岩貞祐太投手~ちょっと遅咲きの新戦力、エースへの道のり【第59回】

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岩貞祐太投手~ちょっと遅咲きの新戦力、エースへの道のり【第59回】

2016年のプロ野球も開幕して一か月が経過しました。毎年この時期は各チームにどんな新戦力が加わったかを見ることがとても楽しみです。新戦力と言えば、その年にドラフトを経て入団した新人選手あるいは新たに加わった新外国人選手を思い浮かべますが、もうひとつ前年まではほとんど実績らしい実績を上げられなかった選手の中で「オーッ」と今年の活躍に思わず目がいってしまう選手もいます。

今回は、開幕して一か月が経過した時点で思わず目がいってしまう、ちょっと遅咲きの新戦力の中から一人の選手を取りあげてみたいと思います。その選手の名は阪神タイガースの岩貞祐太投手です。

岩貞選手と言っても、かなり詳細に全球団をウォッチしておられるプロ野球ファンか阪神タイガースのファン以外の方では、ご存知ない方も多いと思われます。簡単にプロフィールをご紹介しますと、1991年9月生まれの24歳、熊本県熊本市出身で、熊本市立必由館高校を経て横浜商科大学に進学しておられます。高校時代は甲子園出場の経験はありませんが、大学では1年生の春からベンチ入りを果たし、2年生の時には日米大学野球選手権出場も果たされています。

そして4年生時には、神奈川大学野球の秋季リーグで6勝を挙げると共に最優秀投手賞とベストナインも獲得されました。三振の取れる左腕として高い評価を受け、2013年秋のドラフトで阪神タイガースから1位指名を受け入団されています。

大卒のドラフト1位投手は当然のように即戦力としての期待がかかる訳ですが、入団の年の春季キャンプ前の新人合同自主トレーニング中に発熱で6日間連続の静養を取らざるを得なかった等の事情もあり、シーズン開幕は二軍で迎えておられます。その後一軍への昇格を勝ち取り、8月には待望のプロ入り初勝利を挙げられましたが、結局この年は先発ばかりで6試合に登板して1勝4敗、防御率4.60という成績で終えられています。

巻き返しの期待された2015年は、岩貞選手と同年齢・同期入団、しかも同じ左腕の岩崎優投手との一軍の先発6番手争いに敗れ、再び開幕を二軍で迎えておられます。しかしその後一軍昇格を勝ち取り、1年目より早い6月に本拠地甲子園球場でシーズン初勝利を挙げられましたが、後が続かず結局5試合に登板して1勝1敗、防御率4.35という不本意な成績で2年目も終わってしまいました。

泣かず飛ばずのような状態で終わってしまった2年間でしたが、転機はシーズン終了後にやってきます。それまでの2年間で岩貞投手ご自身は、落ちるボールの精度を上げるという課題にきっちり向き合って来られたようですが、2015年シーズン終了後の秋季キャンプで取り組んだ、軸足の左足にしっかり体重を乗せた投球フォームがしっかり身につき、その後参加された台湾でのウィンターリーグでは、5試合に登板して2勝、防御率0.53、17イニングの投球で奪三振27という出色の成績を収められ、確かな手応えをつかんで帰ってこられました。

そして年明けの1月には、ご自身とフォームも似ている阪神タイガースの同僚であり大先輩でもある能見篤史投手と合同自主トレを行なう貴重な機会を得られました。能見投手のウィニングショットとも言える、直球と同じ軌道を描いて最後に落ちるフォークボールやチェンジアップの習得に努めると共に、打者との間のとり方等、実績を豊富に積んだ先輩投手から様々なことを学ばれたように思われます。

こうして迎えた2016年の開幕は、プロ入り後初めて一軍で迎え、開幕3カード目の横浜DeNAベイスターズとの第2戦(4月2日・横浜スタジアム)に満を持して先発され、7回被安打4本・無失点の好投で幸先よく今シーズンの1勝目を挙げられました。以降1週間に一度、きっちりローテーションを守って投げ抜かれ、4月末の時点で5試合に先発し34回3分の1イニングを投げて2勝1敗、しかもうち2試合はご自身が交代した後に後続のリリーフ投手が打たれて勝ちがつかなかったものであり、4勝1敗の成績となっていてもおかしくない好内容でした。

しかも投球の中身が素晴らしく、5試合を投げて自責点は3点、防御率0.79という文句のつけようのない成績です。ちなみにですが自責点の3点は読売ジャイアンツの大エース菅野智之投手と同じであり、防御率は菅野投手の0.56に次ぐリーグ2位の成績です。他にも奪三振数46はリーグ1位、5試合を投げてホームランを1本も打たれていないのは、セパ両リーグで規定投球回数をクリアしている39投手(5月1日時点)で唯一岩貞投手一人だけです。過去2年間、1勝ずつしか挙げられなかった防御率4点台半ばの投手とはとても思えない変貌ぶりです。

ここで少し観点を変えて選手とチーム(球団)の関係を経済活動に置き換えて考えてみたいと思います。球団は選手に高い契約金を支払うという形での投資を行ない、入団した選手に対する育成を行ないます。そして一軍に定着するとチームの戦力として、勝利への貢献を通じて投資の回収が始まります。投資と同時に戦力として働いてくれることが理想であり、それが故にドラフト1位の選手には即戦力としての期待がかけられる訳です。

しかしドラフト1位選手といえども簡単に芽は出ません。ドラフトの上位指名を受けるような選手には何か秀でたポイントがあるはずですが、その才能の芽が開花するかどうかは、あくまでも本人の努力次第です。そして本人の努力と共に、芽を出す為のサポートをしてあげることこそがコーチの役目なのだと思います。

併せてチーム(組織)として行なうべきサポートは、芽を出し始めた選手に機会(一軍での試合出場経験)を与えてあげることです。与えられたチャンスにひとつひとつ答を出して信頼を勝ち取っていく。一度や二度の失敗ではゆるがない信頼を得てはじめて、投手なら先発ローテーション、勝ちゲームのセットアッパー、あるいはクローザーという立場が与えられます。

岩貞投手は開幕からの一か月、5試合の登板を通じて一定レベルの信頼を勝ち得たことは間違いなさそうです。しかしこれから先、相手チームは徹底して岩貞投手を研究してきます。その包囲網を打ち破って一定レベル以上のパフォーマンスを維持し続けられた時、チームからの信頼はより強固なものとなるに違いありません。そして今シーズンの後半、岩貞投手が「左のエース」と呼ばれるようなレベルにまで進化していたならば、阪神タイガースが優勝争いの輪の中で戦いを繰り広げている可能性も高くなっていることでしょう。

この一か月間の岩貞投手の活躍が、ちょっと遅咲きの新戦力のひと時の目覚めではなく、永遠の覚醒であることを信じ、これから先の戦いを見守り続けたいなと思います。

(おわり)
2016/05/06

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筆者プロフィール

fukuyama福山義人氏 元 (株)CSKホールディングス社長
株式会社マネジメント・サポート 代表取締役 福山義人氏1949年生まれ。慶應義塾大学卒業後、現(株)SCSKに入社。創業オーナー大川功氏に師事し、新規顧客開拓担当、営業マネジャー、管理部門マネジャーを経て、2005年代表取締役社長に就任。退任後、(株)マネジメント・サポート設立。現在は、創業オーナーに仕えた経験と自らの社長経験をもとに、若手経営者へのサポート及び講演活動等に従事。

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