姿勢です。4番を打つ外国人のルナ選手も併殺を逃れる為に一塁への全力疾走を怠りませんし、点差の開いた試合でも三振で捕手が後逸すれば振り逃げを狙って一塁へ全力疾走することが当たり前のように行われています。これは選手層が整ったことでチーム内にいい意味での競争意識が生まれ、普通の当たり前のことが当たり前に出来なければ交替させられるという、いい意味での緊張感がチーム内にあるからに違いありません。言い換えれば当たり前のこと=凡事を徹底するという緒方監督の考え方・方針がチーム内に深く浸透してきたことの証しと思われます。

広島東洋カープが優勝を決めた9月10日の東京ドームでの読売ジャイアンツ戦。この日の先発メンバー9名は全員が広島東洋カープにドラフトされた生え抜き選手(途中でアメリカへ渡った黒田投手、FAの国内出戻り組である新井選手も含めてですが・・・)でした。これは現在のプロ野球の状況の中では極めて珍しいケースです。他チームのFA宣言選手の獲得を行なわない(このシリーズの第30回・「広島カープというチームの行き方」をご参照下さい)という方針のもと、ドラフトで獲得した選手を徹底的に鍛えて一軍で通用する選手に育てあげる。実は緒方監督ご自身がこの風土の中で育て上げられた選手であり、このチームが作り上げてきた伝統の継承者として選ばれた指揮官に他なりません。

確かに昨年はあまりうまくいかず苦しまれましたが、今シーズンは緒方監督ご自身が「孤高の存在にはなりたくない」という思いをもって、目線を下げて主力選手を食事に誘ったり、監督室の扉を開けっ放しにして各コーチが頻繁に出入りを出来るようにしたりと、細かな部分かもしれませんが努力をしてこられました。今シーズンの最終盤、マジックがどんどん減っていた頃、緒方監督ご自身が「去年の俺にはバカだと言ってやる」と語られたそうですが、私はこの言葉に、口幅ったい言い方ながら、一皮むけた緒方監督のお姿を見た感じがしました。プロ野球の球団が選手を育てることは当たり前ですが、監督も育つべき時間と機会を与える中で育てなければならないのかもしれません。

今年の広島東洋カープは実にバランスのとれたチームであったように思います。戦力のバランスが整ったチームであったことは勿論ですが、黒田博樹投手・新井貴浩選手という一度チームを離れて戻ってきた両ベテランが、手を抜かず先頭に立って若い選手を引っ張り、精神的支柱として果たしてきた役割も実に大きかったように思われます。

10月8日(土)に始まるセリーグのクライマックスシリーズのファイナル・ステージ、そしてそこを勝ち上がると10月22日(土)開幕の日本シリーズでの戦いが待っています。緒方監督が短期決戦シリーズでどんな戦いを見せてくれるのか、一野球ファンとして大いに楽しみに見守らせていただこうと思います。

(おわり)
2016/09/23

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筆者プロフィール

fukuyama福山義人氏 元 (株)CSKホールディングス社長
株式会社マネジメント・サポート 代表取締役 福山義人氏1949年生まれ。慶應義塾大学卒業後、現(株)SCSKに入社。創業オーナー大川功氏に師事し、新規顧客開拓担当、営業マネジャー、管理部門マネジャーを経て、2005年代表取締役社長に就任。退任後、(株)マネジメント・サポート設立。現在は、創業オーナーに仕えた経験と自らの社長経験をもとに、若手経営者へのサポート及び講演活動等に従事。

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